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2020年10月20日 | 新着情報 論文紹介:Pseudomonas属細菌の新種発見をささえるMALDIマススペクトルの統計解析

当研究所と順天堂大学医学部 遠矢真理 博士ら【教授 切替照雄】との研究チームは、ミャンマーの入院患者の創部のスワブ検体からPseudomonas oleovoransグループに属する新種の細菌3株を発見しました。これら3菌株は、全ゲノム解析や脂肪酸組成などから、P. oleovoransグループのP. guguanensisおよびP. mendocinaと類縁性が高いものの異なる種であることが明らかとなりました。同研究チームはこれら3菌株を新菌種としてP. yangonensisと命名しました。

この研究成果はInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 2020, 70, 3597-3605に掲載されました。

研究の概要

Pseudomonas属細菌は、同属内にいくつもの系統をもつ大きな分類群です。自然環境に広く分布しており、そのほとんどは動植物に対して有害性をもちません。
しかしごく一部の菌種はヒトに感染することが知られています。例えば、P. oleovorans subsp. oleovoransP. mendocinaの2菌種は、P. oleovoransグループの他の菌種とは異なり、患者から分離されたことが報告されています。

今回発見された3菌株は、ミャンマーの医療現場における薬剤耐性菌調査の結果、3人の患者の創部スワブ検体から分離されました。生化学的性状検査ではいったんP. putidaと同定されましたが、その後全ゲノム比較等を行った結果、これら3菌株はP. oleovoransグループの新種であることがわかりました。

3菌株と複数の類縁菌株の菌体試料をMALDI-MS分析し、タンパク質のMALDIマススペクトルを比較したところ、3菌株を特徴づける4つのタンパク質由来のピークが見つかりました。

これらMALDIマススペクトルのピークリストを、当社の統計解析ソフトウェアeMSTAT Solution™を用いて主成分分析した結果、スコアプロットにおいて3菌株は他の類縁株とは異なったクラスターを形成しました。
質量分析によるタンパク質の分析結果からも、これら3菌株が新種であることが示されました。

 

図1)新種P. yangonensis MY50T, MY60, MY101, およびP. oleovoransグループの近縁種のm/z 11200~13000におけるMALDIマススペクトルの比較

図1)新種P. yangonensis MY50T, MY60, MY101, およびP. oleovoransグループの近縁種のm/z 11200~13000におけるMALDIマススペクトルの比較

3菌株の新種P. yangonensisとその他P. oleovoransグループのMALDIマススペクトルは似通っており、同じm/z値に観測されているピークが多く観測されています。しかし、いくつかのピークは、ほかの近縁種とは異なるm/z値に観測されていることが分かりました。(本論文より引用)

図2)MALDIマススペクトルの主成分分析スコアプロット

図2)MALDIマススペクトルの主成分分析スコアプロット

3菌株のP. yangonensisのMALDIマススペクトルパターンがP. oleovoransグループの近縁種とは異なることが示されました。(本論文より引用)

発表誌:

Mari Tohya, Shin Watanabe, Kanae Teramoto, Tatsuya Tada, Kyoko Kuwahara-Arai, San Mya, Khwar Nyo Zin, Teruo Kirikae, Htay Htay Tin
Pseudomonas yangonensis sp. nov., isolated from wound samples of patients in a hospital in Myanmar”
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 70, 6, 3597-3605, 2020
DOI: 10.1099/ijsem.0.004181