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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

血管内治療の地域拠点

いつまでも健康で充実した人生であるために

奈良県立医科大学附属病院

中央放射線部血管造影・IVR室

奈良県立医科大学附属病院

昭和20年の開院以来、奈良県の中核的医療機関として、医学の進歩に伴う高度で先進的医療の提供を行うべく発展を続けている。〈特定機能病院、特定承認保健医療機関(高度先進医療)、災害拠点病院(基幹災害医療センター)、第一種感染症指定医療機関、地域がん拠点病院〉

〒634-8522 奈良県橿原市四条町840
TEL .0744-22-3051(代表)

広々としたスペースに血管撮影装置を集約し、血管内治療のための極めて機能的な空間を作り上げている奈良県立医科大学附属病院。その背景には一人でも多くの人に健康を提供したいという、医の原点があった。

国民病と戦うために

「はい、写しますよ」
検査台に横たわる患者さんに、医師が柔らかく語りかける。そのたびに、施術室とオペレーション室をしきるガラス越しにピンと張りつめた緊張感が伝わってくる。
奈良県立医科大学附属病院の中央放射線部。テニスコート3面分ものスペースに、5台の血管撮影装置が並び、医師、放射線技師、看護師総勢20人近くが装置の間を飛び回っている。
同部では、この体制の新しい治療で、患者さんにやさしいとして注目されている血管内治療(IVR)を数多く行っている。奈良県内はもとより、大阪、名古屋圏からも数多くの患者さんが訪れる、関西でも屈指の施設だ。
食生活の欧米化と高齢化社会を迎えて、動脈硬化により全身の血管が詰まったり(閉塞性動脈硬化症)、拡張する(動脈瘤)病気が増えている。これらの病気は生活習慣に起因することも多く、日本人の国民病といってもいいだろう。
「年をとればだれでも血管の弾力が失われて、動脈硬化が進みます。これは避けることができません。とはいえ社会の高齢化が進むなかで、高齢者は自立していかなくてはなりません。中央放射線部血管造影・IVR室の設置は、そうした時代の要請だったんです」(同院放射線医学教室 吉川公彦(きちかわきみひこ)教授)

地域医療の中核として

最近、動脈硬化によって足への血流が障害される閉塞性動脈硬化症(ASO)が発見される機会が増えている。発見の一翼を担っているのが、「血圧脈波装置」の普及だ。足と手の血圧を同時に計り、差異をみて、血管が狭くなっていることを推定する。
そうして発見されたASO疑いの患者さんが、同病院には多数来院する。その一人ひとりを超音波検査、MRI、CTなどで画像診断し、必要があれば血管内治療に移る。こうした地域医療の中核として機能しているのだ。

FPDが提供する「満足できる画質」

同病院では、昨年末に発売された島津の血管撮影システム『BRANSIST safire』の第一号機を導入した。「満足のいく画質だ」
とその性能を吉川教授は語る。
血管撮影は、少量の造影剤を血管内に注入し、それをX線撮影する。長くフィルムで撮影する時代が続いたが、20年ほど前から急速にデジタル化が進んだ。それにより、データの管理や加工、動画で撮影したときの「巻き戻し」「再生」などが非常に便利になったのだが、一方で、フイルムに劣る画質を指摘する声が方々であがった。
「画質が十分でなければ、どこにステント(血管拡張用の金属製の網)を置けばいいのか分からない。そもそもどこが詰まっているのかも分かりません。画像の鮮明さは血管撮影システムでもっとも優先したい課題でした」(同院中央放射線部 才田壽一副技師長)
デジタル化とはいっても従来はX線信号を電気信号に変換するまで、光を経由したり、さらに変換された画像を再撮影したりと、3~6もの変換過程を経る必要があり、その変換過程の数だけ散乱ボケやノイズの混入を避けることができなかった。
島津の『BRANSIST safire』はX線を受光する、いわゆるデジタルカメラのCCDに当たる部分に「直接変換方式FPD」と呼ばれる特殊な技術を採用している。この装置は、受光したX線信号を、様々な変換過程を経ることなく、そのまま電気信号に変えてディスプレイに表示する。そのため変換に伴うノイズやボケが発生しにくく、放射線量が低くても、極めてクリアな画像を映し出すことができる。また撮影視野も他社の受光部は7インチまたは8インチだが、島津のこの装置は一辺が9インチと広く、頭部を横から撮影した場合でも頭蓋内全域をすっぽり収めることができる。同院が『BRANSIST safire』を頭頚部撮影専用機として導入したのも、これが大きな理由だ。
「動脈はもちろん造影剤が広がって薄くなってしまいがちな静脈までもはっきりと見える。現場の医師たちには、非常に助かっています」(吉川教授)
「フイルムに匹敵する画質の動画を再生しながら、また静止画も並行して表示して、詳細を確認することもできる。システムとしての使い勝手も非常に向上しましたね」(才田副技師長)

血管撮影システム『BRANSISTsafire』導入1号機

中央放射線部 才田壽一副技師長

チーム医療の実現へ

「これらの装置を活用して、今後は血管外科や循環器内科とも連携したチーム医療の体制を充実させていきたい」と吉川教授は血管医療の将来像を語る。
血管内治療は、患者さんの負担が少なく、血管治療において非常に有効な手段だが、すべての患者さんに対応できるわけではない。場合によっては外科的手術によって血管バイパスを行う必要もあるし、継続的な投薬による内科治療が有効な場合もある。
同院の血管撮影装置には影が出ないように工夫された無影灯が取り付けられるなど、外科手術に対応できる仕様を整えている。血管内治療を行いながら、バイパス手術も並行できれば、患者さんの負担も少なく、入院期間も短縮できるだろう。
健康で充実した人生を、というすべての人の願いをのせて、今日も奈良県立医科大学附属病院はフル稼働している。

奈良県立医科大学
放射線医学教室 教授 医学博士

吉川 公彦(きちかわ きみひこ)

1980年奈良県立医科大学卒業後、同大学放射線科に入局。助手、講師、助教授を経て、2001年同科教授に就任。日本インターベンショナルラジオロジー学会理事、日本血管内治療学会理事ほか、多数の学会理事を歴任

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。