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運動会はいかが?

運動会はいかが?

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ代表理事 米司 隆明

誰でも楽しめる

バブルがはじけた90年代以降、社内行事から消えた運動会。
しかし今、その「社内運動会」を開催する企業が増えている。
楽しく汗をかくだけではない。
年齢も役職も関係なく仲間と一丸となれる。
運動会の持つ可能性を見いだし、普及活動をする米司さんに話を聞いた。

誰でも楽しめる

万国旗がはためく運動場。白いポロシャツを着たスタッフたちが、きびきびとテントを張り、トラックの白線を描いていく。片隅には、綱引きや玉入れの道具。紅白の大玉もある。音響のスタッフも機材チェックに余念がない。徒競走のアップテンポなBGMが時折運動場に響く。みるみる運動会の会場ができあがった。
運動会を企画、プロデュースするプロフェッショナル集団がいる。その名も「運動会屋」。主に企業の福利厚生のための社内運動会を中心に、これまでに300以上をプロデュースしてきた。もっとも、活動を開始したのは2007年。かつて社員旅行と並んで、社内運動会が企業の恒例行事であった時代のことを、若いスタッフは誰一人知らない。
新時代の運動会請負人に寄せられる要望は多彩だ。新人研修、社員旅行と一体型の運動会、専門学校の行事、インターネット上で参加を募る個人型の運動会もある。企画、運営を丸ごと手がけることもあれば、備品の貸し出しや会場探しの手伝いをすることもある。規模は50人程度から、2000人の大運動会まで様々だ。
「誰もが楽しめるのが運動会の醍醐味です。はじまってしまえば仕事上の立場も年齢も関係なくなりますし、大玉送りや玉入れといった種目は、運動能力や経験は関係なく参加できる。終了後には、みんなが笑顔で帰って行かれるんですよ」
「運動会屋」を運営するNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズの米司隆明さんは、そう言って目を輝かせる。

スポーツのチカラ

スポーツのチカラ

スポーツを通じて企業の問題解決に貢献したい。07年、米司さんは勤めていたベンチャー企業を辞め、NPO法人を立ち上げた。IT企業が時代を席巻し、起業する若者が脚光を浴びていた頃だ。同時に、お金儲けより、社会貢献を目的として活動する、社会企業家を志す人たちも増えていた。
「当時、成果主義が根を下ろし、世間では職場内のコミュニケーションが希薄になっていると言われていました。それで、コミュニケーション活性化のツールとして、スポーツが有効なんじゃないかと考えたんです」
まずは、スポーツを通じた交流イベントとして、フットサル大会を開催することからはじめた。
実際に、一緒に汗をかいてボールを蹴れば、ほとんど話したことがない人同士でもすぐに打ち解けた。さらにピッチでは、チャンスでパスを出す人、自分でゴールを決めようとする人、大きな声でチームメートを励ます人…と様々な個性が浮かび上がる。
フットサルの中に、スポーツが秘める力を感じた。しかし米司さんは、あえて一度踏みとどまって考え、ひとつの結論を出した。
「フットサルの大会運営はただ好きでやっていたけれど、僕がやりたいのはもっと企業内のコミュニケーション向上に効果があるものなのではないか。掘り下げていくうちに、より大勢で楽しめるイベントとして、思い浮かんだのが運動会でした」
思い浮かんだはいいが、一体何からはじめていいのかわからない。まずは、用具や運営のノウハウを出身校の体育の先生に聞きに行くところからスタートした。
08年の秋、初めてプロデュースしたのは、友人が勤務する映像制作会社の運動会だ。社員100人を対象に、定番の綱引きやリレーを実施。参加者が純粋に楽しんでいる姿を見て、自信が湧いた。
「運動会代行サービスでやっていける」
リピート率の高さや営業の成果もあって、依頼は着実に増えていった。それに伴い、スタッフを増員。備品を保管できる事務所も借り、それまで米司さんの自宅マンションのベランダで異様な存在感を放っていた玉入れのかごも事務所に移した。
「事業が拡大したことで、スタッフの育成に苦労することもありますが、その分、依頼を断らずに済みますし、多くの運動会をお手伝いできるようになりました」
社内運動会の開催を持ちかけるのは、高度経済成長期を知る年配者が多いという。社内のコミュニケーションを深めるための福利厚生が充実していた当時、当たり前のように行われてきた社員参加型のイベントを復活させることで、社員の連帯感を醸成し、組織に元気を取り戻そうというのだ。社員旅行よりローコストで開催しやすい運動会は、日本中が結びつきを求めた東日本大震災後、さらにニーズが高まっている。

運動会のメリットとは?

開催後のアンケートを読むときが、米司さんの至福の時間だ。
担当者にその感想を訪ねて歩くこともあるが、「つまらなかった」と言われたことは一度もない。企業側からは「コミュニケーションが活性化され、社内が明るくなった」「チームワーク・結束力が向上したことで業績がアップした」「離職率が下がった」などの感謝する声が寄せられるという。
「開催後の一週間、社内で運動会の話題が尽きないという企業さんもあるようです。たとえ飲み会がすごく盛り上がってもその話題が一週間も続くことはなかなかないですよね。意外な人が活躍したり、普段とは違う一面を見せる社員がいたり、人間らしさが感じられるから、運動会の話は盛り上がるんです」

海外輸出も計画

日本の教育制度に組み込まれてきた運動会は、子どものころに誰もが体験したものだが、外国人にとっては馴染みがない。外資系企業や外国人学校の運動会を手がけたことから、その可能性に広がりを感じるようになった。
「チームワークを重んじ、出しゃばらずに和をつくることができる日本らしさは、運動会文化と関係していると思う」
米司さんの夢は、海外に運動会を普及させることだ。
「運動会には人と人をつなげる力がある。日本中で、いや世界中で、もっともっと開催すればいいのにと思います。オファーがあればどこにでも駆けつけますよ。できる限りのことをこれからもしていこうと思います」

米司隆明 (よねじ たかあき)

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ代表理事

米司隆明 (よねじ たかあき)

1980年山口県生まれ。2003年、神奈川大学経済学部卒業後、一般企業を経て、07年に同法人を設立。「スポーツで日本を元気に」をスローガンに掲げ、スポーツイベント、企業レクリエーション、社内向け福利厚生事業の請負などを行う。