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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

SHIMADZU GROUP

ものづくりの遺伝子

高いソフトウェア技術力とユーザー密着の姿勢で使いやすく高性能な装置開発に貢献

島津製作所は、高い技術力で独創的かつ高性能な機器を開発し、科学の進展に寄与することを旗印にしている。
その技術力のソフトウェア部門を支えるパートナーが島津エス・ディーだ。
島津製作所が創設以来保ち続けてきた技術者魂が、この会社にも脈々と受け継がれている。

島津の製品開発に不可欠なパートナー

島津エス・ディーは、島津製作所が製造する分析計測機器、医用機器などのソフトウェア開発を行なう会社である。
同社の設立は1985年のこと。80年代、マイクロコンピュータの登場により、島津製作所が手がける分析計測機器や医用機器もマイコンを搭載した。それまでは技術といえば電気設計を意味していたが、加えて、ソフトウェアの開発技術の比重が急速に増したのだ。
時代の変化に敏速に対応すべく、ソフトウェア開発の重要性を強く打ち出した島津製作所は、専門の組織を作ることを決定。島津内外から技術者を確保・養成し、85年には情報システム関連部署からの出向者も加わって、島津エス・ディーを立ち上げた。
以来、島津エス・ディーは、島津製作所の多業種・多品種の制御ソフトウェア、応用ソフトウェアを、島津製作所の各技術部と連携して開発している。分析計測機器、医用機器など、世界から高い評価を受けている機器群の開発製造に、なくてはならないパートナー会社である。

装置とともにあるソフトウェア開発

「正確に計測したい」「だれにでも扱いやすい装置に」など、ソフトウェアは大規模・複雑化しており、使い易さ、高精度への要求も高い。それぞれのお客様の多岐にわたるご要望を支えているのがソフトウェア技術である。
「汎用プログラムではないので、装置と一緒に動かしてみないとわからないことが多く、ソフトと装置の開発とは常に一緒で一体なのです」と語るのは、島津エス・ディーの松本慎吾社長。ハードはもちろん、そこに組み込まれるソフトウェア、装置を制御するアプリケーション開発も、一点一点オーダーメードに近い作業になる。社長自身も島津製作所の分析機器の歴史を作ってきた一人で、電気系を担当した技術者だ。2003年の社長就任以来、技術に裏打ちされた経営手腕を発揮して、売上高、利益とも過去最高を更新している。

再来受付システムMERSYSの前で
島津エス・ディー株式会社 代表取締役社長 松本 慎吾 

開発仕様書の行間

「装置とソフトが一緒である」ことこそ、島津エス・ディーの強みだと胸を張る。
ソフトウェア技術の革新は目覚しく、ひと時も休むことなく、トレンドをキャッチアップしていくことが求められる。島津エス・ディーは独自の報奨制度により技術者のモチベーションづくりに力を入れている。最先端の技術に精通した技術者の養成はもちろんだが、それ以上に求められるのが、島津製品独自のノウハウや顧客ニーズの理解だ。独自性の高い島津の装置群のソフトウェア開発には技術力が不可欠な要素だ。島津エス・ディーは島津の先端技術に最も精通したソフトウェア会社である。
また、装置のハードとソフトを密着させた開発をしているので、常にお客様が使われる場面をイメージし、誰が、いつ、どのような状況で使うのか、そしてどういう結果を求めるのか、そのためには何が必要なのかを技術者同士がディスカッションしている。新たなプログラムを開発する際に作成する開発仕様書には、こうしたユーザー密着の姿勢が盛り込まれていく。

独自開発のユニークな製品群

この姿勢は、島津エス・ディーが独自に開発しているユニークな製品群にも貫かれている。
病院等に設置して、患者さんが受付をする「再来受付システムMERSYS [メルシス]」は、島津エス・ディーで開発したヒット作だ。後発でありながら、現在も順調に売り上げを伸ばしている。
装置のそばに近づくと人感センサーが働いて音声と画面でガイダンスを始める。診察券を入れると、診療科や受診内容が大きな文字で表示され、音声ガイダンスに従ってタッチパネルを操作するだけで受付を済ませられる。
受付票と診察券の排出スロットはごく近くにレイアウトされており、片手で一緒に受け取ることができ、取り忘れを防止する使いやすい設計になっている。また、手荷物を置いたり傘をかけたりできる荷物置きがあったり、患者さんにとってフレンドリーなカラーバリエーションを採用するなど、細かい気配りもなされている。
「受付をする機能だけなら、パソコンを置いただけで十分果たせるかもしれません。でも、それではわざわざ患者さんの負担を増やすようなものです。ソフトウェアを組む時には、使う人の顔を思い浮かべて作るんです」(松本社長)

アイデアをどうつなぎあわせるか

もともとは、ある取引先の「こんなのがあるといいな」という声からスタートした製品だったが、島津エス・ディーの手にかかって、「使う人本位」の製品に仕上がった。もっとも、ソフトウェア会社のエス・ディーだけで完成品が作れるわけではない。機械設計は同じ島津グループ会社の島津エンジニアリングに依頼し、デザインスケッチは島津本社のデザイン室に依頼した。様々な技術を持っている同社にとって、この装置のソフトウェア技術は、さほど難しいものではない。しかし、
「使いやすいものにするために、どんな技術をつなぎあわせればよいか、そのアイデアが大切なんです」
幅広い技術を持っているからこそ、” アイデア“の組み合わせから生まれた製品は数多く、バーコードリーダ付のPHS電話機を使った「看護支援システム」、ハンディターミナルと無線LANを活用した「倉庫管理システム」など、バラエティに富む。いずれの製品も使用者の負担を減らしつつ、最大限に効率化、成果を上げることを目的としており、各方面から高い評価を得た。なかでも京都大学と共同開発したパッケージソフト「薬品管理システム」は、この分野のデファクトスタンダードになっている。

だれもが使いやすいアプリケーションを

島津製品に話を戻すと、島津エス・ディーでは装置に組み込むソフトウェアのほかに、各装置を接続したLAシステムや自動化システム、データ管理システムなども提案している。さらに、各企業や工場でネットワークを介してWebブラウザで測定データを閲覧・検索するWebサーバソフトや分析結果の帳票ソフトの開発も行っている。 こうしたアプリケーションの重要性については改めて繰り返すまでもないだろう。現在、分析計測機器、医用機器などは、一部の研究者・技術者だけが扱うものではなくなってきている。スピード化、より複雑化する現場で、誰もが手軽に正確なデータをとることができ、それを活用できるような、使いやすくて見やすいアプリケーションが求められているのだ。 日々進化するソフトウェア技術にも島津製作所の技術者魂が息づいている。

島津エス・ディー株式会社

代表者
代表取締役社長 松本慎吾
本社
京都市中京区西ノ京徳大寺町1番地 Tel. 075-841-9112
設立
昭和60年4月22日
事業内容
分析計測、医用、航空、半導体機器関連ソフトウェアの受託開発。医療情報システム、物流システム、薬品管理システムの販売。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。