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2021年12月17日 | プレスリリース 2021年度島津賞・島津奨励賞受賞者決定
-研究開発助成は22件を選定-

公益財団法人 島津科学技術振興財団(理事長 中西重忠)は12月10日に開催した当財団理事会において、第41回(2021年度)島津賞受賞者1名、島津奨励賞受賞者3名、および研究開発助成金受領者(領域全般20名、新分野2名)を決定しましたのでお知らせいたします。

当財団は、科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で1980年に島津製作所の拠出資金により設立され、2012年4月に公益財団法人に移行しました。基本財産は約32億円です。島津賞は、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において、著しい成果をあげた功労者』を表彰するものです。島津奨励賞は2018年度に創設された顕彰事業であり、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において独創的成果をあげ、かつその研究の発展が期待される国内の研究機関に所属する45歳以下の研究者』を表彰するものです。また研究開発助成は、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究を対象とし、国内の研究機関に所属する45才以下の研究者』を助成するもので、2018年度からは、当財団が設定した科学計測に係る新しい分野を“新分野”として別枠で選出しており、今年度は『先進情報技術を用いた計測技術・解析技術の前線開拓分野』をテーマとして募集しました。

『新分野』は、『領域全般』と区別して助成を募集しています。今年度は、領域全般で20件、新分野で2件の総計22件を選出しました。採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

1.島津賞

当財団の推薦依頼学会に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および 理事会にて、受賞者1名を選出しました。

 

受賞者

理化学研究所 開拓研究本部
主任研究員  田原 太平

(受賞者には、表彰状・賞牌・副賞500万円を贈呈)

田原 太平 氏
研究業績 新しい超高速分光・界面非線形分光・一分子分光の開発による複雑分子系の研究
推薦学会 日本分光学会
受賞理由 科学技術の進展において新しい方法論は大きな役割を果たす。
田原氏は、先端分光計測の3つの主要な分野である超高速分光、界面非線形分光、一分子分光のそれぞれにおいて独創的な新しい計測法を開発した。それら新しい計測法が、様々な分野で、それまで観測不可能であった分子過程の詳細な観測を可能とした優れた業績を高く評価した。
研究内容

田原太平氏は超短パルスレーザー技術を駆使して、先端的分光計測の主要な3つの分野である超高速分光、界面非線形分光、一分子分光のそれぞれにおいて新しい計測法を開発し、分野を切り拓く独創的な研究を行った。

超高速分光において従来法の限界を大きく超える時間分解能を実現したラマン分光法注1である時間分解インパルシブ誘導ラマン分光法を開発し、タンパク質など複雑分子の反応過程を明らかにする道を拓いた。この方法では化学反応によって刻一刻変化する分子の構造変化を分子の振動の時間変化として観測するため、10兆分の1秒以下の光パルスを用いて反応中の分子に衝撃的に振動を誘起し、プローブ光で、その変化を読み出す。これによって光受容蛋白質の反応初期過程や分子集合体の化学結合生成過程など複雑分子系の重要な構造変化を次々と明らかにし、時間領域のラマン分光による構造ダイナミクス研究という分野を拓いた。時間分解インパルシブ誘導ラマン分光法は機能性分子の研究などにも盛んに利用され始めており、高い機能を持つ物質の開発に寄与している。

非線形分光注2の分野では、様々な化学過程が起こる場である界面(異なるバルク相注3の境界)を研究するほぼ唯一の計測法として利用されている和周波発生分光注2において、光パルスの干渉を利用して界面からのみ発せられる信号光の位相と振幅を決定するヘテロダイン検出和周波発生分光法を開発し、紫外可視および赤外/ラマンスペクトルと同等な界面分子のスペクトルを測定する道を拓いた。さらに、時間分解測定へ発展させることで、液体界面のダイナミクス研究を可能とした。その成果により、水表面でフェノール分子の光反応が水溶液中より1万倍以上速く進むことを見いだすなど、界面での反応の追跡を実現した。水の界面で進む反応の理解は環境科学に密接に関係しており、環境問題を考える上での重要な知見を与えるなど、優れた成果につながっている。

