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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

電気で土を浄化する

建物を壊すことなくその下の土を浄化する土壌浄化ソリューション

島津グループは、分析計測装置による環境事業からより踏み込んだ「環境ソリューション浄化」事業へ歩みを進めている。
その代表例が「電気修復法による土壌浄化ソリューション」だ。
独自の技術で、たとえ対象の土地の上で工場が操業していても、電気的に有害物質を除去できるものとして、関係者の注目を集めている。

長期間とどまり続ける土壌汚染

『工場跡地から環境基準を超える有害物質を検出』
『井戸水から重金属を検出』
連日のように新聞紙面をにぎわす土壌汚染関連のニュース。私たちは、足元に大きな脅威を抱えている。土壌汚染は、高度経済成長の残しだ。そして、汚染はそこにあり続けている。
役目を終えた古い工場を取り壊してみると、その土地が汚染にさらされていることが明らかになるケースが相次いでいる。
土壌汚染は、放置すると人の健康被害に発展しかねない。例えば土中の有害物質が、地下水に流されていけば、周辺一帯に汚染を広げてしまう。事業者にとってみれば、重大な信用失墜にもつながりかねない。

実証実験の現場

一筋縄ではいかない土壌浄化

2003年、土壌汚染対策法という法律が施行され、要件を満たす土地では土壌汚染の調査と、汚染が発見された場合は対策を施すことが義務付けられた。企業の関心も高まっており、対策の実施事例も増えてきている。
だが、その対策の実態はというと、汚染土壌を掘って捨ててしまうか、それ以上広がらないよう鋼板を打ち込んだり、固化剤で固めてしまうといった方法がほとんどだ。掘り出すには大規模な工事が必要となり、捨てる場所は年々ひっ迫してきている。かといって固めたり閉じ込めるといった対策方法では、汚染は根本除去されない。

鉛やカドミウムなどの+(プラス)イオンの汚染物質は陰極へ、六価クロムやシアンなどの-(マイナス)イオンの汚染物質は陽極に向かって移動する。

イオン化させて重金属を回収

この状況に革新をもたらすと大きな期待を集めているのが、島津製作所が導入した電気修復法による土壌浄化ソリューションだ。
土壌中に井戸を掘り、そのなかに電極をいれたフィルターを設置する。フィルター内には電解液を循環させ、電極に直流電流を流す。すると陽極側では水素イオンが、陰極側では水酸化物イオンが発生し、これらを用いて土壌のpHをコントロールする。そうすると地中に含まれる重金属はイオンとなり、電極に向かって移動。電極に到達した重金属イオンは電解液中に溶け込み、電解液とともに重金属イオンを回収するという仕組みだ。
理論的には古くから知られてきた手法だが、日本ではこれまで原位置での浄化方法として実用化が難しかった。
だが島津製作所は、環境先進国オランダで実績を上げてきたホーランドミリオテクニーク社から技術を導入。粘土質が多い日本の土壌に合うよう島津の技術力を投入し、実験と改良を重ねた。そして土壌浄化のソリューション事業の提供を本格的に開始した。

静かに着実に原位置で土壌改善

電気修復法の最大のメリットは、汚染された土地の上に建物が建っていても、その周囲や下部に電極を設置することで処理が実施できることだ。工場地であっても、地上の工場は通常どおり稼動させながら、地下では土壌改善が着々と進められる。電解液を循環させるポンプが静かに震えるだけで、周辺環境への影響も少ない。
土壌中の汚染物質が電荷を持つ性質のものなら何でも取れる。稼動しながら土壌を改善したいと考えている企業にとっては、まさにうってつけのソリューションだ。
改良段階で行なった実証実験では、12平方メートル、1キログラムあたり450ミリグラムの六価クロムを含む土地から4ヵ月で土壌含有量基準値以下の1キログラムあたり50ミリグラム以下にまで低下させることに成功した。

初案件を受注

積極的に環境活動に取り組むある企業に、綿密な調査を行なったうえで、この手法の応用である地下水による重金属等の拡散を防ぐ「電気フェンス法」を提案し採用された。この秋には、5年間の計画で、稼動中の工場敷地で開始する。 土壌汚染対策法が施行された2003年から2007年6月末の時点で指定区域として登録されたのは205件、そのうち対策を施して解除されたのは、一部解除を含めても93件にすぎない。工場などの建て替えを予定していないなど、この数字に表れていないケースがまだまだ数多く存在する。土壌汚染対策法に対応しなければならないケースはもちろん、土壌汚染対策法による調査義務がないにもかかわらず、自主的に調査を行ない、自主的に汚染対策を行おうとしている企業にとっても、このソリューションは魅力的だろう。

VOC汚染の浄化にも有効

重金属以外にも、この技術を応用すれば、土壌を加熱して揮発性有機化合物(VOC)を地下水に溶出させ、その地下水とガスを回収。さらに土中の微生物に栄養塩を与えて生物学的に浄化することもできる。
島津の新しい土壌浄化技術は、遅れていた日本の土壌汚染対策への朗報として大いに期待されている。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。