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代表取締役 社長 中本晃

科学で見る夢

幼い日の夢

幼い頃、私は漫画やアニメで見た『鉄腕アトム』が好きでした。
10万馬力のパワーを持ち、超音速で空を飛ぶ。さまざまな言語を操って、豊かな感情を持つ「科学の子」。原子力やジェットエンジン、コンピュータなど、当時登場したばかりの科学技術を下敷きに、それが進歩したら、いつかこんなロボットが作れるかもしれないという夢の未来がそこにありました。
科学ってすごいことができるんだな。
私は素直に感心し、科学技術が発展した未来は、いったいどうなるのか想像するのが楽しくなりました。
振り返ってみれば、私が島津で働くことになったのも、あの体験があったからなのかもしれません。

中本晃

「初」が持つ価値

「科学技術で社会に貢献する」。創業以来、島津は、この言葉を事業の根底に据えてきました。
創業当時、この言葉にある「社会」は、日本と同義でした。科学技術をいち早く西欧から取り入れ、産業の発展を促し、ひいては国の発展に貢献する。創業者の初代源蔵や二代目源蔵は、その信念を携えて、果敢に挑戦を繰り返しました。
1897年には日本初の蓄電池を開発。日本の発展には、安定した電源が不可欠だとの思いから開発を決めたもの です。
1909年には、医療用X線装置を日本で初めて開発し、病院に設置しています。国を支えるのは人であり、X線装置によって、人の健康を守ることで、国に貢献できるとの思いがあったと、当時の記録に記されています。
戦後、日本が力を入れてきた石油化学産業に欠かせないガスクロマトグラフを日本で初めて開発し、製品化したのも島津です。こうした製品群は、日本の発展に少なからず貢献できたと自負しているところです。
時代は進み、グローバル化の進んだ結果、「社会」が意味するところは、世界になりました。それに伴って、島津の目標も、世界の人々の願いを実現することに変わっています。
では、「貢献する」とは、どういうことか。私は、ここは創業当時から変わっていないと思っています。
製造業の会社ですから、何かを開発し、作るのが仕事です。ですが、島津の場合、どこにでもあるもの、誰にでも作れるものを作っていたのでは、決して社会に貢献したことにはなりません。
島津の装置によって、この世になかった新しい何かを生み出せる、だれも成し遂げられなかった何かを実現する、そういう製品を作ってこそ、胸を張って「貢献できた」と言えるのではないでしょうか。
その目標に向かって現在も数々の挑戦を繰り広げています。ひとつ例を挙げると、第一線で活躍する研究者らと協力して、がんやアルツハイマーの早期診断、早期治療につながる装置の開発を進めています。病院に一台ずつ設置できるような製品を開発できれば、人々の生活にも大きく貢献できるものとなるでしょう。

人と地球

作ることとは別に、もうひとつ、島津が力を入れてきたことがあります。それは科学の啓発です。明治時代に科学雑誌を発行したり、X線技術者を養成する学校を創設するなど、人々の意識や技術の面からも、科学の普及を促してきました。
創業間もない頃、京都府の依頼で、日本で初めて人を乗せた軽気球を揚げてみせたこともありました。その当時、京都の人々は、外国から移入されたばかりの「科学技術」がどんなものかよく知りませんでした。しかし、古都の空に悠々と浮かぶ気球は、「科学技術」の可能性を、多くの人に感じさせたに違いありません。この時島津は、気球を揚げることで、ワクワクする未来を描いてみせたのです。
当時の気球に相当する、現代の夢といえば、どんなものがあるでしょうか。
「宇宙を旅行する」あるいは「ロボットと共に暮らす」。SFに幾度となく描かれてきた夢は、そろそろその足音が聞こえそうなところまで近づいてきました。もしかしたら、鉄腕アトムが誕生する日も、そう遠くないのかもしれません。
私たちの事業に近いところでは、「病の苦しみを味わうことなく、健康に暮らす」というのも、人類の大きな夢です。また、「だれもが安心して暮らせる社会」も有史以来語り継がれた夢といえるでしょう。
今はまだ、文字通り「夢物語」かもしれません。しかし、思い起こしてみてください。かつて人類が想像した 未来の姿は、たいてい実現しているのです。
世界旅行をしたい。空を飛びたい。月に行ってみたい。どれも200年前なら夢物語と一蹴されていたでしょう。しかし科学技術の進歩は、それらを一つひとつ実現してきました。病に苦しまない生活も、安心して暮らせる社会も、いつかきっと実現できる。私はそう信じています。
そして、その夢の実現に、島津の力を役立てることができれば、これほど幸せなことはありません。
これからの島津に、ぜひ期待してください。

小久保裕紀(こくぼ ひろき)

株式会社島津製作所 代表取締役 社長

中本 晃(なかもと あきら)