島津評論 Vol.73[1・2](2016)
特集 バイオミメティクス

特集論文

ヒザラガイの歯の組成分析

沼子 千弥1西埜 誠2谷口 博和3

島津評論 73〔1・2〕 49~56 (2016.9)

要旨

ヒザラガイは磁鉄鉱(Fe3O4)を主成分とする硬い歯を形成することで知られている。本稿では,蛍光X線分析,EPMA(電子線マイクロアナリシス,Electron Probe Microanalysis),X線回折,顕微ラマン分光法などを用いて,ヒザラガイの歯に含まれる鉱物成分とその二次元分布を検証した。蛍光X線分析とEPMAから,歯の主成分がFe,Ca,Pであること,また歯の内部でFeと(Ca+P)が負の相関を持って分布していることがわかった。X線回折で検出された鉱物成分は磁鉄鉱,針鉄鉱(α-FeOOH),鱗鉄鉱(γ-FeOOH)とハイドロキシアパタイト(Ca5(PO4)3(OH))であった。またラマン分光法により,非晶質の鉄水酸化物成分が共存している可能性が示された。これらの分析の結果から,ヒザラガイが,歯の鉱物種やその結晶性,そしてそれらの歯の内部での分布や添加のタイミングを制御するシステムを歯の成熟の過程で有していることが示された。


1千葉大学大学院 理学研究科 博士(理学)
2分析計測事業部 グローバルマーケティング部
3分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。