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2020年12月11日 | プレスリリース 2020年度島津賞・島津奨励賞受賞者決定
-研究開発助成は23件を選定-

公益財団法人 島津科学技術振興財団(理事長 中西重忠)は12月3日に開催した当財団理事会において、第40回(2020年度)島津賞受賞者1名、島津奨励賞受賞者3名、および研究開発助成金受領者(領域全般20名、新分野3名)を決定しましたのでお知らせいたします。

当財団は、科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で1980年に島津製作所の拠出資金により設立され、2012年4月に公益財団法人に移行しました。基本財産は約10億円です。
島津賞は、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において、著しい成果をあげた功労者』を表彰します。島津奨励賞は2018年度に創設された顕彰制度であり、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において独創的成果をあげ、かつその研究の発展が期待される国内の研究機関に所属する45歳以下の研究者』を表彰するものです。

また研究開発助成は『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究を助成する』ものです(対象者は国内の研究機関に所属する45才以下(公募開始時点)で、国籍は問いません)。2018度からは、当財団が設定した科学計測に係る新しい分野を“新分野”として3件別枠で助成することとしており、総計23件を選出しました。今年度も『高度情報処理を用いた科学計測の高度化研究分野』をテーマとして募集しました。従来型の応募は『領域全般』と区別しています。採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

1.島津賞

当財団の推薦依頼学会に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および 理事会にて、受賞者1名を選出しました。

 

受賞者

名古屋工業大学 大学院工学研究科
教授   神取 秀樹

(受賞者には、表彰状・賞牌・副賞500万円を贈呈)

神取 秀樹氏
研究業績 ロドプシンのメカニズム研究と新規ロドプシンの発見・創成
推薦学会 日本化学会
受賞理由 超高速分光やタンパク質に結合した水分子1個を捉えることのできるオリジナルな赤外分光解析によるロドプシンのメカニズムの解明、さらには新しいロドプシン機能の発見や創成を実現した。これらロドプシン研究の成果は、光遺伝学の発展のみならず、視覚再生の遺伝子治療薬開発への寄与など幅広い応用に貢献したことを高く評価した。
研究内容

動物の視覚や微生物の光応答に関わるタンパク質がロドプシン(rhodopsin)であり、神取氏は独自の工夫を加えた分光学的手法を駆使してロドプシンのメカニズムの解明に挑戦し、その過程で新機能を有する多数のロドプシンを発見・創成しました。それらの成果は、光遺伝学注1(optogenetics)におけるツールの開発に大きく寄与しています。

我々の視覚で働く動物ロドプシンは、一度、光を吸収すると受容分子であるレチナール注2が外れてしまいます。その反応の詳細が解明されていない中、神取氏は超高速分光を動物ロドプシンに対して行うことで、光を吸収するレチナールが形を変える反応(異性化反応)が最初の出来事であることを明らかにしました。さらに、水の吸収が大きいことからタンパク質研究に有効に使われていなかった赤外分光を独自の工夫によりロドプシン研究に適用し、光がどのようにタンパク質に取り込まれ、それがどのように機能へと繋がるのかというメカニズムを明らかにしました。その代表例が霊長類色覚視物質の構造解析であり、色覚視物質の構造研究は現在も世界でオンリーワンです。赤・緑・青視物質が特有のアミノ酸や内部に結合した水分子を活用して色を見分ける仕組みの詳細が解明されようとしています。

1970年代、ロドプシンは動物だけでなくバクテリアなどの微生物も持つことが明らかになり、視覚のように光を信号に変換するだけでなく、イオンを輸送するなど様々な働きを持つことがわかってきました。2005年には、微生物のロドプシンを脳に発現させることで動物の行動を光で制御する光遺伝学という技術が開発され、脳研究に革新をもたらしています。光遺伝学に欠かせないツールがチャネルロドプシン、光駆動ポンプなどの微生物ロドプシンです。神取氏は微生物ロドプシンのメカニズム研究においても世界をリードする成果を挙げてきましたが、得られた分光データを活用して、新しいロドプシン機能の発見や創成を達成しました。具体的には、自然界から新しい機能を発見した例として、光駆動ナトリウムポンプ注3、内向きプロトンポンプ注4、新規チャネルロドプシン注5、酵素ロドプシン注6、ヘリオロドプシン注7などが挙げられます。未知の機能を創成した例としては光駆動カリウムポンプ、セシウムポンプなどを挙げることができます。また、これら新規ロドプシンは光遺伝学ツールとしての活用だけでなく、失明患者に対して視覚再生を実現する遺伝子治療薬として研究されるなど、幅広い応用が期待されています。

以上のように、神取氏は最先端の分光学的手法をロドプシンに適用することでメカニズムに関する新たな知見を得る一方、光遺伝学のツールとして高い可能性を持った新規ロドプシンを次々に開発しました。これらの新規ロドプシンの発見や創成には独自の分光技術が活かされており、神取氏のロドプシン研究は基礎、応用両面で高い評価を得ています。
用語説明