田原氏は、一分子分光においても、二次元蛍光寿命相関分光法(2D FLCS)という新しい分光法を開発した。生体高分子は他の分子と相互作用して構造変化や反応を起こすことで生命活動を維持させている。通常、生体高分子のこのような構造変化は熱励起によって誘起されるため、従来のポンプ-プローブ法注4に基づく時間分解分光注5では計測することはできない。田原氏が開発したフェムト秒光パルス励起と光子相関解析注6を組み合わせた2D FLCSは、熱励起による構造変化の検出において、従来法の限界を大きく超えるマイクロ秒での時間分解計測を可能にした。この計測により、細菌の転写制御注7に関わるmRNAのリボスイッチという部分が小分子との相互作用で大きく構造を変えるマイクロ秒ダイナミクスの検出に成功し、その転写制御機構の新しいモデルを提出した。2D FLCSから得られる生体高分子の構造変化の知見は、すぐれた薬品の開発にも寄与する成果と期待されている。

用語説明

注1 ラマン分光法
物質に光を照射すると発生する、分子の振動状態に応じて照射した光とは色の異なる微弱光(ラマン散乱)を検出することで分子構造などを調べる分光法。時間領域ラマン分光は、非常に短いパルス光を照射し、光信号の時間的な振動としてこのラマン散乱と同じ情報を得る方法で、非常に高速な測定が可能である。

注2 非線形分光・和周波発生分光
著しく強度の大きい光を照射すると、物質の応答は照射光の強度に比例しなくなり、その際に発生する様々な光学現象を利用した分光測定を非線形分光と言う。和周波発生分光はその一つで、強度の大きい2つの異なる光を照射し、物質境界の分子のみが発する両者の和のエネルギーをもった光を測定する。

注3 バルク相
液体や固体の内部のこと。物質が他の液体、固体、気体と接している部分を界面と呼ぶが、それ以外の内部の部分をバルク相と呼ぶ。

注4 ポンプ-プローブ法
物質の時間変化を測定するための最も一般的な実験原理。この方法では、まず、短い時間しか光らないレーザー光などを照射して物質の変化を開始させ(ポンプ)、それから適当な時間が経過した後に物質がどのように変化したかを、別の光を用いて観測(プローブ)する計測法。

注5 時間分解分光
物質の時間変化を計測する分光計測のこと。

注6 光子相関解析
2つの光子がどれくらいの時間間隔で発せられているかを調べる解析で、ナノ粒子解析や物質内部のナノ構造変化の解析などに使われる。

注7 転写制御
生物では、DNAに保存されている遺伝情報がRNAに移され、そのRNAを元にタンパク質が作られる。これをセントラルドグマと言うが、そのうちDNAの遺伝情報がRNAに書き写される過程を転写と言う。転写制御とは、この転写の過程を制御すること。

 

新しい超高速分光・界面非線形分光・一分子分光が解明する物質階層

新しい超高速分光・界面非線形分光・一分子分光が解明する物質階層

2.島津奨励賞

当財団の推薦依頼学会および当財団関係者に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および理事会にて、受賞者3名を選出しました。受賞者には、表彰状・トロフィ・副賞100万円を贈呈いたします。

 

受賞者

大阪大学 医学系研究科
教授  茂呂 和世

茂呂 和世 氏
研究業績 抗原非依存的アレルギー発症の責任細胞である2型自然リンパ球の発見と機能解明
推薦者 島津科学技術振興財団 理事
受賞理由 茂呂氏は、T細胞、B細胞、NK細胞等の免疫細胞とは異なる新しいリンパ球である2型自然リンパ球(ILC2)を世界に先駆け発見した(Nature2010)。従来、アレルギーは抗原に対するT細胞の過剰な反応が原因と考えられていたが、多様な遺伝子、タンパク発現解析によりILC2がアレルギーを誘導すること、さらにはILC2が気管支喘息やアトピー性皮膚炎を抗原非依存的に発症させる責任細胞であることが明らかにされ、新規診断法や治療法開発に発展している。ILC2の歴史はまだ浅いが、この発見が世間に与えたインパクトと他分野に与えた波及効果の高さは群を抜いている。茂呂氏の、計測技術を医学に応用し、存在すら知られていなかった細胞を発見、短期間に治療法開発まで発展させた、その業績を高く評価した。

