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時事の科学

マスクでも防げないPM2.5の正体

マスクでも防げないPM2.5の正体
マスクでも防げないPM2.5の正体

この冬、中国で深刻な大気汚染を招き、日本でも影響が懸念されているPM2.5。その正体はいったい何なのでしょう。
「PM」とは、Particulate matter の頭文字をとったもので、粒子状物質と訳されます。「2.5」は粒子径を表しており、大気中を浮遊する粒子径2.5ミクロン以下の微粒子のことです。
空中浮遊微粒子は通常、数十ミクロンから0.01ミクロンの粒子で、多種多様な物質を含んでいると考えられています。呼吸によって吸入される空中浮遊物質のうち、数十ミクロンほどの大きなものは、鼻や喉に付着し、鼻汁や咳、痰として体外に排出されます。一方、0.1ミクロンより小さな粒子は、気管や肺に入っても、小さすぎてほとんど付着せず、吐く息とともに体外に出て行ってしまいます。
つまり、呼吸器内に付着するのは、その間の0.1ミクロン程度から10ミクロン程度の空中浮遊物質です。PM2.5はまさにその範囲に該当し、人の健康に大きな影響を与えることがわかってきて、警戒感が高まっています。
このPM2.5の発生源と疑われているのが、ガソリンやディーゼルエンジン、あるいはボイラーや鉄を精錬する高炉など「燃焼」する機関です。燃焼に伴って発生する窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、揮発性有機化合物(VOC)などごく微細なチリは、大気中に排出された後、凝集して粒径が刻々と変化。回りに細かい液滴が付着し、さらに太陽光や大気成分の影響で硝酸塩や硫酸塩などの粒子に変化するのです。
こうした人為的な微粒子には、有害な化学物質が付着していることが多く、たとえばディーゼル排気には、発がん性があることがWHOにより認定されており、各国で規制が強化されつつあります。
なんとか吸入を避けたいところですが、通常のマスクの網目は、5ミクロン程度で、PM2.5を防ぎきることができません。インフルエンザウイルスを含む飛沫核(くしゃみや咳によって気道から飛散した分泌物のうち、直径2ミクロン以下で、空気中で水分が蒸発し乾燥縮小したもの)の吸入を防ぐために医療用などに用いられている特殊なマスクであれば、メッシュの大きさは十分ですが、隙間なく装着するのは難しく、完全にシャットアウトするのは事実上不可能です。
もっとも、マスクを装着することにより、呼吸器内の湿度や温度が高まり、粘膜を保護する効果は高まるので、汚染度が高くなると予想される日は、マスクをして外出するのがよいでしょう。
これからの季節、さらに注意が必要と指摘する声もあります。冬の間、雪の結晶に付着して地面に降下したPM2.5は、積雪とともにその場に留まっています。暖かくなって山間地の雪が解けると、いっせいに空中に舞い上がるのではと懸念されており、しばらくは十分注意する必要がありそうです。