島津評論 Vol.73[1・2](2016)
特集 バイオミメティクス

特集論文

貝殻模倣素材の開発と物性評価

中 建介1中村 志穂2宮内 咲奈2西村 司3武内 誠治3

島津評論 73〔1・2〕 67~75 (2016.9)

要旨

バイオミネラルは生物が穏和な条件下で生み出す有機無機複合体であり,貝殻は炭酸カルシウム(CaCO3)と有機物のナノレベルで三次元的に高度な組織化構造を有する。生物は有機物を巧みに利用しながらCaCO3の数段階の結晶相転移を経ることで,その複雑な形状を構築していると考えられている。バイオミネラルが示す高機能特性はこのような複雑な構造に由来しており,これらの生成機構に倣うことで環境低負荷の新規高機能・高性能材料の創製が期待されている。本研究では,貝殻模倣材料の創製を目的とし,炭酸カルシウム複合薄膜の作製を検討した。準安定相CaCO3バテライト)微粒子を基板上に積層化し,相転移させることで安定相CaCO3(カルサイト)薄膜を得るという操作を繰り返すことで,貝殻の構造を模倣したカルサイト自立薄膜を得ることに成功した。得られた自立薄膜の力学特性を評価したところ,イワガキの真珠層と同程度の曲げ強度を持つことが示された。


1京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 工学博士
2京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科
3分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。