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2021年8月27日 | プレスリリース 国循と共同で東アジア特有の脳血管障害リスク遺伝子の検出技術を世界で初めて確立
島津テクノリサーチが医療機関から研究目的に限定した受託分析を開始

RNF213遺伝子p.R4810K多型検出用試薬キット(未発売)

RNF213遺伝子p.R4810K多型検出用試薬キット(未発売)
※本製品は受託分析サービスに用いますが、現状発売の予定はありません。

 

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳神経内科猪原匡史部長、服部頼都医長、吉本武史医師、齊藤聡医師らの研究グループおよび株式会社島津製作所(京都市、代表取締役社長:上田輝久、以下島津製作所)は、世界で初めてRNF213遺伝子p.R4810K多型(RNF213という遺伝子がコードするタンパク質の4810番目のアルギニンがリジンに変異する遺伝子多型、以下「本多型」)を血液1μLから直接リアルタイムPCR法によって検出できる技術(以下「本技術」)を確立いたしました。本多型は、脳血管障害リスク遺伝子の中でも、脳梗塞発症との関連が最も強いと考えられています。2021年9月1日から受託分析子会社の株式会社島津テクノリサーチ(京都市、代表取締役社長:福永秀朗、以下島津テクノリサーチ)は、国循との共同研究に参加する医療機関に向け、研究目的に限定した、血液検体中の本多型の有無を検出する受託分析を開始します。

背景

脳卒中の死亡者は年間11万人にのぼり、その7-8割を占めている脳梗塞は寝たきりや認知症の主要因で、直接の医療コストは年間 1兆円を超えています。我が国では欧米諸国と比べて脳梗塞の発症頻度が特に高く、欧米人とは異なる遺伝的要因の存在が疑われていました。

猪原部長らの研究チームは、もやもや病(*1)の発症に関係すると報告されている本多型が、脳の比較的太い血管の動脈硬化(*2)を主因としたアテローム血栓性脳梗塞の強力な感受性遺伝子(*3)であることを2019年に世界で初めて報告いたしました (Okazaki S, et al. Circulation 2019)。これまでの解析結果によると、本多型は、日本人健常者の2-3%、脳梗塞患者の約5%、頭蓋内の大血管狭窄 (もしくは閉塞) に起因する脳梗塞患者の25%が有しています。本多型は脳梗塞の病型診断に重要であり、我が国のみならず、東アジア各国の医師・研究者から、本多型評価システムの確立が求められています。

(*1) もやもや病:脳の血管に生じる病気で、内頚動脈という太い脳血管の終末部が細くなり異常な血管網が形成されることを特徴とする疾患である。脳出血や脳梗塞として発症することで知られる。
(*2) 動脈硬化:「動脈と呼ばれる血管の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が壊れ、働きが悪くなる病変」の総称。
(*3) 感受性遺伝子:単一遺伝子病の原因遺伝子のように遺伝子に変異があると必ず発症するというものではなく、変異があると発症しやすくなったり、逆に発症しにくくなったりする遺伝子。

成果

研究グループと島津製作所は、リアルタイムPCR装置を用いて、1µLの血液から実質1時間以内で本多型の有無を検出できる技術を確立いたしました。国循と島津製作所は、本技術に基づく脳梗塞のリスク評価に関する特許を共同で申請しました。またこの度、島津テクノリサーチによる本多型検出のための受託分析サービスを実現しました。
島津製作所は本技術向けに独自のAmpdirect™技術を用いてPCR検査試薬を開発しており、国循および島津テクノリサーチに提供していきます。同技術は「生体試料に含まれるたんぱく質や多糖類などのPCR阻害物質の作用を抑制できるため、DNAやRNAを抽出・精製することなく、生体試料をPCRの反応液に直接添加できる」というものです。島津製作所は、これまでにAmpdirect™技術を用いて、腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌、赤痢菌、ノロウイルス、新型コロナウイルスなどの病原体検出試薬を開発しています。

今後の展望と課題

これまで、一部の大学等の研究機関を除き、本多型の検出は困難でした。今後本受託分析により、本多型の有無の実態、本多型に関連する病態の解明が、飛躍的に加速することが期待されます。なお今回の受託分析は、患者の同意が得られた症例のうち、国循との共同研究に参加した医療機関からの依頼のみが対象です。一般からの分析希望は対象外となっております。今回は、国内の医療機関を対象に研究目的に限定した受託分析となりますが、研究グループは海外展開も目指してまいります。日本発の知見によって東アジア諸国の診療水準の向上に貢献していきます。