特集論文
島津評論 75〔3・4〕 85~93 (2019.3)
要旨
多波長の蛍光X線を同時に計数できる波長分散型蛍光X線分析装置(PS-WDXRF: polychromatic simultaneous wavelength dispersive X-ray fluorescence spectrometer)を開発した。PS-WDXRF は試料を励起して発生させた蛍光X線を,平板分光結晶で分光し,マルチチャンネルの一次元アレイ型Si ストリップ検出器にて検出する装置である。従来の波長分散型蛍光X線分析装置に比べ,機械的な走査を必要とせず,試料からの蛍光X線を精密に捉えることができるという特徴を持つ。特に,遷移金属が発生する蛍光X線ピークの極微小な変動検出に有効で,金属元素の価電子状態の変化に伴うKα 線あるいはKβ 線のピークシフトを0.01 eV以下の精度で取得することができる。これは価数に換算すると0.05価以下の精度に相当し,リチウムイオン電池(LIB: Lithium Ion Battery)に使われる正極材料の化学状態分析などへの活用が期待される。
本稿では,LIB の正極材料を模擬した価数の異なる化合物(Mn,Co,Ni 化合物)について,それぞれ蛍光X線スペクトルを測定し,そのピークシフト量と価数との対応関係を明らかにする実験を行ったので報告する。
1基盤技術研究所 放射線技術ユニット
2分析計測事業部 X線/表面ビジネスユニット
*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。