注1 光遺伝学
遺伝子操作によって微生物ロドプシンを神経細胞に発現させ、特定波長の光照射で神経活動を制御する技術。これにより電気刺激・薬物応答など従来技術では不可能だった細胞単位での神経興奮や抑制の制御が可能になり、脳神経機能の詳細を解明することが可能になった。

注2 レチナール
視覚の本体であるロドプシンの構成要素で、光刺激の受容に必須な物質。

注3 ナトリウムポンプ
細胞の内側から外側へナトリウムイオンを輸送し、神経興奮や心臓の拍動などの生命活動の基盤を作る極めて重要なタンパク質。光駆動ナトリウムポンプは微生物中で光を用いてこの働きを行う。

注4 内向きプロトンポンプ
生物体内で水素イオン(プロトン)を一方向に輸送するタンパク質で、通常は細胞の内側から外側にプロトンを排出する外向きポンプであるが、神取らによって微生物ロドプシンの中に逆向き(内向き)のポンプ機能が発見された。

注5 チャネルロドプシン
細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にあり、受動的にイオンを透過させるタンパク質であるイオンチャネル機能を有するロドプシン。

注6 酵素ロドプシン
酵素濃度を制御する機能を有するロドプシン。

注7 ヘリオロドプシン
2018年に神取らによって発見された。従来知られている2つの型いずれにも分類できないが、広く微生物やウイルスに含まれているイオンを輸送しない新規ロドプシン。未知の情報変換分子を介した光情報伝達に関わるものと推測されている。

2.島津奨励賞

当財団の推薦依頼学会および当財団関係者に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および理事会にて、受賞者3名を選出しました。受賞者には、表彰状・トロフィ・副賞100万円を贈呈いたします。

 

受賞者

大阪大学 産業科学研究所
教授   関谷 毅

関谷 毅 氏
研究業績 極薄・極軽量の生体電位計測システムとシート型医療機器の開発
推薦者 島津科学技術振興財団 理事
受賞理由 有機材料を活用したフレキシブルエレクトロニクスの基礎材料・物性研究および応用研究を進めることで、極薄・極軽量の生体電位計測システムを開発し、世界初のシート型脳波計測装置【パッチ脳波センサ】の実用化を実現しました。開発したシート型脳波計は、薄く柔らかいため額への装着時の違和感がなく、自然な脳波を計測できることから、医療、ヘルスケアや、マーケティングなど広範な分野において利用されています。

 

受賞者

東京大学 大学院薬学系研究科
准教授   花岡 健二郎

花岡 健二郎 氏
研究業績 新規蛍光母核をもつ実用的バイオイメージングプローブの創製
推薦者 過年度島津賞受賞者
受賞理由 独自の研究で、生体組織の透過性が高く、自家蛍光も低い長波長蛍光を有する新規蛍光母核(TokyoMagenta,Si-rhodamine)の開発に成功しました。これら化合物は、代表的蛍光化合物フルオレセインと同等の安定性、化学修飾のし易さ、水溶液中での強蛍光を有し、フルオレセインを利用して行われた研究のほぼすべてにおいて利用可能で、生命メカニズムの解明に大きく貢献しました。これまでに自ら6つの蛍光試薬の市販化に成功していることからも有用性も極めて高い化合物といえます。

 

受賞者

東京大学 大学院総合文化研究科
准教授  加藤 英明

加藤 英明 氏
研究業績 イオン輸送型ロドプシンの構造基盤解明とその応用
推薦者 日本生物物理学会
受賞理由 光駆動性陽イオンチャネルChRを始めとする神経細胞の刺激を制御する、多数のイオン輸送型ロドプシンの分子機構を明らかにし、その応用として【活性化光波長】【輸送されるイオン種類】【チャネルの開閉速度】などを改変した様々な光遺伝学(光によって細胞の膜電位を操作・計測をする近年神経科学分野を中心として急速に発展している革新的技術)ツールを生み出しました。この研究成果は、光遺伝学ツール開発のブレークスルーの一つとなり、光遺伝学を発展させることに大きく貢献しました。

 

3.研究開発助成(23件)

応募のあった中から、当財団選考委員会および理事会にて研究開発助成金受領者を下記の通り選出しました。1件あたり100万円の研究開発助成金を授与いたします。 科学計測に係わる領域を広く対象をしてとらえた「領域全般」への応募から20件を選定し、加えて、当財団が設定した科学計測に係わる領域で、今後重要となると考えられる新規な分野を対象として助成する「新分野」(今年度のテーマは、昨年度に引き続き『高度情報処理を用いた科学計測の高度化研究分野』)への応募から3件を、それぞれ選定しました。 採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

 

領域全般 20件(助成総額2,000万円)

 
 
