大学入試の物理問題をそのまま「実験キット」に
高校の授業を変える新プロジェクト
大学入試の物理問題には「摩擦のない床」「空気抵抗は無視する」など頭の中でしか再現できない“理想化された世界”がしばしば登場します。物理を学ぶ上で、この設定に一度は苦労した人も多いのではないでしょうか。
もし、この「頭の中だけの世界」を、そのまま教室で実験できたら――。

「Physics Exam Lab 物理入試ラボシリーズTM」プロジェクトメンバー 左から島津理化 理化教育事業部 上野、岩田、川崎、松本
当社グループの理化教育事業を担う島津理化は、国際物理オリンピック2023記念協会と協力し、大学入試の物理過去問題をそのまま「実験キット」にする取り組みをスタートさせました。
物理の楽しさを生徒に届けることを目指すこのプロジェクト「Physics Exam Lab 物理入試ラボシリーズTM」について島津理化のメンバーに話を聞きました。
「頭の中の実験」を教室で再現
「『入試問題を解くことと、実験をすることが、教室の中で切り離されてしまっている』
多くの高校の先生から、そんな悩みの声をうかがいます。一方で、共通テストや難関大入試では、実験や観察を前提とした出題が増えています」と、このプロジェクトを牽引する島津理化 理化教育事業部 課長の松本崇は話します。
松本のチームは、2023年開催の国際物理オリンピックで450個の実験キットの製作を担当しました。制作にあたっては、予算や量産による品質の平準化、問題内容の秘密保持など、さまざまな困難をクリアし、無事に納品しました。
この時の実験キットは、海外の参加者からも「装置の完成度が非常に高い」と好評を得たと言います。
これをきっかけに、国際物理オリンピック2023日本大会を運営した先生方が中心となって立ち上げた新たなプロジェクト「Physics Exam Lab」で声がかかり、入試問題を実験キット化する「物理入試ラボシリーズ」の開発が始まりました。
現在、次の3つの入試問題をもとにした実験キットを開発しています。
- 「コイルを通過する磁石トレイン」 (2022年度 共通テスト物理 第3問)
- 「アルミカップの終端速度」 (2023年度 共通テスト物理 第2問)
- 「台車上の振り子」 (2018年度 東京大学前期物理 第1問)
1.動く磁石が電気を生む「コイルを通過する磁石トレイン」

開発を担当したチームリーダーの上野
「列車に見立てた磁石を導体パイプなどに通し、運動の変化や電磁誘導を観察できるキットを作りました。磁石がコイルを通過すると電圧が生じる“電磁誘導”は、通過速度が速いほど大きくなります。磁石の向きを変えると電圧の向きも反転します。コイルの巻き数を変えることで、電圧の大きさがどのように変化するか確かめられます。」


電磁誘導による電圧変化PCモニター写真
実験で使用するコイルには、発売10周年を迎えた島津理化の自社製コイルを採用しました。巻きが崩れにくく、安定したデータが得られるのが特長です。さらに1つのコイルで巻き数600回と300回を切り替えて実験できるため、条件の違いによる波形の変化を比較できます。

2.「アルミカップの終端速度」の解析に役立つ動画解析スクリーン
「2023年度 共通テスト物理 第2問に対応しています。この問題は、アルミカップを落下させ、物体が落下していくうちに加速度がゼロとなる「終端速度」がポイントです。実際に実験をするときは動画で撮ってアプリで解析をしますが、私はその補助となるスクリーンを開発しました。解析のしやすさや、画像でも落下の変化がわかるよう方眼を印刷しています。材質は折りめのつきにくさを重視してノンカールターポリンの素材を採用しました。これに合わせてブラウザで使える無料の解析アプリをPhysics Exam Labの先生に開発していただきます。」


開発したスクリーンの前で使い方を説明する川崎
アルミカップ落下運動実験キットの実験方法解説(Physics Exam Lab Youtube)
3.摩擦のない床で揺れる「台車上の振り子」
「この問題は、東京大学2018年前期物理第1問に対応しています。水平な床に置かれた台の柱に吊るした振り子が揺れる時、床と台に摩擦がない場合、全体がどう動くかを考えるものです。当社のスマートカートの台にのせることで“摩擦のない床”に近い条件を表現しました。さらに生徒自身が考え・確かめられるようにしました。糸の長さ調整や角度目盛りなど、授業での扱いやすさを重視して設計しています。」


「理論計算上求められる、台車の運動と振り子の運動が合わさり振り子の糸上にできる不動点を、目視で確認することができます」と話す設計者の岩田
チームで作りこむ実験キット
実験キットの開発では、メンバーがそれぞれ担当装置を持ちながら、設計レビューはチーム全員で行っています。さらにPhysics Exam Labの先生方と相談しつつ、大学生や高校生に試作機を使ってもらい、その意見を取り入れて完成度を高めています。
島津理化担当者のコメント

物理オリンピックの先生方から、入試問題をそのまま実験キットにできないかというお話をいただいたとき、「これはまさに、島津理化がやるべき仕事だ」と感じました。
入試問題の図に描かれた“ありえない装置”を、既存の装置や新しい工夫で組み合わせて、できるだけ忠実に再現することを目指しました。実験して得られた感覚をもとに、問題文を読み直すと、数式の意味が自然と腹に落ちていきます。実験をしてから問題を解く生徒と、テキストだけで解く生徒では、理解の深さも物理への印象も変わってくるはずです。
これまでは実験して時間をかけて結果をプロットしても、肝心の結果を検証する時間が十分にないということが少なくありませんでした。今では、実験結果を高精度に捉えるセンサー製品があり、センサーが取得してデータ化した結果を検証することで効率よく学べる教材を提供できるようになっています。
私たちが作るキットが、「うちは実験の時間が取れないから…」と悩んでおられる先生方の1つの突破口になれば嬉しく思います。そして何より、生徒さんたちが「物理って、こんなに面白かったんだ」と感じるきっかけになればと願っています。
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