島津奨励賞

最新の受賞者情報

2023年度 島津奨励賞
(3名を選出)

東京工業大学
生命理工学院

教授

神谷 ( かみや ) 真子 ( まこ )

東京大学
大学院新領域創成科学研究科

教授

岩崎 ( いわさき ) ( わたる )

大阪大学
蛋白質研究所

特任准教授

中根 ( なかね ) 崇智 ( たかのり )

受賞者には、表彰状・トロフィー・副賞100万円を贈呈
受賞者
東京工業大学 生命理工学院 教授 
神谷 真子 氏(42才)
研究業績
革新的バイオイメージングを実現する高精度化学プローブの開発
推薦者
過年度島津賞受賞者
受賞理由
神谷真子氏は、各分野でのイメージングニーズを的確に捉え、色素分子を精緻に機能化することで、画期的なイメージングを達成し得る多数の化学プローブ(蛍光プローブ、ラマンプローブなど)の開発に成功した。その一部は実用性が評価され市販化に至っている。具体的には、細胞内滞留性を劇的に改善した蛍光プローブの設計法を確立し、がん細胞の1細胞検出の実現に大きく近づいた。また、自発的に光明滅を繰り返す蛍光プローブを開発し、超解像蛍光イメージング法に応用することで飛躍的な進展をもたらした。さらに、Activatable型ラマンプローブの論理的設計法を確立し、生体機能の多重検出を可能とした。
これら多岐に渡る新たな機能を有する化学プローブ群の開発という業績が、次世代のイメージングの世界を切り拓くであろうことを高く評価した。

神谷氏の島津奨励賞受賞については、東京工業大学のHPでも紹介されています。
研究内容
生命科学研究において、生体分子の挙動をライブかつリアルタイムに観測するバイオイメージング法の果たす役割は極めて大きく、本手法に要求される期待は年々ふくらむ一方です。このような背景の中、神谷真子氏は、各分野でのイメージングニーズを的確に捉え、色素分子を精緻に機能化することで、画期的なイメージングを達成し得る多数の化学プローブ(蛍光プローブ、ラマンプローブなど)の開発に成功しました。例えば、細胞内滞留性を劇的に改善した蛍光プローブの設計法を確立し、がん細胞の1細胞検出の実現に大きく近づいた。また、自発的に光明滅を繰り返す蛍光プローブを開発し、超解像蛍光イメージング法に応用することで飛躍的な進展をもたらしました。
さらに最近では、多重検出能に秀でたラマン顕微法に着目し、ラマン信号を精密に制御する全く新たな分子設計原理やそれに基づく世界初のActivatable型ラマンプローブの開発に成功し、生体機能の多重検出を可能にしました。同氏が開発したこれらの化学プローブ群が、生命現象の包括的な理解、新たな医療技術の開発に大いに貢献するとともに、次世代のイメージングの世界を切り拓くであろうと期待されています。
受賞者
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授 
岩崎 渉 氏(40才)
研究業績
生態系の大規模高精度観測・予測を可能とした環境核酸計測法の開発
推薦者
日本分子生物学会
受賞理由
岩崎渉氏は、まず、魚類から環境中に放出される極微量のDNA分子を分析することで、対象の水域の魚類叢の精緻な全体像を観測可能にする観測技術・情報解析技術を開発した。その解析用のデータベースには年間12万件を超えるアクセスが世界中から行われるなど、我が国発の技術として国際的デファクトスタンダードの地位を確立している。また、異なる環境間の微生物生態系を相互に比較・可視化する情報解析技術を開発し、変動し続ける地球環境下において生態系を支える微生物が今後どのように変化していくかを予測することを世界で初めて可能にした。前者の技術は、環境保全・生態系保全、新種・外来種の検出や水産業における魚種分布把握など多方面で活用され、後者の技術は有用物質を作り出す微生物の設計・改変や、薬剤耐性病原菌の出現予測への展開が期待されている。このように、その業績が社会に大きく貢献している点を高く評価した。
研究内容
食卓に並ぶ豊かな海の幸が、食物連鎖を辿ればすべて小さなプランクトンに辿り着くように、私たち人類の生存は地球生態系に依存しています。人類が地球環境を未曾有の速度で変えつつある中で、地球生態系の全貌を正確に観測することは、資源保全など人類の生存につながる各分野の科学研究の前提となります。
しかし、生態系の観測は多大な労力を要する極めて困難な作業であり、限られた地域の生態系の観測であっても、何名もの専門家がフィールドワークを繰り返す必要がありました。岩崎渉氏は、大型生物から微生物まで生命が共通の情報媒体としている核酸分子に注目し、環境サンプル中に含まれる生物由来の微量なDNAを計測する「環境核酸計測」の基盤技術を開発し、生態系の大規模高精度観測を可能にしました。魚類から環境中に放出される極微量のDNA分子を分析することで、その海域・河川・湖沼に存在する魚類叢の全体を精緻に観測するための解析用のデータベースにはアクセスが世界中から行われるなど、我が国発の技術として国際的デファクトスタンダードの地位を確立しています。
また、各環境の微生物生態系を他の環境の微生物生態系と比較・可視化することを可能にすることで、変動し続ける地球環境下において生態系を支える微生物が今後どのように変化・進化していくかを予測することを世界で初めて可能にしました。
受賞者
大阪大学 蛋白質研究所 特任准教授 
中根 崇智 氏(37才)
研究業績
研究業績 構造生物学の空間分解能と時間分解能を向上し原子の動きを捉える解析技術の開発
推薦者
財団関係者
受賞理由
中根崇智氏は、オープンソースのクライオ電子顕微鏡単粒子解析(SPA)ソフトRELIONの開発チームに所属し、従来近似もしくは無視されていた電子光学系の収差・倍率異方性・Ewald球の曲率などを適切にモデル化して補正することで高分解能化を推進した。この結果、蛋白質のSPAとして世界で初めて真の原子分解能を達成し、水素原子可視化などに成功した。また、連続的構造変化を捉えるMultibody 精密化も開発した。X線自由電子レーザによるシリアルフェムト秒結晶学(SFX)では、微弱な信号を的確に捕捉する高精度なデータ解析法を確立し、微量な試料・短い測定で実験的位相決定や時分割構造解析を可能とした。
これらの成果は、分子生物学、創薬のみならず、人工光合成などのグリーンケミストリーの実現など、多くの分野に寄与する優れた業績であると高く評価した。

