Vol.50 表紙ストーリー

Vol.50表紙
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SNSに投稿する際、20歳代女性の6割が「映え」や「盛る」ことを目的に写真加工アプリを「利用している・したことがある」という調査データがあります。ただし、盛りすぎはNGで、“さりげなく”が重要。「自分らしさ」を表すことがポイントで「本当に自分と合う人を探す」ためなのだそうです。
また、直近1か月でフェイクニュースに接したことのある割合は75%というアンケート結果があります。フェイクニュースには、誰かの信頼を失墜させるもの、「いいね」を狙うもの、単なるユーモアなどがありますが、いずれも虚構を用いて煽動したりミスリードを目的としたものがほとんどです。
自分をよく思わせたり、虚構を用いるといったコミュニケーションはなぜ存在するのでしょうか。

認知・進化人類学の権威、ロビン・ダンバーは著書のなかで、私たちホモ・サピエンス(知恵のあるヒト)は群れを大きくする過程で「毛づくろい」という一対一のスキンシップの代わりに一対多を可能とする言葉の進化を獲得したという説を提唱しています。
毛づくろいによって脳からエンドルフィンというホルモンの分泌が促され、心地よさが報酬となり互いの信頼感を強くする。群れの維持には必須の行為です。信頼は自分の味方を増やし、群れの中での自分の立場を確立するためのもっとも重要なファクターだったのです。
私たちの祖先はある頃から、事実を伝えるための言葉から、話し相手の想像力を推測することが必要となるうわさ話(ゴシップ)や、少し盛ったひけらかし、笑えるくだけた雑談ができるまでになりました。ヒトの人たる所以です。

気分のいい会話はエンドルフィンの分泌を促します。
楽しい会話は3人をいっぺんに「毛づくろい」するのと同様の効果を発揮しました。その結果、50人以上にするのが難しかった群れの規模を3倍にすることに成功したというのがその主張です。

さらに、神秘的な出来事や存在といった虚構や想像の物語を語ることや、トランス状態をつくり出す歌や踊りの儀式を求心力として巧みに使うことで、精神世界を共有したり安心感や結束、実体を超えた枠組みへの帰属意識を高めました。そのことが、ややもすると起こる分裂や抗争を防ぎ、大きな社会の実現に役立ったのではないかと論じています。
虚構というツールが生まれた古代社会と比べ、桁違いに巨大となった現代社会。さらに虚構そのものでもあるバーチャルなインターネット空間では、皮肉なことに分断や対立を生み出す“諸刃の剣”としての側面ばかりがクローズアップされているのです。

私たちが古来持っている「自分をよく見せて好意を持ってもらいたい欲求」「都合のよい真実や虚構で仲間を増やしたい欲求」から生み出された「うわさ話」や「虚構」は、アダムとイブに「善悪の知恵の樹」の実を食べさせた蛇(悪魔)の誘惑のように魅力的なものなのです。

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株式会社 島津製作所 コミュニケーション誌