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グンゼ株式会社/グンゼスポーツ株式会社

健康への願いに応えたい

健康への願いに応えたい01
健康への願いに応えたい02

社会の高齢化が進む一方、医療費の削減を求める声が高まり、
健康市場に多くの目が注がれている。
従業員の健康管理に戦略的に取り組む健康経営を重要な指針に据える企業も増え、
まさに国ぐるみで健康増進を図ろうという機運がある。
そうしたなか、健康・医療事業へ注力するグンゼグループに、取り組みの経緯を聞いた。

地元に溶け込むスポーツクラブ

「わたし、いくつに見える? 若いやろ。全部グンゼさんのおかげや。うまいこと書いたってや」
午後のスポーツクラブ。首からタオルを下げた中年女性が陽気に話しかけてきた。
兵庫県尼崎市の「グンゼスポーツつかしん」は、1986年からスポーツクラブ運営を手がけるグンゼスポーツ株式会社の1号店。30年間通い続けているという会員も少なくない。西日本を中心に18店舗を構え、島津製作所も健康経営施策の一貫として法人契約している。
1896年の創業以来、肌着を中心に日本のアパレルを牽引してきたグンゼ。今でもこの分野では業界随一の地位を保ち続けているが、意外なことにグループ全体の売上に占めるアパレル部門の割合は半分以下だ。1960年代以降、積極的に新規事業を開拓しており、特にポリマー技術を生かしたプラスチック事業では、包装材や医療用縫合材、タブレット端末に使われるタッチパネルなどで高いシェアを獲得している。
スポーツクラブ事業も、新規事業として立ち上げられたものの一つだ。異業種からの参入にもかかわらず、30年以上にわたり着実な成長を続けてきた。
「サービスメニューも価格も、一店舗として、同じ店舗はない。その地元の特性に合わせた経営を徹底している」と佐藤雅之社長は、成功の秘訣を明かす。
多店舗展開する場合、効率を考えればおよそどんな事業でもビジネスモデルを共通化したほうが合理的だ。だが、グンゼスポーツクラブはその逆を行った。出店のたびに立地に合わせて最適のサービス内容を構築。手間はかかるが、その分、地元に受け入れられやすい。
加えて地域の小学校の運動会、町内のお神輿担ぎ、餅つきなどに、ボランティアでスタッフを派遣もする。
「スタッフの体力だけは自信がありますからね。どこへ行っても喜ばれます」
地域のニーズを的確に捉え、その一員となることで、息の長いビジネスを実現してきたのだ。
現在、国をはじめとする行政は「健康まちづくり」事業を推進している。超高齢社会の到来を見据え、医療機関、介護、フィットネス、保育を充実させ、高齢者はもちろん、あらゆる人々の健康増進を図ろうとするものだ。
「当社の施設には、子どもを預かる施設もあれば、高齢者向けの健康維持プログラムもある。町に溶け込むという私たちの経営方針を推し進めれば、健康まちづくり事業のハブになれるのでは」と将来に向けた戦略を語る。
佐藤社長は、2009年、グンゼ本社のアパレル部門から移ってきた。
「利用者のみなさんが、口々に『ありがとう、おかげで元気になったわ』と言ってくださる。健康ビジネスは身体だけでなく心の健康にも寄与できる価値ある仕事です。事業を通して病気になる人を減らして、社会にも貢献できる。本当にやりがいがあります」

病いの苦しみを和らげる肌着

2014年、グンゼ株式会社は新中期計画として、人々のQOL(Quality ofLife)の向上に貢献する健康・医療関連分野への積極的な投資を打ち出した。従来も手術に用いる縫合糸や血栓を予防する医療用ストッキングなどを発売していたが、積極姿勢を鮮明に打ち出した形だ。培ったアパレル技術を生かしてメディカル衣料を開発したり、ポリマーの技術を応用して、医療用の新素材を開発することなどを軸としている。
同じ年、もともとグンゼの一般向け商品として好評を得ていた肌触りがよく刺激の少ない肌着を改良し、乳がんの手術を受けた人向けの「メディカル衣料」として世に送り出した。脇の下の手術痕に肌着がこすれて痛いという声に応えたもので、痛む部分を自由にカットできる。ハサミで切っても、ほつれることなく形を保っていられる繊維の技術を生かしたもので、病後の苦しみを和らげ通常の暮らしに近づけることを目指したものだ。抗がん剤治療の副作用で皮膚疾患を生じる人もいるが、肌触りのよい繊維を使っているので、患部の痛みも緩和できる。
「本当に困っている人に役立つものを届けたい」と商品開発に携わったQOL研究所企画調査室の上島進室長は話す。
上島室長の日課は、医療機関や介護施設巡りだ。関係者やお客様の声に丁寧に耳を傾け、自分たちの持っている技術でどんな貢献ができるのかを常に検討している。乳がん患者用の下着も、その中で聞こえてきた声に応えたものだ。
上島室長は、長くパジャマ類の営業を担当、2014年の研究所開設に伴って異動した。
「パジャマの営業をしていた頃は、何千点、何万点の商品を一度にお届けしていましたが、今の商品は非常にニッチ。しかし、本当に困っている、欲しいという要望にお応えしているという実感があります」
その他にも多数の商品を開発中だが、ユーザーに長く利用してもらえるものにするには、たとえニッチであっても事業として継続できるようにすることも欠かせない視点だ。そこに頭を悩ませることも多いと打ち明けるが、表情は明るい。 「お訪ねした施設の人などから、いつも励まされるんです。『これは絶対に役に立ちます。ぜひがんばって作ってください、私たちみんなで応援しますから』といっていただける。こんなにうれしいことはありません」
健康事業に進出する最大のメリットは、働き手のやりがいかもしれない。

健康への願いに応えたい03

術後の肌や敏感肌を意識した低刺激インナー「MediCure(メディキュア)」を開発し2016年2月より新発売

健康への願いに応えたい04

グンゼスポーツ株式会社 代表取締役社長
グンゼ株式会社 執行役員

佐藤 雅之(さとう まさゆき)

公冠グンゼの責任者などを経て、2009年より現職。

健康への願いに応えたい05

グンゼ株式会社 QOL研究所
企画調査室 室長

上島 進(うえしま すすむ)

パジャマなどの営業を経て2014年、
QOL研究所開設と同時に現職。