特集論文
島津評論 75〔1・2〕 41~51 (2018.9)
要旨
フタル酸エステル類は可塑剤として広く使用されているが,内分泌かく乱物質として疑われており,ヒトの健康に影響を及ぼす可能性が指摘されている。このうちフタル酸エステル類の体内への主要な摂取経路である食事に含まれるフタル酸エステル類を精度よく測定することは重要であるが,分析難易度が高いことが知られている。
そこで本稿では食事試料中のフタル酸エステル類を分析するための前処理方法の検討結果と,より選択性の高いガスクロマトグラフタンデム質量分析計(GC-MS/MS)による多重反応モニタリング法(MRM)の有用性について報告する。食事試料中のフタル酸エステル類の前処理では,アセトニトリル抽出液からヘキサンを用いて脱脂する必要がある。しかし,DEHP(フタル酸ジ(2-エチルヘキシル))およびDnOP(フタル酸ジノルマルオクチル)は50 %以上がヘキサン層へ分配されるため,脱脂後のヘキサン層へのアセトニトリルによる再抽出を行う必要があった。また,ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)やフロリジル(MgO3Si)による精製を組み合わせることで7種のフタル酸エステルを80 %以上の回収率で測定することが可能であった。
これらの精製を経てもガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)による選択イオン検出法(SIM)を用いた測定では残留する夾雑成分由来のピークやベースラインの乱れが認められたが,MRMによる測定によってこれらの妨害が解消され,高精度な分析が可能となった。
1株式会社島津テクノリサーチ
2株式会社島津テクノリサーチ 博士(工学)
*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。