2025年1月16日 | 新着情報 第26回腸管出血性大腸菌感染症研究会において奨励賞を受賞
当研究所と大阪健康安全基盤研究所が第26回腸管出血性大腸菌感染症研究会において共同発表した「AsrをバイオマーカーとするE. albertiiとE. coliの鑑別法に関する検討」が奨励賞(基礎部門)を受賞しました。
大腸菌(Escherichia coli :E. coli)の一部にはベロ毒素を産生するものがあり、これが原因となって血便などの食中毒症状が現れることもあり、腸管出血性大腸菌感染症と呼ばれています。一方、近年の研究ではEscherichia albertii (E. albertii)の一部にもベロ毒素を産生するものがあると報告されていますが、大腸菌とは異なる菌種であり、感染経路の追跡や公衆衛生の観点などから区別(鑑別)する必要があります。しかし、両者は生化学的性状を調べる試験やMALDI-MSを用いた従来の微生物同定検査では鑑別が難しく、新たな方法が求められています。
当研究所では腸内細菌目細菌が酸性条件下で産生するアシッドショックプロテイン(Asr)に着目し、Asrをバイオマーカーとした鑑別法を開発しました(特許第7205616号)。Asr遺伝子には多様性があり、属種間でアミノ酸配列が異なることが多いため、AsrをバイオマーカーとしてMALDI-MSで分析することで、両者を鑑別できる可能性があります。
本研究会では、「AsrをMALDI-MSで分析した後、そのマススペクトルを比較することで、E. albertiiとE. coliを鑑別できることが示唆されたこと」、および「AsrをMALDI-MSで測定するための試料調製法の改良により、作業時間が大幅に短縮されたこと」を主題として発表し、奨励賞受賞に至りました。
発表者の空翔太は次のようにコメントしています。「腸管出血性大腸菌感染症研究会は著名な研究者の皆様が集まり、貴重な知見を共有する場であり、私にとって大変刺激的な経験でした。この研究を通じて、少しでも腸管出血性大腸菌感染症に関する問題の解決に貢献できるよう、今後も引き続き研究に励み、より良い成果が上げられるように努めてまいります」
受賞対象
演題 | 要旨 |
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Asr をバイオマーカーとするE. albertiiとE. coliの鑑別法に関する検討 | Escherichia albertiiは生化学性状が類似するEscherichia coliと鑑別が困難な菌種である。質量分析法(MALDI-MS)を用いた微生物同定でも同様に、E. albertiiの同定結果としてE. coliが出力される場合がある(IASR, 39 (5) p84: 2018)。Acid Shock Protein(Asr)は、腸内細菌目細菌をグルコース含有培地で培養することで産生される。我々は、Asrが腸内細菌目細菌の菌種を鑑別するバイオマーカーになりうること、遺伝子情報から予測されたAsr断片がMALDI-MSで容易に観測できることを報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun, 2024, 732, 150407)。本研究では、Asrをバイオマーカーとすることで、E. albertiiとE. coliを鑑別することが可能かを検討した。また、MALDI-MSでAsrを測定するための試料調製では増菌培養後にグルコース含有培地で18時間以上培養する必要があった。そこで作業時間短縮のため、改良法についても検討した。 |
発表者 | |
空翔太(1)・児嶋浩一(1)・若林友騎(2)・西嶋駿弥(2)・坂田淳子(2)・関谷禎規(1)・岩本慎一(1)・田中耕一(1)(1. 島津、2. 大安研) |
発表者の空翔太
関連リンク:
Koichi Kojima, Yuki Wakabayashi, Shunya Nishijima, Junko Sakata, Sadanori Sekiya, Shinichi Iwamoto, Koichi Tanaka,
“Characterisation of glucose-induced protein fragments among the order Enterobacterales using matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry”
Biochem. Biophys. Res. Commun. 2024, 732, 150407
DOI:10.1016/j.bbrc.2024.150407