FRPの繊維配向性を広視野で観察する位相コントラストX線CTシステム

車体材料ソリューション

温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、いわゆる「カーボンニュートラル」の実現に向け、環境負荷を低減する新素材の研究開発が加速しています。自動車業界においては、自動車の電動化の研究が進んでいますが、ガソリン車と比べて航続距離が短いという課題があります。そこで、重量物である金属の代替品として、金属と同等の強度でかつ軽量である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が着目されており、製品への適用に向けた研究開発が盛んに行われています。当社の位相コントラストX線CTシステムは、従来困難であった広視野でのCFRPの観察を可能にしました。

CFRPの内部観察における
従来のX線吸収イメージングの課題

熱可塑性樹脂をベースとしたCFRPにおいては、チョップドカーボンと呼ばれる短い炭素繊維を混合して成型されます。成型後の製品の力学特性は、繊維の長さ、繊維含有率や繊維配向性などによって決まりますが、金属や樹脂のような単一素材と比べてCFRPは強度設計や破壊機構が複雑であり、未解明な部分が多いため、内部の炭素繊維の状態を「非破壊」で観察したいという強いニーズがあります。物体内部を非破壊で観察する技術としては、X線透視/CTシステムに使用されているX線吸収イメージングが一般的です。しかしながら、炭素繊維の観察において、従来のX線CTシステムでは、CFRP繊維を観察するには数mm程の視野範囲にまで拡大する必要があるため、観察視野が狭く、物質全体の繊維配向情報を調査することが困難でした。つまり、従来のX線CTシステムでは「視野と分解能の両立」に対して大きな課題がありました。

X線観察は新たなフェーズへ

上記の課題を解決するために開発されたのが、X線位相イメージング技術です。X線位相イメージング技術とは、物質をX線が透過する際に生じる位相変化をコントラストとして3次元画像にする手法です。当社が開発したXctal 5000 は、従来のX線CTシステムで検出していたX線の吸収情報に加え、X線の散乱と屈折情報を同時に検出でき、広視野での微細構造群の観察を実現しました。それに加えて、軟組織や軟素材などの吸収差がないワークにおいても材料間の密度差を利用して高コントラストで観察することも実現しました。つまり、一度の撮影で吸収像、散乱像、屈折像の3種類の画像を取得することが可能となりました。

【 図1 位相コントラストX線CTシステム Xctal 5000 】

【 図2 X線吸収像、散乱像、屈折像での比較(試料は手羽先) 】

吸収像
従来のX線CTシステムでも検出していたX線の吸収差を可視化した画像です。ワーク内部の詳細な形状の観察が可能です。
散乱像
微細構造群による散乱を可視化した画像です。最大100mmの視野サイズでも微細なクラックの検出が可能です。また、「繊維配向解析機能」を搭載し、広視野で繊維の流れの観察が可能です。
屈折像
密度差を可視化した画像です。材質の異なる樹脂製品等、吸収差がないワークでも高コントラストでの観察が可能です。

当社の位相コントラストX線CTシステムは、回折格子によるX線の干渉を利用することで、位相変化を検出できる新しい撮影方式を採用しています。

【 図3 位相コントラストX線CTシステムの構成イメージ 】

吸収、散乱、屈折のアンサンブルが生み出す
材料観察のあらたな手法

当社の位相コントラストX線CTシステムXctal 5000はX線の吸収像、散乱像、屈折像の3種類の画像を撮影することが可能です。各画像を状況に合わせて使い分けたり、組み合わせて活用したりすることで従来手法より観察が容易になります。以下に、その例を紹介します。

「広視野×微細構造」観察の両立

「散乱像」は、観察対象の内外の微細構造群によるX線の散乱を可視化した画像です。広視野で撮影した「散乱像」(図4左)から、ワーク全体における繊維束の流れ、クラックなどの微細構造群の有無や位置に見当を付けることが可能です。加えて、拡大撮影した「吸収像」(図4右)から、微細構造群の詳細な形状が観察できます。

【 図4 傷のあるCFRPクロス材(左:「散乱像」、右:従来の「吸収像」) 】

繊維配向の観察

撮影した複数枚の散乱像から繊維束の流れを配向角度に合わせてカラー表示することで、繊維束の流れを直感的に理解することができます。

【 図5 CFRPクロス材の断面画像と繊維配向カラーマップ 】

「吸収と屈折の二刀流」

「屈折像」は観察対象の密度差を可視化した画像です。材質の異なる樹脂製品等、吸収差がないワークでも高コントラストでの観察が可能です。例えば、水とアクリルでは吸収係数の差が小さいため、従来の吸収像ではその境界が不明瞭ですが、密度差の違いは大きいため、屈折像の方が高コントラストで観察できます。屈折像は、密度差が約0.2g/cm3以上ある場合、高コントラストで観察できます。

【 図6 水とアクリル棒(左:「屈折像」、右:従来の「吸収像」) 】

X線イメージング技術で新たな価値を

当社は一世紀以上前からX線装置を手掛けており、国内におけるリーディングカンパニーの1つです。当社はこれからも新しい価値を提供できるX線製品開発に取り組んでまいります。

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