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File No.03

天体の質量はどうやって量る?

偉人が生み出した頭の中の“はかり”

身近で遠い月の量り方

付かず離れず地球の周囲を回り、夜空にひときわ明るく輝く月。その質量は、はかりに載せたわけでもないのに、約7千京トン(京は10の16乗)であることがわかっています。いったいどうやって量ったのでしょうか。

17世紀、天体物理学者の先駆けとも呼ばれるケプラーは、太陽と惑星の軌道に不思議な関係があることを突き止めました。太陽と惑星の距離(r)の3乗と惑星の公転周期(T)の2乗の比は、どの惑星でも同じ。地球の公転周期は1年で、太陽の間の距離を1とすると、rの3乗÷Tの2乗は1。一方、金星から太陽まで距離は0.72で、公転周期は0.62年ですから0.97で、ほぼ1です。火星にも木星にも、この関係は当てはまります。これは「ケプラーの第3法則」と呼ばれ、今日まで天文学の基本的な原理として使われ続けています。

ここにもう一つ法則を組み合わせてみましょう。ご存知、ニュートンの万有引力の法則です。あらゆる物体は重力を持っていて、それは質量に比例します。惑星は、太陽とお互いに重力で引っ張り合っていますが、公転による遠心力が働き、太陽に引き寄せられることなく、力が釣り合うところを周回しています。つまり太陽と惑星の距離と、公転周期は、その質量とも一定の関係があるのです。

ちょっと難しいのですが、これを式で表すと、次のようになります。

太陽と惑星の距離の3乗/惑星の公転周期の2乗=C(太陽の質量+惑星の質量)

C:万有引力定数を4と円周率の二乗で割ったもの

ここに実際の数字を当てはめると、地球の双子惑星の異名を持つ金星の質量は地球の約0.8倍。太陽系最大の惑星、木星は約318倍です。

さて、お次は月です。この公式は、太陽と惑星の関係を地球と月に置き換えても同じ。そして、もし月の周りをなんらかの天体が回っていれば、月とその天体の間でも同じ公式が当てはまります。

もちろん、月の周りを周回する天体はありません。しかし、人工衛星を飛ばせば別。2009年に月を周回したかぐやの質量は約3000kgで、高度100kmの周回軌道を約2時間で一周しました。この数値を公式に当てはめると、月の質量は6755京トン。はじめに示した値と一致します。

好奇心は遥か彼方まで

他にもいろいろな計算方法がありますが、この方法は天体の質量を計算する方法として、もっともよく使われるもので、はるか何光年も彼方の星の質量を量るのにも使われています。

太陽系から約4光年離れたケンタウルス座α星は太陽の1.1倍、約8光年離れたシリウスは太陽の2倍です。

「ちょっと待って! 恒星なのに、どうして同じ方法が使えるの?」と思った方は鋭い視点の持ち主。実を言えば、夜空に輝く恒星のうち、約半分は“兄弟星”を伴っていることがわかっています。つまり、2つ以上の恒星がお互いに重力で引き合って公転軌道を描く連星なのです。公転しているのであれば、互いの距離と公転周期から合計の質量がわかります。

それぞれの恒星の質量を求めるには、そこからもう一工夫。軌道の重心からの距離を測ります。

例えば、フィギュアスケートの男女ペアがお互い手を取り合ってスピンをすると、男性の方が重心に近い内側を回転し、女性は外側を回るようになります。これは連星も一緒。重い恒星は重心に近く、軽い恒星は遠いところを回っています。重心からそれぞれの恒星までの距離を測れば、それぞれの恒星の質量が算出できるというわけです。

もっとも、それも望遠鏡などで正確な距離が測れてこその話。そのため、観測技術の発達に伴って、星の質量もしばしば更新されています。

観測技術の進歩はさらに多くの情報を私たちにもたらしてくれています。太陽系外惑星の大気の成分や大地の構成原素、さらに環境まで明らかになりつつあります。いつか地球と同じように、生命を育む星も見つかるかもしれません。

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