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2020年10月16日 | プレスリリース 息を用いた新型コロナ検査法を開発
呼気オミックスによる未来型呼気医療への展開

国立大学法人東北大学
株式会社島津製作所

研究のポイント

  • 東北大学は島津製作所との共同研究により、自然に吐く息(呼気)をサンプル(試料)とする「呼気オミックス」注1による新型コロナウイルス検査法の開発に成功しました。
  • 呼気オミックスは、呼気の中に存在するウイルスや、生体由来のタンパク質、代謝物を解析する最先端技術です。
  • 今後、新型コロナ対策のみならず、個別化医療、遠隔・在宅健康診断、各種疾病の診断・治療・未病予防などに応用し、革新的な呼気医療を展開します。

研究概要

新型コロナウイルスの迅速かつ高感度・高精度な診断、病期・病状の評価、重症化のリスク判定、予後・合併症の予測と診断などを下す検査法が切実に必要とされています。
東北大学大学院医学系研究科および加齢医学研究所は、株式会社島津製作所との共同研究により、「新型コロナウイルス対策に向けた呼気オミックス解析システム」開発に取り組みました(図1)。その成果として、従来の⿐や⼝(咽頭)からの試料採取・検査システムに替わる、自然に吐く息(呼気)を用いた無侵襲呼気オミックス解析法による検査システムを開発しました。
本解析法では、試料採取を簡便にするほか、多面的な解析結果が得られます。また、様々な感染症対策としても有効なほか、心血管・肺疾患、生活習慣病、動脈硬化、糖尿病などの代謝性疾患、がんなどの診断や健康管理、未病予防にも応用できます。将来的に遠隔医療などに展開して、呼気医療という未来型医療の確立を目指します(図2)。
本研究は、本年度文部科学省第1次補正予算による新型コロナ感染対策事業および内閣官房 新型コロナ対策AIシミュレーション事業の支援を受けて実施されました。

研究内容

新型コロナウイルスの感染拡大は社会経済活動に大きな制限をもたらし、生活のあり方を変えようとしています。新型コロナウイルスの迅速かつ高感度・高精度な診断、病期・病状の評価、重症化のリスク判定、予後・合併症の予測と診断などは、社会経済活動と医療体制を維持しながら感染拡大を阻止するうえで喫緊の課題です。
今回、東北大学大学院医学系研究科および東北大学加齢医学研究所は、株式会社島津製作所との共同研究において、令和2年度文部科学省1次補正予算(国立大学の研究基盤の強化)による新型コロナ感染事業「新型コロナウイルス対策に向けた呼気オミックス解析システム」により、2020年5月、東北大学医学部内に「呼気オミックス研究センター」を設置し、新型コロナウイルス診断法を開発してきました。
呼気オミックスは主として質量分析装置注2を用いたエアロゾル注3の精密分析の手法で、「被験者への無侵襲性」「得られる情報の豊富さ」が大きな長所です(図1)。東北大学が開発した高性能呼気エアロゾル回収装置を用いれば、5分間の安静時呼吸で、1mL程度の呼気凝縮液注4を、被験者自身の操作により得られます。自宅で呼気を収集できるようになれば、感染拡大の主要因となる無症状感染者・軽症者の早期特定、発症と重症化の早期予測と予防に有用な検査体制の構築が可能になります。
呼気オミックスでは、新型コロナウイルス感染の有無だけでなく、病期・病状の評価、重症化のリスク判定、予後・合併症の予測につながる情報も取得可能です。今回対象とする新型コロナウイルス以外の新型ウイルスにも対応でき、複数ウイルスの同時測定も可能なため、コロナ収束後も感染症対策に役立ちます。

今後の展開

東北大学と島津製作所は、呼気オミックスの応用範囲を感染症以外の病気の診断や健康診断などの健康医療分野へと広げることで未来型呼気医療に展開いたします。さらに、呼気や環境、ゲノム(遺伝子)といった各種オミックス解析情報のデータベースを構築することで、呼気医療による、心血管・肺疾患、生活習慣病、糖尿病などの代謝性疾患、がんなどの診断のみならず、呼気オミックスを活用した在宅での健康管理・健康診断などの遠隔医療を通じて、未病・予防と長寿に資する個別化未来型医療の開発を推進します(図2)。
島津製作所は、東北大学と開発した検査システムの社会実装のために、「前処理から質量分析、データ解析までの工程を自動化するトータルシステムの開発」「全国各地の中核病院や検査機関への検査システム水平展開と感染症対策ネットワーク構築」に取り組みます。

用語説明

注1. オミックス: 代謝物やタンパク質等の生体分子を網羅的に解析する技術。サンプル形態は特に限定されず、鼻腔・咽頭ぬぐい液、唾液、血液、尿、糞便など。環境オミックスでは、粉塵やダスト(下水)を分析可能。呼気オミックスでは、吐いた息を採取し、エアロゾル注3中のウイルスタンパク質・ゲノムと同時に被験者由来の炎症メディエータやエネルギー代謝物を効率良くかつ安全に回収し、ロボット化全自動高速・超高感度オミックス解析を行う。

注2. 質量分析装置: 試料をイオンに変換し、大きさ(質量)でふるい分けることによって、試料に含まれる成分の同定と定量を行う装置。適切な前処理を行うことにより、タンパク質をはじめとする様々な生体分子を分析対象にでき、一度に多数の成分を分析できることが特長。近年の高速化・高感度化に伴い、応用範囲が広がっている。

注3. エアロゾル: 浮遊する数ミクロン程度の微小な液体または、固体微粒子。

注4. 呼気凝縮液: 呼気を冷却凝縮し採取した液状サンプル。ウイルスタンパク質・ゲノムRNA、生体由来の代謝物が含まれている。

 

図1.呼気オミックスによる新型コロナ感染対策事業. 令和2年度文部科学省補正予算(国立大学の研究基盤の強化)対象事業.

図1.呼気オミックスによる新型コロナ感染対策事業.
令和2年度文部科学省補正予算(国立大学の研究基盤の強化)対象事業.

 

 

図2.呼気医療による個別化未来型医療の確立.

図2.呼気医療による個別化未来型医療の確立.

 

※ 本発表に含まれる製品は研究用です。医薬品医療機器法に基づく医療機器あるいは体外診断用医薬品として承認・認証等を受けておりません。治療診断目的およびその手続き上での使用はできません。