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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

Special Edition “life”

未来は,英知集うところに

特別対談

第5期に入った国連大学「アジア水圏沿岸域における環境モニタリングと管理」プロジェクト。
島津製作所は前4期に引き続き、今期もパートナーとして支援する。
その調印式にあたり、服部重彦社長は国連大学のオスターヴァルダー学長のもとを訪ね、支援への意気込みを語った。

人と地球の健康への願い

服部重彦島津製作所社長(以下、服部) まずは、「アジア水圏沿岸域における環境モニタリングと管理」が5期目を迎えられたことを、お祝い申し上げます。96年にスタートして13年、ここまで続けてこられたことに、敬意を表します。
オスターヴァルダー国連大学学長(以下、学長) こちらこそ、お礼を申し上げなければなりません。このプロジェクトでは、当初から島津製作所に多大な支援をいただきました。なにより各国の技術者のトレーニングを引き受けてくださったことが、プロジェクトを支える大きな力となりました。高い技術を持った研究者が増えて、データの信頼性も高まり、国際会議で採用されるほどのデータもそろってきています。これは大きな誇りです。
服部 そう言っていただけると何よりです。私たちは、「科学技術で社会に貢献する」を社是に、「『人と地球の健康』への願いを実現する」を経営理念に掲げており、このプロジェクトは、まさに私どもの考えと合致していました。しかも、分析計測機器メーカーとしての特色を発揮することもできます。私どもとしても大変良い経験となりました。
学長 5期目(2009年~2011年)も継続して支援をいただくことになります。今回はPCB(ポリ塩化ビフェニル)も調査候補物質として取り上げ、残留性有機物質をより包括的に調査することになります。
服部 PCBは、使用停止や処理を完了するようストックホルム条約で定められた物質です。優先度が高く、意義深いプロジェクトになるでしょう。微力ながら島津としてもお力添えをさせていただきます。

   
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第5期・国連大学環境プロジェクト調印式

アジアの水資源を取り巻く課題

服部 オスターヴァルダー学長は、スイスのご出身と伺いました。
学長 ええ。スイスの生まれで、チューリッヒの大学で教鞭を取っていました。
服部 私も訪れたことがありますが、景観も水も空気も非常に美しいところですね。
学長 水はスイスにとって貴重な資源です。ライン川やローヌ川などスイスを源とする大河川も多く、ヨーロッパの水がめとも呼ばれています。しかし、70年代には汚染が進んで、泳げない湖も多かったんです。さまざまな規制が実施されて、今はかなり改善されましたが、当時のことは多くのスイス国民にとって苦い記憶として残っています。
服部 それでも、その苦難を乗り越えて、今やスイスも含めEUでは、水資源に対する協調管理体制を構築されています。アジアでも、河川と海という違いこそはあれ、EUの取り組みは参考にできるところが多いと思います。
学長 EUの体制は、一つの理想かもしれません。しかし、アジアで同じような監視体制を整備することは、EUよりもずっと困難が伴うだろうと私は考えています。というのも、アジアは非常に多様性に富んでいて、シンガポールのような都市国家があれば、かたや世界一の人口を抱える中国のような大国もあります。日本のように経済安定期にある国もあれば、まさにこれから高度成長を始めようとする国もあります。文化的、経済的背景の違いは環境問題へのスタンスに大きく影響するでしょう。
服部 たしかに、課題は多そうですね。

環境問題を核にアジアをひとつに

学長 とはいえ、私はある希望を持っています。「グローバル・ポリティクス」と、私は呼んでいますが、環境問題の解決のために、政治がグローバル化できないかという夢です。経済や科学は、すでに国境を越えたネットワークが完成の域にさしかかっています。これと同じように政治がネットワーク化して、環境問題に一致協力して当たれば、根本的な解決へとつながる可能性があります。
服部 なるほど。ユニークなお考えです。
学長 少し違う観点からお話しましょう。ヨーロッパでは、長い間、ドイツとフランスの間で戦争のなかった世紀はありませんでした。ところが、第2次世界大戦終結から60年間、両国は戦争をしていません。これは両国の歴史からすれば、大変希有なことです。未曾有の被害を経験し、両国はようやく気付いたんです。こうしたことは二度とあってはいけないと。その気付きの中からEU統合への動きが芽生え、ヨーロッパは結集しました。同じような動きが、アジアにおいては、環境問題を核として進められるのではないかと期待しています。
服部 そうなれば、各国にネットワークを持つ国連大学の活動の意義はますます大きくなりますね。
学長 もちろん国連大学だけの力でできることではありませんが、他の国際機関、そして島津製作所のような企業の協力が得られれば、不可能ではありません。アジア水圏プロジェクトの成否は、その一里塚になるでしょう。
服部 アジアの各国の成長と、協力体制の構築に貢献できるなら、島津としても本望です。プロジェクトの成功を心から願っています。本日はどうもありがとうございました。

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第5代国際連合大学学長、国際連合事務次長

コンラッド・オスターヴァルダー教授 Konrad Osterwalder教授

物理学者。1942年、スイス生まれ。70年、スイス連邦工科大学で理論物理学の博士号を取得。主に相対性場の量子論における数学的構造、素粒子物理学、統計力学に関する研究を行うと同時に、20年以上にわたって自然科学と工学の同大で教鞭を取る。95年には同大学長に就任。臨時総長も務める。07年から現職。UNITECHインターナショナル(ヨーロッパの8つの工科大学と25の国際大手企業の共同イニシアチブ)の総裁も務めた。

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(株)島津製作所 代表取締役社長

服部 重彦(はっとり しげひこ)

 
 

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。