深海と深宇宙の共創点を探るJAMSTEC
太陽系物質科学と「はかる」コアテクノロジー

日本時間2020年12月6日、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」から分離されたカプセルが、オーストラリア・ウーメラ砂漠に着地しました。太陽系初期の物質を汚染なく地球に届けたミッションです。 

「カプセル内の“玉手箱(試料カプセル)”のガスをモニタリングすると、地球の大気とは異なる希ガスが検出され、試料が小惑星リュウグウ由来であると確信できるものでした。6年間の時を経て地球に帰還したリュウグウ試料を初めて目にすると、感動で絶句してしまい、うまく言葉が出てきませんでした。約3億kmの彼方に存在していたリュウグウ試料は、黒光りしており、炭素や窒素など豊富な有機物を想像させるものでした。極度の緊張の中、チーム全員で毅然と数々のオペレーションを進めていく一方で、大事なリュウグウ試料に対して、次第に愛おしいという感情まで湧いてきました―― 」

地球をスイングバイする小惑星探査機「はやぶさ2」 イラスト(©池下章裕)

地球をスイングバイする小惑星探査機「はやぶさ2」 イラスト(©池下章裕)

これは、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)物質地球科学研究部門 部⾨⻑/⽣物地球化学センター⻑/上席研究員で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)客員教授も務める高野 淑識(たかの よしのり)氏が、当社講演会の冒頭で語ったエピソードです。高野氏は、はやぶさ2の科学立案や打ち上げ当初からプロジェクトに携わり、サンプラーチームや初期分析チームで成果を挙げてきました。現在は、NASAのオシリス・レックス(OSIRIS-REx)の初期分析チームに関わっています。

2026年3月24日、当社は、高野氏を招聘し、社内講演会「太陽系物質科学と『はかる』コアテクノロジーの新しい共創領域」をハイブリッド方式で開催しました。深海と深宇宙(月よりも遠い宇宙空間)という一見かけ離れた世界が、「極限環境」と「はかる」技術でどのようにつながるのか。そして、島津製作所との共創領域にはどのような可能性があるのか――そのつながりと可能性の一端に触れられる内容となりました。

JAMSTEC上席研究員/JAXA客員教授 高野 淑識(たかの よしのり)氏

JAMSTEC上席研究員/JAXA客員教授 高野 淑識(たかの よしのり)氏

 

JAMSTECと当社の共創

JAMSTECは、横須賀本部を中心に、横浜・青森・高知・沖縄などの拠点で研究活動を行っています。地球深部探査船「ちきゅう」や深海潜水調査船「しんかい6500」を運用し、巨大地震のメカニズムから深海の生命、そして、海洋資源まで幅広い研究を進める、日本の海洋科学の中核機関です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とも連携し、太陽系物質の試料分析など「海」と「宇宙」をまたぐ物質科学や生命科学の研究基盤づくりにも取り組んでいます。

JAMSTECが運用する有人潜水調査船「しんかい6500」(写真提供:JAMSTEC)

JAMSTECが運用する有人潜水調査船「しんかい6500」(写真提供:JAMSTEC)

深海と深宇宙はいずれも、極度の圧力(超高圧もしくは真空)・温度(超⾼温あるいは極低温)・暗闇・通信制約・限られた資源(電⼒、ロジスティックスなど)という「極限環境」です。わずかな試料や信号から、いかに確かな情報を引き出すかが鍵になります。

当社は、JAMSTECの自律型無人探査機(AUV)を用いて、海底観測システムからデータを自動回収する実証実験に協力しました。海底装置のデータをAUVが海中を移動しながら自動的に集め取る「ハーベスティング」と呼ばれる方式で、世界初の成功を収めています。

水中光無線通信装置「MC100」の上位機種となる試作機をAUVに搭載

水中光無線通信装置「MC100」の上位機種となる試作機をAUVに搭載

この実験では、水中光無線通信装置「MC100」の上位機種となる試作機をAUVに搭載しました。試作機はのちに「MC500」として製品化され、深海という人が近づけない環境でのデータ通信に役立っています。

