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心を元気にするメイク

心を元気にするメイク

かづき れいこ

「メイクが社会復帰のきっかけに」―外見だけでなく、精神面の支えにもなるリハビリメイク。
その第一人者として幅広く活動しているかづきれいこさんに、その挑戦を聞いた。

独自の理論から生まれたメイク術

独自の理論から生まれたメイク術
「きれいになるためというよりも、元気になるメイクをしたいんです」
と自らのポリシーを語るかづきさん。そのテクニックを前にすると、美しさというのは内から生まれるもので、メイクが元気の元になるという言葉が素直に理解できる。
 「スポンジに美容液を含ませて、目の周りをマッサージしていきます。そのとき、血流に沿ってマッサージしていくのがコツ。こうすることで、目の下に溜まっていた血液がスムーズに流れてクマもすっきりし、肌の血色も良くなります。間違っても逆にしないでください」
わずかなポイントで、みるみる肌に透明感が増していく。
そして、極めつきが「かづきマジック」と呼んでもいいテープ・テクニック。極薄のテープを耳の後ろ、ひたいの脇などに貼っていく。目尻のしわや年齢が出やすいほうれい線が目立たなくなり、見た目に若々しさが増す。
「テープを貼ることで血流マッサージの効果を持続します。しかも、全く目立たず段差がないことから、上から普通に化粧ができますよ」

自身の体験が気づきの源

かづきさんがメイクに興味を持ったのは、幼少期の経験が大きいという。生まれつき心臓に穴が開く心房中隔欠損症という病気を患っていた。
「冬になり寒くなると、顔が真っ赤になるので、小学校の頃のあだなは『赤でめきん』でした。それがどんなに嫌だったことか。高校を卒業して化粧ができるようになると、ファンデーションを厚塗りして隠していました。おかげで不自然なほど顔が白い。友達からは『なんでそんなに厚塗りするの』と不思議がられましたが、私にとっては心がラクになれる唯一の方法だったのです」
かづきさんの悩みの原因が30歳の時に初めて分かり、すぐに手術を受けて完治。その後、赤ら顔から解放されただけでなく、それまできつかった階段の上り下りの呼吸も楽になり、まるで体に羽が生えたような心地だったという。その軽やかさが新たな意欲を呼び覚まし、メイクを一から学ぼうとスクールに通った。
だが、かづきさんには疑問が残った。
「私が目指したのは、赤い顔に悩んでいた以前の自分のように、それを上手に隠して、生活するためのメイクです。しかし、流行やおしゃれメイクばかりで、それを教える学校はどこにもありませんでした」
そこで美容学校卒業後、カルチャーセンターでメイク講座を持ち、さまざまな世代の人と交流し、元気になるメイクを模索。さらに自らもメイクサロンを設立し、顔のあざややけど痕に悩む人々とのコミュニケーションを重ねながら、簡単にできて、満足度の高いメイクを試行錯誤していった。そうした道のりを経て、シンプルで、覚えれば誰でもかんたんに実践できるかづきメイク術が誕生した。
「リハビリメイク」とはを、全国でのメイク講座や講演に呼ばれ考えを伝えてきた。また、老人ホームを訪問し、お年寄りへのメイクボランティアを行い、さらに犯罪に走った少女たちの更生の一助になればとの思いで、女子少年院や更生施設にも足を運ぶ。今年は、東日本大震災の被災地にも、たびたび赴いた。

外観(顔)は心に影響を与える

そうした活動の中で、かづきさんが探求し続けるのは、「顔」と「心」と「体」の関係性である。
「赤ら顔の悩みを打ち明けると、大人たちは決まって、『人間は顔じゃない。心を磨きなさい』なんてことをいう。それが悩める、ましてや思春期の少女の救いになるはずもありません。日本では外観が心に与える影響について、正面から語ることをあまりにもないがしろにしてきたのではないかと思います」
かづきさんがリハビリメイクに取り組む上で大事にしているのは「ふつう」ということ。たとえば、やけどを負った人がそれを隠すために特殊な道具を使っていたのでは、どんなに上手く傷跡を隠せたとしても、メイクをするたびに、『私の顔には、やけどの傷がある』ということをつきつけられることになる。そういった精神的な圧迫からも解放されなければ、真のリハビリメイクではないという信念がそこにはある。
 「リハビリメイクで『特別扱い』はいけないのです。ですから、私は一般の人と同じ化粧品を使いますし、メイク手法も一緒です」
一般の人が、しわやしみをメイクで隠すのと同じようにやけど痕を受け入れられるようになる。やがて、誰にも打ち明けられなかったはずの顔のやけどについて、自分から人に話したり、見せられるようになっていく――これがリハビリメイクの持つセラピー効果なのだ。
 かづきさんはその効果について、リハビリメイクの研究を始めた当初から、活発に論文発表してきた。医療現場からも注目され、リハビリメイク外来を設ける病院が登場。がん病棟や心療内科、更年期障害の治療などにもその発想が取り入れられ始めている。
 「がんや膠原病の患者さんがメイクで元気そうになった自分を見て気持ちが上向きになり、闘病にも前向きになった結果、病気が劇的に回復したという例は枚挙に暇がありません。自分がきれいになって嫌がる人は誰もいませんよね。それが免疫力やQOLの向上に影響を与えていることを、最近では科学的に数値化できるようになってきました。今後、リハビリメイクを学問にし、海外にも広めていきたい」
かづきさんのリハビリメイクへの挑戦はまだまだ続きそうだ。

かづきれいこ

フェイシャルセラピスト/歯学博士

かづきれいこ

大阪生まれ。メイクを通じて女性の心理を追究。また、医療機関 と連携し、傷跡ややけど痕などのカバーや、それに伴う精神のケアを行うリハビリメイクの第一人者。