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東和薬品

同等であることを科学的に証明せよ

効き目はそのままに工夫をプラス

既存の医薬品と同じ効き目で、かつ低価格なジェネリック医薬品を選ぶ患者さんが増えている。
その品質を支えるのは、分析化学者たちの高い技術と熱い信念だ。

効き目はそのままに工夫をプラス

ジェネリック医薬品とは、既存の医薬品と同じ薬効成分を含む医薬品であり、もとの製品の特許が切れた後に、他の製薬メーカーによって製造・販売される。もとの医薬品を「先発医薬品」、ジェネリック医薬品を「後発医薬品」とも呼ぶ。
「もとの医薬品より飲みやすい味や形状にしたり、光を当てても成分が変化しないようにといった工夫を行います。患者さんや医療関係者の利便性を考えて、マーケティング要素が加味されるんです」
と語るのは、大手ジェネリック医薬品メーカー東和薬品(株)の研究開発本部に属する立木秀尚氏。ジェネリック医薬品開発の最終工程にあたる「生物学的同等性試験」を主な業務とし、より優れた分析手法の開発などを担当している。
生物学的同等性試験は、ジェネリック医薬品の効き目や安全性が先発医薬品と同等であることを確認するための試験であり、その試験結果は、ジェネリック医薬品が先発医薬品と同等の治療効果を持つことの「保証書」ともいえる。生物学的同等性試験では、健康な人に先発医薬品とジェネリック医薬品をそれぞれ投与して、血液中の薬効成分の濃度を時間を追って測定するのが一般的である。これは、血液中の有効成分濃度の時間推移が同じであれば、同じ治療効果・安全性が期待できるという考えに基づいている。

だれにでも同じ結果が得られる装置を

ジェネリック医薬品が注目されるのは、何よりその価格によるところが大きい。先発医薬品では、医薬品の効き目や安全性を確認する臨床試験だけで3~7年、基礎研究から審査・承認まで含めれば9~17年の開発期間が必要という。当然、それだけ開発費用も高額となる。
一方、先発医薬品販売後の医療現場での実績や情報を活用できるジェネリック医薬品の開発期間は2~3年。臨床試験は行われず、それに代わる生物学的同等性試験は数ヶ月で済む。
だが、だからといってジェネリック医薬品開発が簡単ということにはならない。
「ジェネリック医薬品は、もとの薬と同等であることを科学的に証明できないといけない。これは案外難しいのです」
しかも、ジェネリック医薬品は多額の費用をかけずに開発することが至上命題だ。
「短期間に、少ない人数で効率よく、確実な試験結果を得ることが求められます。そのためには、どうしても性能のよい 分析装置が必要になります」
立木氏は、よい分析装置の条件のひとつを「誰が使っても同じ分析結果が得られること」と言う。
 「分析の仕事では、実験現場のルーティンワークが非常に重要です。鍛え上げられた分析化学者ならば、最高の測定結果になるけれど、初心者だと同じ結果が得られない装置では、作業効率は上げられない。誰にでも手軽に扱えることは、分析装置の選択において、非常に重要なポイントです」
東和薬品(株)の研究室では、島津製作所の高速液体クロマトグラフ(HPLC)「Prominence(プロミネンス) UFLC」シリーズも多数稼働している。
「島津製作所がこれまで培ってきたハードウェアのテクノロジーがふんだんに詰まっている気がします。中でも、最新機種の「Nexera(ネクセラ)」は、特に高感度分析におけるキャリーオーバー抑制能に優れ、極めて有用性が高い」
と、立木氏も評価する。

だれにでも同じ結果が得られる装置を01

研究室では、島津製作所の高速液体クロマトグラフ(HPLC)Prominence UFLC シリーズなどが多数稼働している

だれにでも同じ結果が得られる装置を02

東和薬品株式会社本社(大阪府門真市)
http://www.towayakuhin.co.jp/

薬のプロファイルを作る

薬のプロファイルを作る

立木氏らの奮闘もあって、日本におけるジェネリック医薬品の市場は徐々に拡大してきてはいる。だが、医療用医薬品全体に占めるジェネリック医薬品のシェアは、アメリカでは7割を超えているのに対して、日本は23%程度と、まだまだのびしろを残している。
「遺伝子情報に基づいて、患者さん一人ひとりに最適な治療を行うテーラーメイド医療などの最先端医療技術が現れ、期待を集めていますが、その費用は高額にならざるを得ません。患者さんやその家族が、高額な費用が支払えないために治療を断念して、後に悔いを残すようなことはあってほしくありません。とくに、抗がん剤や生活習慣病の治療薬といった、治療費が長期間の継続負担となる医薬品において、患者さんやその家族のためにジェネリック医薬品が果たすべき役割は、非常に大きいと思います」
そのためにも、分析化学者はもっと努力する必要があると自らを鼓舞する。
「もっと多くの医師や薬剤師の方々にジェネリック医薬品を選んでもらうためには、個々のジェネリック医薬品について、もっと多くの“プロファイル”を用意しなければいけないと思っています。発売後に、患者さん数百人、数千人を追跡調査して、先発医薬品と同じように使用できることを示せるデータを作成したり、先発医薬品よりも不純物が少ないといった薬のプロたちにアピールできるデータを提供したい」
スタッフの誰もが同じ結果を得られるような分析手法を追求しているうちに、立木氏はある夢を抱くようになった。
HPLCが、一般の人にも使えるものにならないかなあと、思うんです。一家に一台HPLCがあって、お母さん方や子どもたちがスーパーで買ってきた食品の添加物などを調べられるようになったら、なかなか刺激的だと思うんですけどね」
そう話す立木氏の目は、化学好きの少年のように、キラキラ輝いていた。

立木秀尚 (たちき ひでひさ)

東和薬品株式会社 研究開発本部医薬分析部 課長 理学博士

立木秀尚 (たちき ひでひさ)

静岡大学理学部卒業、大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻博士後期課程修了。1999年、東和薬品(株)に入社。製剤設計や品質管理などを経験し、現在、生物学的同等性試験と、医薬品の分析法・評価法の開発を担当する。日本ファーマコメトリクス研究会幹事、クロマトグラフィー科学会評議員。著書に『すべて分析化学者がお見通しです!-薬物から環境まで微量でも検出するスゴ腕の化学者』(技術評論社・共著)などがある。