太陽系物質科学と「はかる」技術

講演では、「太陽系物質科学」の視点から、小惑星リュウグウやNASAのオシリス・レックスが持ち帰った小惑星ベヌーの試料分析の代表的なサイエンスの成果が紹介されました。太陽系物質科学とは、太陽系を構成する岩石や氷、有機物などの起源や歴史、性質を調べ、太陽系の成り立ち、そして、分子進化から生命の起源に迫る分野です。

小惑星ベヌーから地球帰還した試料回収容器の最初の開封を行うNASAキュレーションチームの様子 ​(写真提供:NASA/Robert Markowitz)

小惑星ベヌーから地球帰還した試料回収容器の最初の開封を行うNASAキュレーションチームの様子
(写真提供:NASA/Robert Markowitz)

太陽系の外縁部に起源をもつ小惑星でも、その後の歴史(=小惑星史)の違いが、物質組成や有機分子群の多様性に表れる可能性が示されつつあります。こうした研究を支えるのが、「壊さずに調べる方法」と「分解して詳しく調べる方法」を組み合わせた計測技術です。

例えば、X線で内部構造を壊さずに観察し、質量分析計でごく微量の成分を分析する――限られた試料から最大限の情報を引き出すこのアプローチは、当社がさまざまな分野で培ってきたコアテクノロジーとも重なります。 

社員からの質問

社員から「当社がJAMSTECと一緒にできること」について質問が出ると、高野氏は元素周期表を示しながら、「私たちの身体をつくる水素(H)は、約138億年前に生成したビッグバンから受け継がれた元素。その科学事実だけでも純粋に感動する。また金(Au)や白金(Pt)などの貴金属は、複数の中性子星同士の衝突融合で生まれたと考えられている」と語り、「周期表の元素(エレメント)ひとつひとつに、壮大なドラマがある。皆さんと一緒に紐解くことができたら」と締めくくり、JAMSTECが主導する物質計測法の国際標準化の重要性を述べられました。

日々扱う材料やデータが宇宙の歴史とつながっているという視点と、その先に広がる取り組みの可能性に、会場の社員からは驚きと期待が入り混じった表情がうかがえました。

高野淑識(よしのり)氏の当社講演会

聴講した社員のコメント

本講演を聴講した、分析計測事業部 Solutions COEアプリケーションデザインユニットの小川は、次のように振り返っています。 

学生時代に宇宙鉱物学を専攻していたこともあり、はやぶさ・はやぶさ2のサンプルリターンは常に憧れのプロジェクトでした。今回ご紹介頂いた、オーストラリアでの帰還カプセル回収の映像は特に印象的で、心が躍りました。このような背景もあり、島津の分析機器として何かお役に立てることはないかという思いから、本セミナーの聴講を希望しました。

アミノ酸などの生命の痕跡を調べることで我々の起源に迫り、元素組成や同位体比から対象天体の成り立ちや相違点を推定できることに、改めて大きな驚きを感じました。

深海から深宇宙までをつなぐ「アストロエコシステム」という壮大な構想のもと、今後の研究によって太陽系や宇宙に関する常識を覆すような成果が数多く生まれること楽しみにしています。同時に、その中で私たちがどのような形で貢献できるのかを、今後も考えていきたいと思います。

本講演を企画した当社営業担当者は、「研究現場の最前線に触れていただくことで、当社の技術がどこまで社会に貢献し得るのかを、社員一人ひとりが考えるきっかけにしたかった」と振り返ります。 

深海と深宇宙──。スケールも距離も異なる世界ですが、その謎を解き明かす鍵は、極限環境で生まれるわずかな信号や物質情報の記録を、確かな「データ」へと変えていく「はかる」技術にあります。

当社はこれからも、JAMSTECをはじめとするパートナーとともに、深海から深宇宙まで、未知の世界をひらく計測・解析技術で社会と科学の発展に貢献していきます。 

 

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