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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

時事の科学

幻想的に光る、緑色の光の秘密とは?

オワンクラゲと緑色蛍光タンパク質

   

オワンクラゲは、どんなクラゲ?

オワンクラゲは、直径10~20センチほどのクラゲ。日本各地の沿岸にも見られ、海面をプカプカと漂って、小魚などを食べて生活しています。ちょうどお椀をさかさまにしたような形がその名の由来で、刺激を受けると生殖腺が、外周を縁取るリングのように緑色に発光します。ただ、実際に光っているのを見ることは非常に難しいと言われています。

オワンクラゲが光る仕組みは?

オワンクラゲの体内には発光する細胞があります。そのなかに存在するイクオリンというタンパク質は、カルシウムイオンに反応して「青白く」光る性質があります。オワンクラゲが興奮すると発光細胞内に海水が流入し、海水中のカルシウムイオンでイクオリンの物質変化が起こり発光するというわけです。
しかし、イクオリンは青白く光るのに、オワンクラゲはなぜ緑色に光るのでしょうか。実は、イクオリンはもう一つのタンパク質と複合体となって、発光細胞内に存在しています。そのもうひとつのタンパク質こそ、『緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)』です。イクオリンが青白い光を放つと、GFPはそのエネルギーをそのまま受け取って、緑の光を放つのです。
GFPは、オワンクラゲのなかにほんの微量しか存在しません。ノーベル賞受賞記念講演の際、受賞者である下村脩氏(米ボストン大学医学校名誉教授)が、GFPの入った試験管に、イクオリン代わりのブルーライトで照らし、発光させていましたが、その試験管一本分のGFPは、オワンクラゲ約2万匹から抽出したものだったそうです。

写真ご提供:鶴岡市立加茂水族館

GFPは何に役立つ?

バイオテクノロジーの進歩に伴い、GFPは一躍脚光を浴びるようになりました。GFPは、非常に鮮やかな緑の光を放つタンパク質です。しかも、他の物質の力を借りなくても単独で光ることのできる性質を持っているのです。
遺伝子を操作して、調べたいタンパク質の遺伝子にGFPの遺伝子を融合させます。そうすると、そのタンパク質が細胞内のどこに存在し、どのように運ばれていくかが、青色の光や紫外線を当てるだけで、くっきりと見ることができます。
がん細胞に特異的なタンパク質を特定すれば、がん細胞が体の中でどう広がっていくかを見ることができます。また、昨年話題を呼んだiPS細胞の開発でも、重要な遺伝子がどれかを探る上で大いに貢献しました。
GFPは分子生物学や基礎医学に飛躍的な発展をもたらしただけでなく、新薬や画期的な治療技術の開発など、ライフサイエンスになくてはならない道具となっています。「生命の仕組みを観察する革命」となった発見に、世界が感謝の意を表したのが、今回のノーベル賞だったといえるでしょう。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。