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アサヒビール

「安全」への挑戦

安全ランキングで1位を続ける技術力

食品会社にとって、食の安全は文字通り生命線だ。アサヒビール株式会社「食の安全研究所」は、その高い技術力で、安全面からトップブランドを支えている。

安全ランキングで1位を続ける技術力

日経BP社が毎年実施している「食の安全・安心ブランド調査」。約1万人の消費者に、企業が安全・安心に取り組んでいるかのイメージを尋ねる調査で、2009年、2010年と2年連続1位に輝いたのがアサヒビールである。
安全・安心を支える高い技術力と、それを広く広報する姿勢が評価されたもので、2005年の調査開始以来、トップ3から外れたことはない。
「お客様は、アサヒビールを信頼してその製品を買ってくださっています。その信頼に全力で応えることが、私たちの責務です」
というのは、アサヒビール「食の安全研究所」の望月直樹所長だ。

一日ビール1000万本の安全を保証する

一日ビール1000万本の安全を保証する

昨年のアサヒビールの出荷量は、ビール類だけでも224万3千キロリットルに達している。大瓶に換算して、1億7719万5000ケース。一日あたり1000万本近くが出荷されていく。それだけに安全・安心のための同社の取り組みは徹底している。的確な管理方法が提示され、全社員に共有され、それらを繰り返す中で熟成されてさらにキレを増していく。
その安全管理の司令塔ともいうべき存在が、食の安全研究所だ。グループ会社の全商品について、安全に関わる分析技術を“開発”し、その技術が全国の工場やグループ会社の品質保証に役立っている。
設立されたのは2007年。消費者の食の安全に対する意識が高まり、さらに食品の残留農薬に関する基準が厳しくなったことに対応するために、より高いレベルの分析化学技術を社内に持ち、その技術を用いて製品の安全性を保証する機関として、グループを横断して人材を集めた。茨城県守谷市に位置する同社の研究開発センターには、現在、食の安全研究所を含め400名の技術者が集い、100台を超える分析装置が、軽快なファンの音を奏でている。

分析現場で高まるスピードの重要性

食の安全を確保するためには、安全な原料の確保が必須。そのためには、信頼のおけるサプライヤーと良好な関係を構築し、自社の中に優れた分析技術を保有して常にチェックを怠らないことが重要である。製造工程で異物が混入しないよう、流通過程でトラブルが起きないよう管理するなど、必要な項目は多岐にわたる。だが、最終的に食の安全を担保し、保証するのは「科学的な分析データだ」と、望月所長は強調する。
「確かなデータに基づき、工程のすべてを科学的に管理することが大切です。我々研究所に課せられている責任の重さは重々自覚しています」
と、語気を強める。とはいえ、食の安全に対する意識や規制は、今も高まり続けており、分析対象となる化合物はますます増大し、また事業の拡大に伴い対象となる製品も増える一方だ。同研究所にとっては、データの正確さと共に、スピードも重要な課題となっている。
そこで重要となるのが、短時間で高感度な一斉分析が行える装置だ。同研究所では設立以来一貫して効率の高い分析ができる装置を導入し続けており、各分析装置メーカーの最先端機種がその性能を競うレース場のおもむきを呈している。
そうした装置群の中で、島津製作所の超高速液体クロマトグラフ「Nexera」も稼働している。
「従来に比べ測定時間が約20分の1に短縮されたことで、飛躍的に分析の効率が向上しました。また、従来から装置内にサンプルの吸着が少ないのが島津製高速液体クロマトグラフの特徴でしたが、この装置ではさらにその性能に磨きがかかっています。その結果、より精度の高いデータが得られるようになりました。Nexeraを中心にしたシステムでさらに高速で精度の高い分析法を開発していきたいですね」(望月所長)

食の安全研究所で稼働するNexera

食の安全研究所で稼働するNexera

Nexeraは、その優れた操作性も注目されている

Nexeraは、その優れた操作性も注目されている

壁が低いから実現できた体系的な教育

世界レベルの安全基準を導くために

トップブランドの研究所だけに、その動向に、多くの目が注がれている。
「よいデータが出たからといって、我々だけが、納得していたのでは意味がない。その分析法が、信頼のおけるものであること。つまり、精度・真度・選択性の全てにおいて、科学的に妥当性が証明され、オーソライズされる分析法でなければならない」(望月所長)
と、分析データの正確性を強調する。
もちろん、同研究所の技術力は同業他社の間でも高く評価されている。ここで開発された分析技術が、日本の食の安全をリードしているといっても過言ではない。
だが、まだ課題はあるという。
「国の定める安全基準等を見ても、欧米が日本より先行しているものが多い。商品の味や価格と共に、安全管理技術を世界レベルに適合させること。それが、私たちの義務であり、お客様の信頼に応える最上の手段です」(望月所長)

profile

アサヒビール株式会社 理事 食の安全研究所長 薬学博士

望月直樹(もちづき なおき)

化粧品メーカー、樹脂メーカーを経て、1988年、アサヒビール(株)中央研究所 に入社。総合評価センター安全健康評価部長、分析研究所安全評価部長などを 経て、2007年、食の安全研究所設立に伴い、所長に就任。日本分析化学会関東 支部常任幹事、日本分析化学会理事を歴任。日本食品衛生学会理事。東京大学 大学院、京都大学大学院、中部大学大学院などで教鞭も執る。