 

受賞者

理化学研究所 脳神経科学研究センター
チームリーダー  村山 正宜 

村山 正宜 氏
研究業績 覚醒マウス脳の広域神経網の活動を検出できる2光子顕微鏡FASHIO-2PMの開発
推薦者 日本神経科学学会
受賞理由

村山氏は、国内10グループものエキスパート集団を連携させ、2光子顕微鏡FASHIO-2PM(Fast scanning, high optical invariant two-photon microscopy)を構築し、従来比36倍の9mm2におよぶ広い視野を、高解像度・高速撮像・高感度・無収差と同時に実現した。

開発したFASHIO-2PMは、細胞レベルで脳の動作原理を広域ネットワーク動態として捉えることを可能とするもので、FASHIO-2PMを利用することで可能となった研究成果により、神経科学における長年の謎に対する答えを権威ある学術誌で発表し、日本の産業界と学術界のレベルの高さを世界に発信した。本顕微鏡を用いることで、前人未踏の広域ネットワーク生理学分野を拓く可能性を示した、その業績を高く評価した。

 

受賞者

愛媛大学 宇宙進化研究センター
准教授  松岡 良樹

松岡 良樹 氏
研究業績 大規模観測データの高度処理による最遠方宇宙でのブラックホール大量発見
推薦者 日本天文学会
受賞理由

ブラックホールは極めて強い重力のため光すら脱出できない極限状態の天体であるが、中でも100万太陽質量を超える最重量の巨大ブラックホールについては、いつ、どこで、どのように生まれるのか明らかになっていない。

松岡氏は、超重量の巨大ブラックホール誕生の秘密を明らかにするために国際共同チームを率い、高度な情報処理手法を駆使して、100個以上に及ぶ大量の最遠方ブラックホールを発見することに成功した。

松岡氏の研究は、最新の観測機器が生み出すビッグデータに独創的な高度情報処理手法を適用することで、宇宙物理学の新たな地平を拓いたもので、発見天体は現在も、世界中の天文台や宇宙望遠鏡を用いた活発な追観測・研究の対象となっている。このように科学計測に本質的に関わる優れた業績である点を高く評価した。

 

3.研究開発助成(22件)

応募のあった中から、当財団選考委員会および理事会にて研究開発助成金受領者を下記の通り選出しました。1件あたり100万円の研究開発助成金を授与いたします。 科学計測に係わる領域を広く対象をしてとらえた「領域全般」への応募から20件を選定し、加えて、当財団が設定した科学計測に係わる領域で、今後重要となると考えられる新規な分野を対象として助成する「新分野」(今年度のテーマは、『先進情報技術を用いた計測技術・解析技術の前線開拓分野』)への応募から2件を、それぞれ選定しました。 採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

 

領域全般 20件(助成総額2,000万円)

 
 
