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温故知新

ガラスワインダー

建材や強化プラスチックなど、さまざまな分野で活用されるガラス繊維。
その製造工程のカギを握るのが、「紡績機」にあたるガラスワインダー。
その原形は、すでに中世に存在していた。

丈夫で絶縁性に優れたガラス繊維

ガラス繊維とは、文字通りガラスでできた糸や綿のことだ。熱して溶けたガラスを糸状に引き出して巻き取ったり、遠心力で高速で吹き出させたりして綿状の繊維を形作る。
いわゆるグラスファイバーで、プラスチックに混合して固めると、プラスチック単体では得られない高い強度、高い靱性(壊れにくさ)を持つ軽量な材料を作り出すことができる。電気を通さないうえに、腐食性も低く、建築資材やFRP(繊維強化プラスチック)、プリント配線基板用の電気絶縁クロスなど幅広い用途で使われている。東京ドームの天井が、ガラス繊維の織物でできているのは有名で、約400トンのガラス繊維が、28本の支柱で支えられ、内部の気圧をわずかに高めることで、ふんわりとした屋根の形状を形作っている。

起源は古代オリエントに

その作り方は、綿菓子や飴細工に例えられる。綿菓子は、ザラメを熱して溶かし、小さな穴から出てきた綿を割り箸などで巻き取って作る。一方、飴細工は、溶かした飴を引っ張るなどして、細い糸状や好みの形にしていく。ガラス繊維も同じように、高熱で溶かして水飴状になったガラスを、綿や糸のように加工する。
ガラス繊維の原形は、古代オリエント時代(紀元前4000年~紀元前400年頃)にも見られた。紀元前2000年頃の遺跡から出土した工芸品に、ガラスの壺のまわりに棒状や繊維状のガラスを巻き付け、固まりきらないうちに串などで文様をつけたものがある。太さは不揃いではあるが、ガラス繊維の起源と呼べるだろう。
中世に入ると、ガラス工業の栄えたイタリアのベニスで、ガラス棒を熱して、そこから糸を引き出し、回転する木製のドラムに巻き取ってガラス繊維が作られた。装置としては単純だが、現代の製法と原理的にはよく似ている。その当時は、置物や玩具、装飾用に用いられていたという。

ガラスワインダーの登場

19世紀に入って、ガラス繊維が、文字通り繊維としての役割で注目される機会があった。1893年、アメリカで開かれた博覧会で、ミカエル・オーエンス・ガラス社とリビー・ガラス社が、ガラスから糸を紡ぐ実演を行った。このとき登場したのが、溶けたガラスを糸状にして高速で巻き取る機械、ガラスワインダーだ。巻き取った糸と絹で、布を試作するところまで実演したが、ガラスの透き通ったイメージを頭に描いていた観客たちは、できあがった布が、透明でもなんでもなかったことに失望したと伝えられている。
20世紀、ガラス繊維をめぐる事情は一転する。第一次世界大戦当時、断熱材として主流だった石綿をカナダから輸入していたドイツは、それが不可能となり、石綿の代替となる製品の研究に取り組んだ。1917年には、工業化に成功し、これを機に世界各国で工業化が進展。断熱材や絶縁材として優秀な性能が評価され、急速に広がっていった。
島津製作所は、1966年からガラスワインダーの開発を手がけている。ガラスワインダーは、回転して糸を巻き取るためのドラム(コレットと呼ぶ)がぶれたり、スピードが不安定になったりすると、巻き取る糸がけば立って使い物にならなくなることもある。回転での高い安定性が強く求められる装置だ。
最初に検討されたワインダーは、直径186ミリメートル、長さ420ミリメートルのコレットを毎分8000回転という高速で回転させるものであった。そのため試運転のときには、工場中が緊張し、万一の事故を防ぐために、30メートル離れた場所から遠隔操作で起動スイッチを入れたという。

自動化とさらなる性能向上を求めて

その後、効率化を高めるための改良が繰り返され、ガラスワインダーは急速に進歩していく。現在は、直径数ミクロンの糸が一度に2400~4800本引き出され、分繊しながらコレットが巻き取り、繊維がいっぱいになると、自動的にコレットを反転し切り替えることができるなど、24時間連続でのガラス繊維生産が可能となった。原料ガラスが1350度で溶解されるなか、水が撒かれたり、ガラス糸に集束剤が塗布される工程などもあり、紡糸室の内部は必ずしも環境が良いとはいえない。ガラスワインダーの自動化は、人の手による作業を最低限にできるため、安全性の向上にも寄与している。
近年になり、プラスチックに混ぜる複合材料として軽くて強い炭素繊維(カーボンファイバー)が存在感を増している。だが、製造原価はガラス繊維の約10倍と高価な材料だ。世界の年間生産量も炭素繊維が6~7万トンであるのに対し、ガラス繊維は、520万トンに達する。なによりもガラス繊維は原料となるケイ素が地球上でもっとも多い元素のひとつで、安定供給が可能だ。これからも強度や絶縁性が求められる場面で、ガラス繊維が活用される機会は増えることはあっても、減ることはないと予想されている。ガラスワインダーの性能向上を求める声も、止むことはないだろう。

片岡鶴太郎02

写真(1) 初期の手動機ケークワインダー(右)とダイレクトワインダー(左)。

写真(2) A-404型ケークワインダー。φ300mmx300mmLのケークを一度に4個同時に巻き取る事ができる。生産性向上として中国/台湾向けに注目されている。

写真(3) SDR-602型ダイレクトロービングワインダー。駆動モーターをサーボ化し、ワインド数を小数点8桁まで制御できる。
製造販売:島津メクテム株式会社