研究者(五十音順)
研究題目
助成金額
1 島根大学
学術研究院 理工学系
准教授  荒川 弘之
特異値分解とベクトルトモグラフィーを適用したプラズマ乱流パターン観測法の開発 100万円
2 京都大学
大学院工学研究科 電子工学専攻
助教  石井 良太
100nm以下の空間分解能を持つ深紫外近接場光学顕微鏡の開発 100万円
3 福島大学
農学群 食農学類
准教授  石川 大太郎
近赤外イメージングによる生分解性プラスチックの分解挙動評価 100万円
4 東京理科大学
理学部第一部 応用物理学科
助教  石原 淳
スピンの空間分布の超高解像測定によるスピンダイナミクスの研究 100万円
5 兵庫県立大学
大学院生命理学研究科
細胞機能学講座
教授  生沼 泉
遺伝子機能のin vitroならびにin vivoにおける定量的比較計測法の開発 100万円
6 筑波大学
数理物質系 物質工学域
准教授  大石 基
金ナノ粒子組織体のプラズモン変化に基づく核酸1分子検出法の開発 100万円
7 東京大学
先端科学技術研究センター
特任准教授  大澤 毅
ニュートリオミクスを駆使した癌代謝適応システムの解明 100万円
8 長崎大学
生命医科学域(薬学系)
准教授  大山 要
異常タンパク質が形成する免疫複合体からの抗原エピトープ直接同定法の開発 100万円
9 福井大学
医学部 病態解析医学講座
放射線医学領域
助教  尾﨑 公美
非造影灌流MRIによる肝内血行動態解析法と肝硬変の新たな画像バイオマーカーの確立 100万円
10 愛媛大学
医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
助教  勢井 洋史
摂食・嚥下分野における新しい『簡易とろみ測定器』の開発 100万円
11 高知工業高等専門学校
ソーシャルデザイン工学科
准教授  高田 拓
高い装置回収率と姿勢精度を持つ低価格対流圏・成層圏気球観測装置の開発 100万円
12 筑波大学
数理物質系 物理学域
助教  新田 冬夢
遠方銀河探査用850GHz帯力学インダクタンス検出器焦点面アレイの開発 100万円
13 岐阜大学
大学院医学系研究科
神経統御学講座
教授  任 書晃
超高解像光干渉断層撮影法による生体内の外有毛細胞のナノ振動計測 100万円
14 自然科学研究機構
分子科学研究所
光分子科学研究領域
IMSフェロー  長谷川 友里
光電子分光強度パターンによる機能性有機分子薄膜の電子物性制御 100万円
15 東京医科歯科大学
大学院医歯学総合研究科
細胞生理学分野
准教授  平 理一郎
ライブコネクト―ム2光子顕微鏡の開発 100万円
16 横浜国立大学
教育学部 学校教育課程専攻
教授  筆保 弘徳
偏西風異常蛇行の室内実験と機械学習を組み合わせた予測モデル構築 100万円
17 熊本大学
大学院生命科学研究部
総合医薬科学部門 創薬科学分野
助教  増田 豪
油中液滴法を基盤とした1細胞プロテオミクス技術の開発 100万円
18 九州大学
大学院薬学研究院 創薬科学部門
生体分子情報学講座
助教  松岡 悠太
酸化リン脂質のノンターゲット解析とその応用 100万円
19 東京工業大学
科学技術創成研究院
未来産業技術研究所
助教  山田 哲也
並列化したイオン選択電極によるマルチチャンネル計測と多変量解析 100万円
20 群馬大学
大学院理工学府 分子科学部門
准教授  吉原 利忠
イリジウム錯体をプローブとする腫瘍内酸素分圧のリアルタイム計測 100万円

 

新分野 3件(助成総額300万円)

【今年度の募集テーマ】『高度情報処理を用いた科学計測の高度化研究分野』
 
研究者(五十音順)
研究題目
助成金額
1 東北大学
大学院工学研究科
航空宇宙工学専攻
学術研究員  小澤 雄太
超音速流体場のデータ駆動科学に基づく高速化画像計測法の開発 100万円
2 東海大学
医学部 内科学
研究員  後藤 信一
深層学習による心機能大規模解析を用いた心不全新規治療標的探索 100万円
3 名古屋大学
医学部附属病院 消化器内科
病院講師  古川 和宏
人工知能技術を用いた上部消化管粘膜下腫瘍に対する超音波内視鏡診断支援システムの開発 100万円

 

来年2月に予定しておりました島津賞表彰式・研究開発助成金贈呈式、並びに島津賞・島津奨励賞受賞記念講演につきまして、最近の新型コロナウィルス感染状況に鑑み、関係者の皆様の健康と安全、感染拡大の防止を最優先として、今回はやむなく開催を見送ります。

 

報道関係の皆様からのお問い合わせはこちら(公益財団法人 島津科学技術振興財団)