中根氏の島津賞受賞については、下記HPでも紹介されています。
大阪大学のHP英語サイト
研究内容
蛋白質など生体高分子の立体構造を原子レベルで決定することは、分子が働く仕組みを理解する基礎科学はもちろん、その機能を制御する医薬品や農薬の設計においても重要です。従来の手法は膜蛋白質や巨大複合体、組成や構造が不均一な試料が苦手であり、分子の構造が変化する動きを捉えるのも難しいことでした。クライオ電子顕微鏡による単粒子解析(SPA)やX線自由電子レーザによるシリアルフェムト秒結晶学(SFX)はこれらの課題を克服する新計測技術です。
中根崇智氏はそのデータ解析技術の発展に重要な貢献をしてきました。オープンソースとして世界で最も広く使われているSPA解析ソフトRELIONの開発チームに所属し、画像のブレやボケを補正するなど解析法を高度化して空間分解能を向上しました。その結果、蛋白質のSPAにおいて世界で最初に真の原子分解能を達成しました。また連続的な構造変化を捉えるmultibody精密化という新手法も開発しました。SFXにおいては実験的位相決定や時分割構造解析のために微弱な信号を正確に捉える手法を確立し、データ処理パイプラインをXFEL施設SACLAに構築しました。
これらの新手法は生物学者との共同研究を通じて医学やグリーンエネルギーの面で重要な蛋白質(光合成の光化学系II・光エネルギーを変換するバクテリオロドプシン・コロナウィルスのスパイク蛋白質など)に適用されています。中根氏が開発したこれらのソフトウェアは、世界中の研究機関や製薬会社で使われています。

図出典: Nature 587 巻 7832 号 表紙 および新学術領域「高速分子動画」

(年齢は、いずれも当年度事業開始日である2023年4月1日時点のものです)

島津奨励賞とは

2018年度新設の賞で、科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において独創的成果をあげ、かつ、その研究の発展が期待される45歳以下の研究者を表彰します(毎年3名以下)。受賞者には賞状、トロフィ、および副賞100万円を贈呈します。