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木沢記念病院

地方でも最先端の医療を 病める人への思いを形にする

「患者主体の医療」を旗印に、地域医療の中核を担う木沢記念病院。高次医療の提供に力を注ぐ背景には、理事長自身の病の経験があった。

東京と同レベルの先端医療を積極的に導入

岐阜県南部、木曽川の流域に広がる美濃加茂市の木沢記念病院は、100年を超える歴史を有する県下最大の私立総合病院だ。地方と都会で医療の質に差が生じる、いわゆる医療の地域格差を解消しようと早くから取り組み、先進的な医療機器を次々と導入。心臓や脳の全体像を一度の撮影で捉えられる大画面CTや、がんをピンポイントで狙い撃ちにする新機能を備えた放射線治療装置、微細な内視鏡手術を実現する手術支援ロボットなど国内有数の最先端高次医療設備が整っている。
中でも力を入れているのが、がんの診断と治療で、前出の装置の他、がんの早期発見を助けるPETも早くから導入している。正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むがん細胞の性質を利用し、ブドウ糖に近いFDGという放射性薬剤を体内に注射することで、がん細胞をマーキング。X線やCTでは見落とされてしまうがん病巣でも、PETならどこにあるかがはっきりとわかる。
 がんの早期発見に寄与してきたPETだが、乳がん発見には課題があった。全身用PET装置では、分解能が低いため、小さな乳がんは発見しにくい。また、正常な乳腺組織にまでFDGが集まるため、その中からごく小さながんを見つけることは難しい。
また、従来の乳がん検診では、X線を使ったマンモグラフィーが検査の主流となっていたが、きつく挟んで検査するため、強い痛みが避けられなかった。
木沢記念病院は「病める立場に立った医療、新しい医療サービスの提供」を理念に掲げている。その理念を打ち立てた山田實紘理事長にとって乳がんの検査で苦悶に歪む患者さんの顔は、長く心のつかえとなってきた。
「患者に負担をかけるような医療は医者の傲慢。もっとやさしい医療にしなければいけません」
そのために木沢記念病院は島津製作所が開発した乳房専用PET装置Elmammoを世界で初めて導入した。寝台にある穴の円周上には小型の放射線検出器がぐるりと配置されており、患者さんはその穴に、うつ伏せの状態で乳房を入れて検査を行うため、圧迫による痛みが発生しない。
「乳房専用PETにしたことで、これまでに見たことのないほどクリアな画像が得られ、より微細ながんも発見できるようになりました。患者さんが苦しむこともなく、喜んでいただいています」(放射線科 西堀弘記部長)
と現場の評価も上々だ。

地方でも最先端の医療を01

圧迫感の無い検査室にあるElmammo(写真左:放射線科 西堀弘記部長)

地方でも最先端の医療を02

患者主体の医療を目指して

装置だけでなく、手術や術後のケアにも余念がない。乳房は女性の象徴だ。乳がんで患部を取り除くと胸の傷や乳房の歪さだけでなく、心にも大きな傷を残してしまう。そこで木沢記念病院では、手術時に形成外科と乳腺外科の医師が同時に入ることで、がんの除去と乳房の温存を同時に行う方法を確立。さらにがんに伴う不安のケアには、精神科の医師を充てることで、包括的なケア体制を敷いている。
徹頭徹尾患者本位を貫く。木沢記念病院のその姿勢は、理事長自身の体験から生まれた。
30代で木沢記念病院脳神経外科に入り、多忙を極めていた若き山田医師はある日、余命4ヶ月の肝臓がんと診断を下されたのだ。日を置かず国内有数のがん専門機関で手術を受け1週間ほどの入院で復職したが、そこからがん再発に怯える日々が始まった。
「『脳外科医として患者さんを手術で助けられたら、その分私の命も延ばしてください』と、神様に祈っていました。わらにもすがる思いだったんです。そうしていると、今まで以上に全身全霊を込めて手術に臨むようになりました。自分が患者になって初めて患者の気持ちがわかるなんて、勝手なものです」
1年が経過したある日、がんと診断した専門医から手紙が届いた。曰く、
「過日切除した貴殿の組織を外部機関で調べたところ、がんではなく良性の腫瘍だったことをご報告します。非常に珍しいタイプの腫瘍で我々にも判別できなかったもので……」
信じられない内容だった。慌てて電話をかけると、さらに驚きの事実を知らされた。術後3ヶ月目には良性の結果は出ていたという。
「開いた口が塞がりませんでした。再発に怯えていつ死ぬか、と考えない日はなかったというのに。こんなバカな対応が許されていいはずがない。その思いが私の意識を変えました。患者さんに私のような思いをさせないためにも、患者主体の医療を実現しようと心に決めたのです」
医者本位から患者主体の医療へ。後に理念に掲げることになる転換はこうして始まった。最先端医療機器の充実もその一環だ。種類が豊富なだけでなく、同じ放射線治療装置を2台導入することもある。患者さんの待ち時間を減らすことを狙ったもので、1台しかなければ数ヶ月は待つ必要があったところを2台にすることで1週間にまで短縮した。
「複数導入すると言うと、何もそこまでと言われることもあります。しかし、より早く、よりよい治療を患者さんに受けていただく。それこそが医療従事者の仕事だと思います」
今ではその気風が病院全体に根付き、すべての医師、スタッフが専門の垣根を越えて連携し、患者本位の治療にまい進している。

世界を駆ける思い

山田理事長には世界最大の奉仕団体ライオンズクラブの国際協会会長というもう一つの顔がある。基金の使途を決定し、世界を飛び回って施策を支援する。多忙を押しての活動だが、医師としても深いところでつながっている。例えば、ライオンズクラブでは、はしか予防ワクチンを世界中の貧困地域に届ける支援活動を行っている。ワクチンがないアフリカでは、はしかで1日に450人が命を落としている。
「50年近く医師を続ける中で、私が助けられた命が年100人だとして、5000人。しかし、ライオンズクラブの会長としてワクチンの活動を推し進めれば、年に1億人を助けることができる。医者冥利につきます」
若き日に心に刻んだ「病める人のために」という理想は、年を追うごとにさらに加速している。
※保険適用には、全身用PET検査(PET/CT、PET/MRI含む)に続けて、同日に実施された場合に限り適用(全身用PETに準ずる施設基準が必要)。

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社会医療法人厚生会 木沢記念病院

1913年に開設された診療所「回生院」を起源とする岐阜県下最大の私立病院。2015年より地域がん診療連携拠点病院に指定された他、地域医療支援病院、地域災害医療センターなどに指定され、地域の救急患者の8割を受け入れる救急指定病院としての体制も整備している。最新の医療機器を揃えるだけでなく、メディカルフィットネスクラブの運営も行い、予防医学の普及を目指している。
http://kizawa-memorial-hospital.jp/

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社会医療法人厚生会 木沢記念病院 理事長
ライオンズクラブ国際協会 会長

山田實紘(やまだ じつひろ)

日本大学医学部卒業。木沢記念病院で脳神経外科医として勤務し、同病院院長を経て2000年より現職。
岐阜大学医学部客員臨床系医学教授として教鞭も執る。2015年よりライオンズクラブ国際協会会長。