知的財産業務を自動化し、科学技術の未来に貢献する

企業、大学、研究機関などでは、研究や商品開発に関わる方々が、日々、知的財産(知財)に関する業務に奮闘されています。当社も同様で、技術者や担当者の負担軽減と社内業務の効率化に取り組んできました。そこから知財業務自動化プラットフォーム「Genzo AI」が生まれ、その熟練者以上の精度とスピードに、各方面から驚きと期待の声をいただいています。

知的財産部から出向して(株)Genzo AIの社長を務める川村亮太(左)と、知的財産部長で、同社社外取締役の阿久津好二(右)

知的財産部から出向して(株)Genzo AIの社長を務める川村亮太(左)と、知的財産部長で、同社社外取締役の阿久津好二(右)

 

AIのディープラーニングで失敗

新たな発明やアイデア、意匠など自社の権利を保護するために、逆に、世の中にある他者の知的財産権を侵害しないために行う、特許など知財に関する国内外への手続きや調査は膨大な業務量です。新製品開発では特許侵害を防ぐために、社外の関連特許の内容を確認することが不可欠で、当社では年間10万件もの資料を一つひとつ確認して判定していました。その多くは侵害に当たらないものですが、見落としが許されないことから、多くの時間を要し大きな負担になっていました。

こうした確認済みの特許資料は蓄積され、当時70万件に達していました。知的財産部の阿久津は、これをAIにディープラーニングさせることで、新たな開発アイデアが特許侵害にあたるかどうかを素早く判定できるようになるのではないかと考えました。2020年のことでした。同部にいた川村も合流し、評価を行っていきましたが、ディープラーニングで使用した資料内容と少しでも文章表現が異なると対応できないなど、使用できるものにはなりませんでした。

川村さんとPC
阿久津さんとPC

生成AIの登場で

一方で阿久津は、2023年からの3か年計画に合わせ、知的財産部の目標の1つに「知財力50%向上、業務量30%削減」を掲げました。特許資料を分析することで、事業戦略の策定や見直し、共同研究やM&Aにも寄与できると考え、各種事業の発展と新事業の支援に一層注力すること、事業部門からの依頼に応えるだけでなく、技術開発の方向性を提案するなどのコンサルティング力の強化を目指しました。

業務改革のために、まずは部門が担っている全ての業務を作業単位で洗い出し、削減できるものを探しました。しかし、特許資料の判定に関わる業務が多くを占め、業務量30%削減の見通しは非常に厳しいものでした。

ちょうどその頃、生成AIのChatGPTの登場を受け、社内利用ができるようになりました。2人は早速大量の特許資料を読み込ませました。当然、生成AIも当初は判定を間違いましたが、そこには間違う理由がありました。一つひとつその根拠を確認して、どのようなロジックでプロンプト(AIへの指示)を設計すれば、正しく判定するようになるか、アイデアを出し合い進めました。

川村さんと阿久津さん

生成AIを確実に成長させ、ベテランの働きへ

2023年7月、検証のための最初のテストを行いました。生成AIの判定が比較的安定した結果を示したため、2人はさらにベテランの知財担当者が培ってきた複雑なロジックを教えていきました。「生成AIならできる」、その思いを強め最適化を図っていきました。

同年秋、ついに社内に一斉公開することになりました。ただし、まだ生成AIによる判定内容を、必ず担当者がすべて確認する運用としました。翌2024年、生成AIのバージョンアップにより、文章の解釈が格段に向上したことから改良が進み、判定の信頼性が増しました。2025年秋には、生成AIが、「侵害にあたらない」と判定した特許資料については、人が確認しなくても良いとする運用に切り替えました。

多くの期待を受け、起業へ

2024年8月、大阪と京都の特許部門の関係者による交流の場で、阿久津は生成AIによる業務効率化を紹介しました。大きなインパクトを受けた参加者から、別の特許関係者が集う場で紹介してほしい、講演をしてほしいと次々依頼が届きました。

講演を聴いた企業の中には、生成AIを利用して同様の仕組みづくりにトライしたものの、うまくできないとの声が届くようになりました。2人は、この仕組みを社外に提供していくために事業化を検討するようになりましたが、島津グループの中に特許関連のビジネスノウハウはありませんでした。
評判が広がる中、(株)IP Agentの長澤健一氏との出会いが契機となりました。「この効果を社外にも提供するために、起業してはどうですか」。長澤氏のこの言葉を受け、IP Agentの力を得て、社内起業への動きが現実化していきました。そして、株式会社Genzo AIを設立し、2026年4月1日から業務を開始しました。

現在、当社内では、発明届出のための書類作成作業のほとんどを生成AIに任せています。開発資料をそのまま読み込ませると、自動で社外の関連特許を集めて侵害など問題がないかを判定し、必要な言語で完成します。不足している情報があれば、生成AIから問いかけてくれます。

資料作成はスピーディーで、早ければ2分で提供されるため、昨年度の工数は以前と比較して半減しました。膨大な業務量であった社外特許のチェック作業は、その90%が不要になりました。業務が均質化し、品質も向上し、コストも削減しました。知財業務の改革が、自社の権利保護や他者への権利侵害のリスクの大幅な低減、さらに研究開発業務へのリソースの集中などさまざまな複合的効果につながることで、日本の産業競争力強化に貢献できると考えています。

(株)Genzo AI設立の記者発表で(3月26日) 左から、阿久津と川村、島津製作所CTOの西本尚弘(常務執行役員)、IP Agentの坂本聡社長と長澤健一顧問(元キヤノン株式会社 知的財産法務本部長 専務執行役員)

(株)Genzo AI設立の記者発表で(3月26日)
左から、阿久津と川村、島津製作所CTOの西本尚弘(常務執行役員)、IP Agentの坂本聡社長と長澤健一顧問(元キヤノン株式会社 知的財産法務本部長 専務執行役員)

阿久津好二と川村亮太からのコメント

我々は、技術革新への興味と誰かの役に立ちたいという気持ちを原動力として、生成AI活用を推進してきました。多くの企業で生成AIは個人利用にとどまり、業務のインフラとしての浸透と定着が難しいとされている中、島津製作所の知的財産部がこれだけ生成AIをインフラ化できたのは、当部の仲間全員が理解を示し、皆で協力してシステムを評価・改良してきたおかげです。この機運が島津社内にとどまらず、全国の企業に広がることを切に願っています。

 

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