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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

安全・安心・おいしいにとことんこだわった梅干づくり

株式会社オカハタ 代表取締役社長 岡畑 精一

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紀州梅の肉厚な実と芳醇な香りは、多くの人々を魅了してやまない。
中でも和歌山県田辺市にある岡畑農園の梅干は、ワンランク上の味わいを極めることで、
紀州梅ブランドそのものの価値を高め続けてきたと評判を呼んでいる。
そんな同農園の梅干作りには、島津の分析装置が欠かせない存在になっている。
岡畑精一社長に、梅干作りへの思いや分析装置の活用方法などについてうかがった。

新しいことを試し続ける

岡畑農園が正式に立ち上がったのは昭和43年。家族で農園業を営んでいた岡畑精一さん(代表取締役社長)が、「自分の作り育てた梅干を多くの人に食べてもらいたい」と、梅干などの梅製品の加工・販売事業を立ち上げた。
「新参者でしたが、自分で食べておいしいと思う梅干を作りたかったんです。こだわりの梅干を作るために、土作り、梅の木の育成、梅の実の育成を研究し自家農園はもちろんのこと、周辺の栽培農家にもノウハウを広めました。私は、嘘をいうのが嫌い。人をだますのが嫌い。まっすぐ正直に安心安全で美味しい梅干を作りたいから、努力を惜しまず、あるべき、当たり前のことを当たり前にやってきました」
斬新な試みの一つが収穫網だ。漁師から使い古しの網を借りて、収穫の前段階に農園の下に敷き詰めた。完熟して地面に落ちた梅を収穫する従来のやり方だと落下の際に表面が傷つく恐れがあったが、網を敷いたおかげで収穫できる梅が増えて、今では梅栽培の定番手法となった。
また、ビニールハウスでの梅干の天日干しも試みた。天候を気にせずに、寒い時期でも梅干が作れるだけに、これもスタンダードな手法となった。しかし当初は、品質的には変わらないのに「あそこの梅干はハウス干し」と偏見の目で見られたこともあった。それでも、自分が信じたやり方を続ければ必ず報われるとの信念を貫き通しながら、自らの道を歩んでいった。

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本来梅干は塩分により品質が保たれてカビも生えない。しかし塩分を抑えると、最も大切な品質管理の面でどうしても問題が起きてしまう。岡畑農園は昭和61年に味覚の数値化のために高速液体クロマトグラフを導入して以来、自社の研究室に高速液体クロマトグラフ(糖類・アミノ酸類の濃度理)、ガスクロマトグラフ(アルコール濃度の管理)、ガスクロマトグラフ質量分析計(農薬成分検査、残留農薬量検査)、紫外可視分光光度計(天然色素の評価)、高周波プラズマ発光分析装置(土壌・排水の分析)、オートグラフ(パッケージの開封の力分析)などの島津製の分析計測機器を導入し、厳しい品質管理を行っている。

食の安全と安心のために

その結果、昭和50年代に岡畑農園の看板とも言うべき製品が出来上がる。低塩調味梅干「うまい梅」である。低塩化すれば保存性が弱まり、長期保存食たる梅干としては致命的である。
「私は塩辛い梅干が嫌いなんです。塩分の取りすぎは健康にもよくないでしょ。だから、難しいとは言われましたが、低塩化に挑戦しました。低塩梅干は多くの人に受け入れられるという自信がありました。塩分が少なくてもカビを発生させず保存できる方法を昼夜考えました。ようやく製品化できたときは、本当にうれしかったですね」
この低塩梅の開発過程で岡畑社長が感じたことがある。人間の舌で計る”味“には、どうしてもムラが生じるという弱点だ。自分がいいと思った味が、ほかの人はそうでもない。そんな繰り返しの中で味を数値化すべく、分析機器の導入に取り組みはじめた。
「『そこまでは必要ないだろう』という機器も導入しました。納得できる味を実現させるためにも、私にとっては必要不可欠だと考え、妥協せずに設備投資しました」
設備の中には、島津の機器も数多く含まれる。例えば、糖類やアミノ酸といった味の部分を分析するための高速液体クロマトグラフ、含有アルコールの濃度を測るためにガスクロマトグラフを用いている。
近年、食の安全や安心への関心が高まっているが、代表的なところでは、104種類にわたる農薬成分の分析に使用されるガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010)だ。
「私どもでは自前の農園のほかに、近隣の農家からも梅干を仕入れていますが、残留農薬量が一定基準を超えないように、ガスクロマトグラフ質量分析計を使用しています。年間400軒以上の農家の梅干を分析して、岡畑農園の梅干として生産しています」と研究室の嶋西俊之さんは説明する。ほかにも梅干作りに用いる井戸水の安全を確かめるために、高周波プラズマ発光分析装置が活躍している。
「信頼できる島津の機器を導入したことで、安全と安心を守るための確かな裏づけができたと実感しています」
従業員60~70人の食品会社が、これだけ多彩な装置を導入しているのは”異例“のこと。しかし岡畑社長にとって、梅干と真正面に向き合い、自分たちの思いを具体的な形にするためには当然のことなのだ。

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豊かな自然に囲まれた梅園では最高品質の国産紀州梅が育まれている。

環境負荷の軽減にも挑戦

岡畑社長は、農園にはまだまだ改善すべき点が山積みだと痛感しているという。今もなお、さまざまな観点からの整備に挑戦しているが、特に力を入れているのは環境保護への取り組みだ。
「この農園は川の上流に位置しているので、周辺地域や下流域にも、環境には細心の注意を払っていくように心がけています」 既に廃材をチップ化して堆肥にしたり、排水を浄化したりといった取り組みを実践している。そして今、もっとも力を注いでいるのは汚泥ゼロの達成。既に90%程度を実現している。 「地域への貢献という意味でも、より魅力ある製品開発を意識しています。実は今、梅作りに力を入れる農家が増えているので、原料が次第に余ってくるのがわかります。私たちの製品力が高まれば、地域の農家のみなさんに還元できるはず。頑張っていきたいですね」 数十年にわたって真摯に梅作りに向き合ってきた岡畑社長の飽くなき挑戦は、これからも続いていく。

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株式会社オカハタ 代表取締役社長

岡畑 精一(おかはた せいいち)

http://www.okahata.com/

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。