バックナンバーBacknumber

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

SHIMADZU GROUP

女神のサイクル

「サービスの時代」と叫ばれるようになって久しい。
商品の価値はモノだけでなく、むしろその後のサービスが商品購入の動機ともなる。
そんな時代の流れのなかで、島津の価値を維持し、さらに高めるため、サービス会社の役割は急速に高まっている。

サービス会社は人材がすべて

「今日から始業時間は8時30分とする」 4年前、東京島津科学サービス(現島津アクセス)の鈴木紀夫社長が就任したとき、まず行なったのは、始業時間が支店、営業所の生い立ちにより9時、8時30分とばらばらであったのを8時30分に統一することだった。
「早めの始業のお客様があるのに、サービスマンがいないのでは話にならない。早い方に統一することは当然のことです」(鈴木社長)
東京島津科学サービスは、島津製作所が製造・販売する分析・計測機器の据付け、アフターサービスを担当するサービス会社だ。東日本と北陸三県を15の本支店でカバーしている。
どんな機械もアフターサービスは重要だが、ことに分析・計測機器はその存在を抜きにしては語れない。計測するのにX線を使うものもあれば、光を使うもの、熱を使うものといろいろある。計測の対象も液体、気体、固形物と幅広い。前処理の工程も考えれば、試料の数だけ、違う使われ方がされているといってもいい。機械である以上、故障も避けては通れないが、それすらユーザーによって症状は千差万別で、よほど装置に精通していないかぎり、自力でどうにかできるものでもない。
購入するだけでは意味がなく、それが遅滞なく機能してくれてはじめて価値を持つ。分析装置というのは、そういう種類の商品である。
それだけにサービス部門が果たすべき役割は大きい。それぞれの機種の操作、構造に関する知識はもちろん、ユーザーの事情にも精通し、装置の使用状況から故障の発生原因を突き止め、迅速に対応する必要がある。
「この会社を任された当初、故障の一報から48時間以内に対応することを活動の基準にしていたんです。でも、そんな悠長なことはいっていられないとすぐに思いました」
「サービスは人材がすべて」と強調する鈴木社長。東京島津科学サービスの社長に就任する前は、同じ島津のグループ会社である島津メディカルシステムズを率いていた。レントゲン装置などを扱う医用機器のサービス会社で、病院が主な顧客である。
人の命がかかわっているだけに、医用機器のサービスに求められる基準ははるかに厳しい。昼も夜もなく、最速で対応することが求められる。厳しい現場で培った意識を、分析装置のサービスにも活かしてもらいたいという思惑が、『サービスの時代』を踏まえたグループ人事に影響を及ぼしたことは想像に難くない。

「サービス会社は人材がすべて」と語る鈴木社長

技術+コミュニケーション

その狙い通り、鈴木社長は就任以来、手をゆるめることなく改革を進めた。まず48時間以内対応を24時間以内対応とすることを目標に、人員の増強、および質の確保を推進した。サービス員の新規採用を倍増し、島津本社の協力も得て、多品種に対応する技術力を養成。加えて、顧客のニーズを正確に汲み取るため、対話力の養成にも重きを置いた。教育研修業で実績のある株式会社ジェックと共同で、東京島津科学サービス独自のサービストレーニングセミナーを開発。一年をかけてサービス員全員が受講する。
「たとえば、お客様と会話しているところを再現して、それをビデオで撮影するんです。で、あとからそれを見て講師と一緒に改善点を見つける。『いやあ、自分にこんなクセがあるとは』と納得する社員も多くて、それを意識するようになれば、ずいぶんと違ってくるはずです」

好循環のシナリオ

また、サービスメニューの改変も進んでいる。これまでのサービスは、便りがない(故障がない)のは無事的な受け身のサービスであった。現在、力を入れているのは故障したらではなく、予防措置として定期的に点検を行い、必要があれば部品を交換する保守契約サービスだ。無償期間の期限が近づいたところで顧客に案内をして、そのメリットをサービス員自らセールスマンとなってアピールしていく。
こうした取組みの成果は着実に表れており、同社の売上高は右肩上がりで伸びている。さらに、島津本社の営業とも密に連絡を取り合い、顧客のニーズを島津グループ全体で共有する仕組みづくりも着々と進んでいる。
「装置自体の性能差が同程度なら、次に購入を考えるときに、お客様はサービスの質が良いメーカーの製品を選択してくださるでしょう。サービス員は、その最前線でお客様と接して、質の高いサービスを提供して、お客様のニーズを汲み取る。営業はそのニーズに基づいて最適な商品をお勧めして、さらには新製品の開発にも役立てる。このサイクルこそ、お客様に真に貢献できる唯一の方策ではないでしょうか」
この好循環のシナリオに「女神のサイクル」と鈴木社長は名付けた。
「サイクルにかかわるすべての人に、女神が微笑んでくれるようにと。もちろんうちの社員にもです」

東京島津科学サービス株式会社

代表者
代表取締役社長 鈴木紀夫
本社
東京都台東区浅草橋3-32-5 Tel. 03-3864-0555
設立
昭和43年4月1日
事業内容
分析機器・表面構造解析機器・物性測定機器・ライフサイエンス機器及び応用システム製品の据付、調整保守管理などのサービス業務

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。