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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

タフで繊細な天びんの心臓部 ― 島津天びん90周年

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小振りなジャガイモ一個の重さは100g 前後。これを手を滑らせてしまい、50㎝の高さから落としたとすると、はかりには0.49Jのエネルギーがかかる。1kgのブロックを5cmの高さから落としたのと同じエネルギーだ。
キッチンメータならこれくらいの衝撃は平気だが、精巧な電子天びんならどうだろうか。

天びんというと、お皿が二つ乗っている上皿天びんを想像する方も少なくないだろうが、現在の主流は電子式で、見た目ははかりとほとんど変わらない。だが、その内部のメカニズムはずっと精巧だ。心臓部となる質量センサとつながった台の上にモノを載せると、その質量と釣り合うだけの力を電磁石で発生させて、平衡を保持する。お皿は一つだが、原理は上皿天びんそのものだ。
もちろん電子化されることで、精度は格段に向上している。エアコンのわずかな風ですら、数値を左右してしまうほど繊細な感度を持ち、1000分の1g、10000分の1gの違いが大きな問題となるような、例えば医薬品の検査や食品中の添加物の量など、私たちの安心や安全を厳密に守らなければならない場所で活躍している。
高感度な分、機構も繊細にならざるを得ない。通常、質量センサは、材質の異なるおよそ70点の部品の組み合わせでできている。
一般の電子天びんは乱暴に扱うと、部品同士が干渉してバネが切れてしまう。そのため、取扱いには精密機械ならではの細心の注意が必要な装置だ。

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ユニブロック機構を採用した電子天びん「Amidia TX323L」
ひょう量320gで最小表示は0.001g。分解能は32万分の1に及ぶ。

近年、各産業分野で厳密な製品の質量検査を求める風潮が高まっており、電子天びんのニーズは増え続けている。そんな状況下で、使い手を選ぶ繊細さは、事業の停滞にもつながりかねない。電子天びんに求められる「精密」と「頑丈」という特性。ユーザーはもちろん開発者にとっても悩みの種だったこの相反する課題を、島津の技術が克服した。それが新世代質量センサ「ユニブロック」である。島津が世界に先駆けて開発したアルミ一体型質量センサ、OPFセンサ(国内特許及び米国特許取得済)に更に改良を重ねた全く新しい質量センサで、これまで約70点もの部品で構成されていた従来のセンサブロックを一塊のアルミ合金で再現。ネジやバネなどは一切使わず、タバコの箱ほどのアルミの塊に精密放電加工を施し、ごく細い切り込みをいれていく。場所によっては、厚さ70ミクロン程度を削り残し、そこをバネとして用いて、一体型でありながら、上に質量が加わると細かく動く可動部を作り出している。
この機構の開発により、衝撃に強くなったことはもちろん、素材により熱膨張率が異なることでおこる歪みの発生も最小限に抑えられるようになった。さらに応答性も向上し、実に使いやすい製品へと生まれ変わったのである。
現在、島津の電子天びんはソフト面での使いやすさも追求。さらなる進化を続けている。家庭のキッチンメータのように「誰でも手軽に使える」天びんが、近い将来登場するかもしれない。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。