研究者(五十音順)
研究題目
助成金額
1 筑波大学
数理物質系
助教  飯田 崇史
無機シンチレータでの発光波長と応答波形を用いた粒子識別技術の開拓 100万円
2 東京都立大学
理学研究科 物理学専攻
特任助教  上治 寛
時間領域サーモ反射分光法による縦型トランジスタの熱・電荷輸送のその場測定 100万円
3 北海道大学
大学院農学研究院
准教授  加藤 知道
若齢森林の太陽光誘起クロロフィル蛍光を用いた光合成量の実時間推定法 100万円
4 東北大学
電気通信研究所
助教  金井 駿
微細スピントロニクス素子における不確定性に関する研究 100万円
5 京都大学
大学院薬学研究科
助教  金尾 英佑
らせん状ナノ炭素材料を用いたキラル分離カラムの開発と機構解明 100万円
6 横浜市立大学
大学院生命医科学研究科
生命医科学専攻
助教  小沼 剛
膜蛋白質の創薬スクリーニングを目指した質量分析システムの開発 100万円
7 理化学研究所
脳神経科学研究センター
細胞機能探索技術研究チーム
基礎科学特別研究員  小松 直貴
細胞機能制御に関わるmTORC1信号活性波による情報Coding解読のための機械学習法開発 100万円
8 三重大学
大学院医学系研究科 生化学分野
助教  設樂 久志
網羅的に膜表面分子の機能計測を行うための光操作技術開発 100万円
9 東京大学
大学院医学系研究科
病因・病理学専攻
助教  高場 啓之
マルチオミクス解析による悪性腫瘍応答性ヘルパーT細胞システムの解明 100万円
10 慶應義塾大学
理工学部 機械工学科
専任講師  高橋 英俊
板状反力センサを用いたショウジョウバエの脈拍計測 100万円
11 宮崎大学
工学部 工学科
応用物理工学プログラム
准教授  武田 彩希
可搬型ガンマ線実時間撮像装置の実現に向けたデータ処理技術の開発 100万円
12 名古屋大学
大学院工学研究科 物質科学専攻
助教  土肥 侑也
2種の高速液体クロマトグラフ法による二次元シート状高分子の単離精製 100万円
13 東京理科大学
理工学部
准教授  中山 泰生
動作条件下での光電子計測による次世代薄膜太陽電池の動作機構の解明 100万円
14 九州大学
大学院医学研究院
人工関節生体材料学講座
助教  原 大介
高精度三次元動態解析・人工関節シミュレーションの股関節疾患治療への応用 100万円
15 東京理科大学
理学部第一部化学科
助教  星野 翔麻
単分子反応遷移状態イメージング分光法の開発 100万円
16 神戸大学
大学院 工学研究科
講師  松本 拓也
動的界面評価のための蛍光プローブの開発による界面学理の構築と可視化 100万円
17 神戸薬科大学
薬品物理化学研究室
助教  山﨑 俊栄
フリーラジカルの生体計測に向けた放射性プローブの開発 100万円
18 東北大学
電気通信研究所
助教  横田 信英
超高速偏光分解検波法による半導体内の光スピンノイズ発振現象の研究 100万円
19 国立がん研究センター研究所
がんRNA研究ユニット
独立ユニット長  吉見 昭秀
細胞内RNAの時空間的運命を追跡把握する異分野融合的計測法の開発 100万円
20 京都大学
大学院工学研究科
社会基盤工学専攻
助教  吉光 奈奈
断層の応力降下量推定のための岩石圧縮破壊の研究 100万円

 

新分野 2件(助成総額200万円)

【今年度の募集テーマ】『先進情報技術を用いた計測技術・解析技術の前線開拓分野』
 
研究者(五十音順)
研究題目
助成金額
1 大阪大学
大学院医学系研究科 統合薬理学
特任講師  稲生 大輔
表情画像と音声情報からマウスの心を読み解くAIの開発 100万円
2 理化学研究所
創発物性科学研究センター
研究員  星野 学
情報技術によるX線結晶構造解析の原子位置精度向上とタンパク質分子の結合次数評価 100万円

 

島津賞表彰式・研究開発助成金贈呈式、並びに島津賞受賞記念講演は、次の通り行います。

日 時 2022年2月15日(火)
次 第 表彰・贈呈式 13:30~14:30
    島津賞、島津奨励賞受賞記念講演  14:40~16:10
場 所 京都ホテルオークラ(京都市中京区河原町御池)

未だ、コロナ感染の影響下にあることを鑑み、出席者を限定し、三密を避けての開催とする予定です。
また、今後のコロナ感染の状況によっては、開催要項を変更する可能性があります。

報道関係の皆様からのお問い合わせはこちら(公益財団法人 島津科学技術振興財団)