特集論文
島津評論 77〔1・2〕 85~92 (2020.9)
要旨
本研究の目的は,ホスホロチオエート修飾されたオリゴ核酸の定性分析および定量分析法の確立である。核酸医薬品として利用されるオリゴ核酸は,疾患の発症に関与する遺伝子のmRNA やmiRNA,あるいは標的タンパク質に直接結合する「分子標的薬」であり,10~30塩基からなる合成オリゴヌクレオチドである。質量分析法はELISA などの免疫検出法と比較して,サンプル調製やメソッド開発の面でより簡便な手法であり,わずかな化学修飾の差異を識別しながら,精密質量情報に基づいた目的成分の分子量確認や,構造の酷似する不純物の同定が可能な唯一の方法である。
本稿では,液体クロマトグラフ質量分析計を用いた核酸医薬品とその類縁体の分子量確認と定量系の構築について紹介する。分析に用いた核酸医薬品は,ミポメルセンと3種の類縁体である。多価イオンのマススペクトル・デコンボリューションの結果から,質量誤差1ppm 以下の精度で分子量の確認ができた。LC-QTOF-MSおよびLC-TQ-MS を用いた定量分析法の開発では,ホスホロチオエートに由来するプロダクトイオンをMRM (多重反応モニタリング)トランジションとして選択し,MRM による高感度な定量系を構築した。ホスホロチオエート修飾は,生体内での安定性を付与するために用いられる最も一般的な手法なので,さまざまな核酸医薬品に同様のMRM 測定法の適用が期待できる。
1分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部 MS ビジネスユニット博士(工学)
2分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部 MS ビジネスユニット博士(理学)
3分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター
*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。