島津評論 Vol.66[3・4](2009)
特集 ライフサイエンス

特集論文

細胞解析チップ~生体内のがん細胞の挙動研究を目指して

務中 達也1叶井 正樹1木村 晋也3芦原 英司4阿部 浩久2庄子 習一5前川  平4

島津評論 66〔3・4〕 141~149 (2010.3)

要旨

著者らはμTASに基づく細胞機能解析チップ(細胞チップ)を開発してきた。このチップの培養室の容積は240nLときわめて小さいため,培養室中の溶液の見かけ上の粘性が上昇し,対流や攪拌の影響を受けない実験が可能である。また,微細加工技術により作製されたμインジェクタを利用し,数nLの液性因子を再現性良く注入できる。
本稿では,がん細胞の挙動を明らかにすることを目指し,細胞チップを用いた細胞間相互作用の研究を紹介する。まず,微小培養室中で浮遊性・接着性の株細胞・初代培養細胞が培養可能であることを示した。さらに,μインジェクタを用いて液性因子を注入し,点源から拡散に支配され拡がることを確認した。その後,免疫担当細胞であるγδT細胞ががん細胞に誘引されることによりがん細胞からの液性因子の分泌を模擬できることを確認した。
これらの結果により,著者らは,がん細胞の遊走や浸潤などの挙動研究に対して,細胞チップを用いた新しいアプローチを提案する。がんの根治を目指した基礎研究や創薬分野において,有用なツールとなると期待される。


1基盤技術研究所 マイクロTASユニット 博士(工学)
2基盤技術研究所 マイクロTASユニット
3京都大学医学部附属病院 医学博士 (現在:佐賀大学医学部)
4京都大学医学部附属病院 医学博士
5早稲田大学 工学博士
※所属名は論文作成時のものです。

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