島津評論 Vol.55[2](1998)
特集 医用画像機器X

特集論文

視線入力HMD装置の開発
―難病患者のQOL向上を目的とした意思・情報伝達装置の試作―

近藤泰志1征矢秀樹1深井克明2高橋洋史2熊澤良彦3吉田佳一1中島孝4福原信義4

島津評論 55〔2〕 215~220 (1998.10)

要旨

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は,発症から2~3年で完全な四肢麻痺となり,人工呼吸器がなければ生存できなくなる神経難病である。 しかし,知能,感覚,および眼球運動は正常であり,知的な創造活動は可能である。 ALS患者に唯一残された運動機能である眼球運動によって操作が可能な意思・情報伝達装置として,島津製作所の高解像度・シースルーHMD(ヘッドマウント ディスプレイ)See-Through Visionに視線入力機能を持たせた視線入力HMDの試作装置を開発した。 患者の眼球の動きを近赤外LEDとCCDカメラによって計測し,リアルタイムに視線検出を行うことで,患者は眼を動かすだけでマウスカーソルを制御できる。 また,マウスクリックは額などに取り付けたスイッチあるいは数秒間注視することで行うことができる。 HMDを使用することにより,広い視野角で画像を表示することができ,患者の姿勢による制限を受けずに高精度な視線入力が行える。 このHMDによって,患者は文章作成,音声発生,ナースコール,環境制御,さらに,電子メールやWWW(ワールドワイド ウェブ)によるインターネットを通じた情報収集,発信を行うことが可能になり,QOL(QualityOf Life)の向上に役立つと期待できる。


1基盤技術研究所
2航空機器事業部 技術部
3医用機器事業部 マーケティング部
4国立療養所 犀潟病院 医博
※所属名は論文作成時のものです。

※島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。