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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

食の安全を科学する

残留農薬のポジティブリスト制度導入で問われる食の安全と食品流通の将来

使っても良いとする農薬以外の残留を認めないとする農薬のポジティブリスト制度がまもなく施行される。
日ごと高まりを見せる食の安全を求める声に応えた形だが、食品の生産、流通の現場に及ぼす影響は小さくない。
生活協同組合連合会東海コープ事業連合の商品安全検査センターセンター長の斎藤勲氏に、ポジティブリスト制度施行の影響と、食の安全について尋ねた。

ポジティブリスト導入のインパクト

今年5月に施行が予定されている食品中残留農薬のポジティブリスト制度。原則すべての農薬を禁止するが、その中で「基準値以下の残留を認めるもの」を一覧表にして示すという方式だ。認められている農薬には基準値が設けられ、それを超えるか、あるいはリストに含まれない農薬が検出された食品は流通が禁止される。これまで使用されてきたネガティブリスト制度(原則規制がない状態で、規制するものだけを一覧表にして示すという方式)と比較すると、非常にすっきりとした制度で消費者にとってわかりやすいものになっている。
一方、生産の現場にとっては、非常に悩ましい制度といえる。使用可能な農薬のリストは食品ごとに定められ、それに含まれないものは一律基準原則0.01ppmを超えてはならない。仮にリンゴ農園の隣に梨農園があって、リンゴ農園がリンゴには使用が認められているがナシには認められていない農薬を使用したとする。それが風にのって流れ、風下の梨農園の作物にかかって一律基準を超えたら梨は出荷することができなくなってしまう。こうした農薬の想定外の飛散を「ドリフト」と呼ぶが、いま農家は今シーズンの農作物のドリフト低減対策に懸命だ。
「これは、非常に歓迎すべきことだと思います。農薬のイメージを悪くしている一因が住宅地での農薬散布。周辺に飛散しないドリフト対策で、周辺住民とのトラブルが減れば、すばらしいことです」
と語るのは生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品安全検査センターセンター長の斎藤勲氏。同所では現在、年間800件を超える検査を行ない、組合員の納得できる情報で食の安全性について組合員に裏打ちを提供している。
「組合員のみなさんに現状を正しく理解してもらって、知識を高めてもらうよい機会です」

農薬は怖くない

「農薬には、誤解が多いんです」
と斎藤センター長は打ち明ける。
斎藤氏は、長く愛知県衛生研究所に勤め、農薬問題に取り組んできた。
「60年代のような生産中心の農薬利用はなくなり、200種以上の農薬に安全な基準値が定められました。食品の安全性は大幅に改善されているんです。にもかかわらず、農薬はとにかくダメという声は根強い。もちろん減農薬、低農薬には農薬暴露低減や環境負荷低減の観点からも取り組むべきですが、まったくの無農薬ですべてを作るのは現実離れしています」
農薬はすべてだめとなれば、害虫、除草はすべて人手でやる等、農家の作業負担増大は免れない。その負担は価格となって当然家計にも跳ね返ってくる。それをよしとして絶対的な安全をとるのか、妥当な線で農家も家計も持続可能性を維持していくのが正しいのか。
「その判断基準を組合員に適切に提供するのが私たちの仕事です。そのためには、なんといっても詳しくて正確な検査が不可欠です」

きめ細やかな対応と開発力に期待

現在、同センターには、島津の高速液体クロマトグラフをはじめ多数の装置が導入され、残留農薬、食品添加物などの検査に活用されている。
「機械ですからトラブルはつきものですが、そんなときも使用者の立場に立って改善してくれるので、大変助かっています。また分析装置だけでなくその前後の工程を担うGPCクリーンアップ装置や、自分達で実際に抽出・精製・分析したアプリケーションデータを持っているというのも島津の優れたところといえるでしょう」
大局的に見れば農薬は安心できるレベルになっているが、個別にみれば輸入農作物から認可されていない農薬が検出されるなどトラブルはゼロにはならない。それを防ぐためにも同センターにおける検査体制の充実は至上命題だ。
「そこでなにより求められるのは機器の操作性です。これからは、専門的な技術を持っている人だけでなく初心者が少し訓練した程度の人でも検査の現場に立つようになるでしょう。パソコンくらいのビジュアルで、誰でも使えるような操作性があってもいいと思います。そうやって経験をつんで専門家になっていけば良いと思います。また、きめ細やかさ、融通が利くというのは、島津の誇ってもいい特質です。ぜひ我々の意見を取り入れていただいて、現場で使いやすい装置を開発していただきたい。と同時に、島津の技術力で驚くような機械が開発されることも期待しています」

GC/MSによる86種農薬の一斉分析

ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP2010

ハイスループットHPLC LC-20Aシリーズ

ガスクロマトグラフ GC-2010

液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-2010EV

斎藤 勲

1946年生まれ。金沢大学薬学部大学院修士課程終了。愛知県衛生研究所にて30年間食品中化学物質(農薬,カビ毒,重金属,汚染物,添加物等)の分析に従事。厚生労働省残留農薬分析法検討研究班で分析法の検討及び実態調査に参加。東海コープ事業連合商品安全検査センター センター長。 現在に至る。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。