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2022年4月25日 | プレスリリース 世界最小サイズの発光酵素「picALuc」を東工大と開発
創薬や診断・検査などの用途開発に向けて試供品を社外に提供

島津製作所は、東京工業大学生命理工学院生命理工学系古田忠臣助教、東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所上田宏教授とともに実用可能な発光酵素として世界最小となる「picALuc」(ピカルック)の開発に成功しました。本成果は3月16日に生物-化学の境界学問分野で権威のある学術誌「ACS Chemical Biology」にオンライン掲載されました※1

「picALuc」はライフサイエンス分野の基礎研究から新薬候補物質の探索(以下、創薬スクリーニング)・診断・検査まで幅広く貢献できる可能性を秘めています。発光酵素を含むレポータータンパク質の市場規模は、世界で年間3000億円と見られています。島津製作所は2023年までの「picALuc」製品化を目指しており、その改良および用途開発に協力いただける国内の研究機関・企業にサンプル(試供品)を提供いたします。また、日本顕微鏡学会第78回学術講演会(5月11~13日)、日本蛋白質科学会第22回年会(6月7~9日)、第60回生物物理学会年会(9月28~30日)で開発に従事した当社研究者が発表いたします。

イラスト:世界最小の発光酵素「picAluc」(ピカルック)

イラスト:世界最小の発光酵素「picALuc」(ピカルック)

発光物質が光を放つ化学反応を触媒する発光酵素は、自然界ではイカやエビ、ホタルが体内に有しています。近年、発光生物の遺伝子を基に人工的に作られた発光酵素が、発光特性を生かした指標(レポータータンパク質)として使われています(図1)。標的となるタンパク質にレポータータンパク質を融合させると、発光によって標的の位置や発現量が分かります。そのため、リガンド(薬剤)を引き寄せるレセプターに発光酵素を付けておけば、創薬スクリーニング・検査・診断の際に指標となります。

レポータータンパク質としての発光酵素には、明るさや熱安定性に加えて、20 kDa(キロダルトン、分子量の単位)以下のサイズが望まれます。酵素が大きいと「標的の挙動を阻害する」「標的と発光酵素との融合タンパク質を作製する際、正しい構造が生成しにくい」といった問題が起こり得るためです(図2)。そこで、当社と東工大の研究グループは、カイアシ類由来発光酵素ALuc®(21 kDa)の発光活性を維持したまま、発光活性にほぼ影響を与えないタンパク質構造を削ることによって分子量13 kDaのサイズまでALucを削り、発光酵素「picALuc」を開発しました(図3)。13 kDaは、実用レベルの発光酵素として世界最小サイズです(図4)。

レポータータンパク質とは?

 

レポータータンパク質のサイズによる影響

 

picALuc

 

既存の発光酵素とpicALucのサイズ

 

「picALuc」を哺乳類由来培養細胞Cos-7細胞を利用して作製した時、既存の発光酵素の中でも最も高い発光活性を持つALuc®やトゲオキヒオドシエビ由来NanoLuc®と比較して、同等の発光値を示しました(図5)。さらに、大腸菌を利用した大量製造に成功しており、産業利用のための安定供給にも問題はありません。熱安定性については、汎用的なレポータータンパク質として利用されているFLucを60℃で5分間加熱すると全く光らなくなるのに対し、「picALuc」は80℃で10分間の加熱後でも80%以上の発光値を示し、37℃で24時間の加熱後もほぼ100%の発光値を維持します。特に、分子間相互作用検出のための汎用法であるBioluminescence Resonance Energy Transfer (BRET) based assayに「picALuc」を用いたところ、NanoLuc® (19 kDa)よりも高い応答が観察され、「picALuc」の優位性が示されています。

picALucの明るさ

 

島津製作所は、発光酵素「picALuc」の改良および用途開発に協力いただける国内の研究機関・企業にサンプル(試供品)を提供いたします。サンプル(試供品)を希望する方は、下記の問い合わせフォームより所定の事項を記入してお申し込みください。多くのご要請をお待ちしております。

「picALuc」サンプル問い合わせフォーム
https://solutions.shimadzu.co.jp/form/press/picaluc/contact.html

 

※1 Ohmuro-Matsuyama Y.; Furuta T.; Matsui H.; Kanai M.: Ueda H. Miniaturization of the bright light-emitting luciferase ALuc: picALuc. ACS Chemical Biology. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acschembio.1c00897

※2 正式名称: Firefly Luciferase

※3 正式名称: Renilla Luciferase

※4 正式名称: Gaussia Luciferase

※5 正式名称: Artificial Luciferase。産業技術総合研究所金誠培研究員が開発した

※6 Promega製品