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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

癒しがテーマの次世代太陽電池「色素増感太陽電池」

発電するインテリア

独立行政法人 物質・材料研究機構 次世代太陽電池センター センター長 工学博士 韓 礼元

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加工の自由度が高く、低コストで作れると期待がかかる色素増感太陽電池。
現在の太陽電池の重要な素材であるシリコンの不足が次第に現実味を帯びてくるなか、次世代太陽電池の本命として注目を集めている。

色も形も自由自在

「インテリアのような太陽電池が作れたら。そう夢見てるんです」
と微笑むのは、世界トップレベルの研究拠点の一つである(独)物質・材料研究機構次世代太陽電池センター(茨城県つくば市)センター長の韓礼元博士。次世代太陽電池の代表格とされる色素増感太陽電池研究の第一人者だ。
色素増感太陽電池は文字通り、色素を増感剤として使用し発電させる太陽電池。通常のシリコンを用いる太陽電池に比べ、5分の1~10分の1と低コストで大面積のものが製造できる。
最大の特徴は、色や形状の自由度が高いことだ。特に色については、いろいろな色素素材が利用できるため、赤、緑、青など実にさまざまな色の電池を作ることができる。
「好きな色、好きな形、好きな場所で太陽光発電を日常生活の一部として“楽しめる”。それが大事なんです」

太陽電池の壁ボードや日傘も

コンピュータやテレビも、かつてはいかにもデバイスといった形状だったが、次第に丸みを帯びたり、カラフルになって、インテリアとして安らぎや洗練した印象を与えるようなデザイン要素が加わって発展してきた。
色素増感太陽電池が実用化されれば、たとえば、壁ボードや屋根板を張り替えるように、日曜大工気分で太陽電池を設置できる。基盤にフィルムやプラスチックを利用すれば、曲面を作り出すこともできる。日傘や帽子がそのまま太陽電池になったり、複数の色素をモザイクのように配列することができれば、絵画型太陽電池も実現できるかもしれない。
「使ってみたいと思わせる魅力的なもの、『人の心を癒す商品』でなければ発展していきません」

現実的な「商品」を目指して

韓センター長は、もともと紡績の研究者だ。日本の大学で染色を学び、そのまま日本の民間企業で色素増感太陽電池の研究に出合い、開発を行ってきた。
現在の課題は、シリコン太陽電池に比べて光電変換効率が低いことだ。韓センター長は以前、最大11.1%の世界記録を達成している。これをシリコン系太陽電池並みの常時11~15%に引き上げ、耐久性や安定的量産が確立されれば、安価でユニークな太陽電池として主流なものになると期待されている。
また、発電コストも重要だ。同センターでは、シリコン型に迫る発電効率で、火力発電と同等のコストを達成することを目標としている。
しかし、電気を発生するメカニズムなど、まだ解明されていない部分も多く、実用化にはその解明も重要なカギとなる。島津のUVやLCMSなどの最新装置もその研究に一役買っている。
色素増感太陽電池は、色素によって光エネルギーを利用する点で、光合成にたとえられることが多い。
「光合成のエネルギー変換効率は、せいぜい2%。自然の営みは、何事もゆっくりなんです。人間は少し急ぎすぎですね」
と笑う韓博士。博士の研究室から驚くような成果が生まれる日は近いかもしれない。

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独立行政法人 物質・材料研究機構
次世代太陽電池センター センター長
工学博士

韓 礼元(ハン リユアン )

中国・上海出身。1982年染料・染色を学ぶため京都工芸繊維大学に国費留学。88年大阪府立大学大学院修了。90年大日本インキ化学工業(株)で色素の研究に従事。93年シャープ(株)に移り、エレクトロニクスに関する有機材料とデバイスの研究開発に従事。色素増感太陽電池の研究を担当。2008年から現職。色素増感太陽電池の実用化に向けて、精力的に研究を続けている。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。