バックナンバーBacknumber

青森県立中央病院

生まれ出でたすべての命に未来を

青森県の乳児死亡率を改善するために

青森県は、新生児医療の改善に取り組み続けてきた。
その中心で尽力する青森県立中央病院 総合周産期母子医療センター新生児科の網塚貴介部長に、新生児医療に対する思いを伺った。

青森県の乳児死亡率を改善するために

新生児の治療に特化した集中治療室「NICU(Neonatal Intensive Care Unit )」。低体重や胎児仮死、先天性疾患など、生を受けたばかりの新生児を危機から救うNICUは、新しい命を未来に繋げていくために欠かせない存在だ。
今でこそ全国各地にNICUを持つ医療機関は増えたが、ほんの10数年前まで、日本の新生児医療をめぐる状況は、充実とはほど遠い状況だった。ことに青森県は、命を落とす新生児・乳児の数が2000年に全国でワースト1位となった苦い記憶がある。
当時から、一貫して青森県の新生児医療に携わってきた青森県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児科の網塚貴介部長は振り返る。
「当時、当院には『未熟児室』と呼ばれる施設があるだけで、集中的な医療を施せる施設はありませんでした。なんとか状況を改善しようと、2001年4月に県の支援のもとでNICUが立ち上がったんです」
しかし、問題は山積みだった。特に重要視されたのは1000g未満で生まれてくる超低出生体重児の死亡率だ。2003年の青森県内の乳児死亡者45人のうち、実に22人が超低出生体重児で占められていた。

“集約化”が多くの新しい命を救う

「“とんでもなく多い数字”だと言わざるを得ません。全乳児の死亡者のうち、超低出生体重児の割合は全国平均で2割程度。しかし、青森県は5割近くに達していたんです」
そこで青森県は、翌年に県内の周産期医療を強化すべく、既存のNICUを「総合周産期母子医療センター」へ発展させた。そして、青森県内で生まれた1000g未満の新生児はすべて同病院のNICUに搬送する新生児医療の“集約化”を行った。
その結果、超低体重児の生存率は一気に改善した。1年で、命を落とす超低出生体重児を半減させることができた。
以来、青森県立中央病院の総合周産期母子医療センターでは、超低出生体重児に特化した医療を実践。今では年間25例から30例を扱っている。症例数が増えるにつれて、スタッフの経験値も高まり医療の質も向上。いまや搬送されてきた新生児の9割が無事退院するまでになっている。

“集約化”が多くの新しい命を救う

青森県立中央病院の新生児集中治療管理部(NICU)では、超低出生体重児に特化した医療を実践。青森県内で生まれた1,000g未満の新生児はすべて搬送され、9割が無事退院している。

新生児医療の明日を作る若い人材を育てる

「これまでのNICUの運営において、最も苦労したのは、医師の確保です。幸運なことに青森県に理解があったので、医療機器の導入や増床工事などのサポートは受けられました。しかし、NICU自体が比較的新しい医療の仕組みということもあり、臨床経験のある医師が圧倒的に不足していたんです。一時は私以外の医師は全員がNICU未経験だったこともありました」
総合周産期母子医療センター NICUの医療は、赤ちゃんの成長とともに、長い将来に渡って、その質が問われる医療だという。医療の質の向上のためにも、人材育成が重要な課題なのだ。
伝え聞くだけでは実感できない独特の症例や、新たに開発された治療法などを学んでもらいたいと、網塚部長は、若い医師たちを積極的に他県のNICUに国内留学させてきた。2013年度も、2人の医師が国内留学をする予定になっている。
「病院の人員は決して足りているわけではありませんから、1人でも抜けてしまうのは、現場にとって非常に苦しいことです。しかし、ここで送り出さなければ、病院の未来もありません」
と、言葉に力を込める。
国内留学の効果は、確実に現れている。一昨年、関東の先進施設で研修を終えた医師が戻る際、若手医師を引き続き次々に同じ施設へ短期研修させ、治療方針を一気にその施設の管理法へ統一したところ、超低出生体重児の合併症が劇的に減少するなど、研修の効果は早くも現れはじめている。

新生児医療の明日を作る若い人材を育てる

青森県立中央病院
705床を備え、20以上の診療科を網羅する青森県の中核病院。ドクターヘリなどを活用した救急救命医療の整備にも取り組んでいる。新生児医療においても「総合周産期母子医療センター」を展開。2011年3月には同センターを増改築するなど、新生児医療の充実化に積極的に動いている。http://aomori-kenbyo.jp/

赤ちゃんの未来のためには何でもしてあげたい

同病院のNICUでは、島津製作所の回診用X線撮影装置MobileDaRt Evolution (モバイルダートエボリューション)が稼働している。保育器を開け閉めすると、温度や湿度の変化で新生児に大きな負担をかけるが、同装置であれば保育器の傍らでX線検出器のFPD(フラットパネルディテクタ)を使用して、保育器を開閉することなく最小限の負担でX線撮影ができる。
またこの装置は診断時のみならず、治療時にも活用されている。新生児の血管や肺、腸などに治療用のチューブを挿入する際、以前は体内の正しい位置にあるか否かは、経験だけが頼りだった。
「NICUにおいて、リアルタイムで複数回撮影できるMobileDaRt Evolution(モバイルダートエボリューション)はもはや欠かせない存在です。画像でチューブの場所を確認しながら挿管することができるようになり、治療環境が劇的に向上したのです」
網塚部長らNICUの医療スタッフは、今もなお奮闘を続けている。
「NICUにやって来る赤ちゃんは、想像以上にか弱い存在です。大人ではまったく問題にならない弱い刺激でも、出血を起こして後遺障害を残してしまうことにもなりかねません。本来獲得するはずの能力が、芽吹いたとたんに摘み取られてしまうのは、あまりに不幸です。それを防ぐ方策は常に模索していかなければなりません」

赤ちゃんの未来のためには何でもしてあげたい

回診用X線撮影装置MobileDaRt Evolutionは、装置を保育器まで移動させることができ、新生児を保育器に入れたまま撮影ができる。

網塚貴介 (あみづか たかすけ)

青森県立中央病院 総合周産期母子医療センター新生児科 部長

網塚貴介 (あみづか たかすけ)

1988年、札幌医科大学卒業。小児科専門医、新生児専門医制度指導医、新生児医療連絡会幹事、日本周産期・新生児学会評議員、日本未熟児新生児 学会評議員、日本未熟児新生児学会雑誌編集委員、医療提供体制検討委員会委員、新生児の輸血問題小委員会委員、新生児蘇生法インストラクター