健康寿命を延ばすカギは「老化」のコントロール？
人生100年時代のヘルスケア

約120年前の20世紀初頭、世界中の人々の平均寿命は約31歳でした^※1。世界保健統計によると現在は約73歳^※2まで延びています。「人生100年時代」と言われる中で、寿命の長さだけでなく健康に過ごせる期間、すなわち「健康寿命」に注目が集まっています。そして、健康寿命について考えるうえで欠かせない現象が「老化」です。

老化とは何か？

人間の体は約37兆個^※3の細胞が集まってできており、古くなった細胞は取り除かれて新しい細胞が生まれます。年齢を重ねると、細胞の入れ替わりが遅れたり、細胞の数が減ったりすることで体の働きが衰えます。この現象が老化です。

年齢を重ねる「加齢」は誰にとっても同じ速さで起きますが、老化の速さは同じではありません。目がかすむ、耳が遠くなる、シワが増えるといった老化現象が発現する年齢は、人によって異なります。体の成長と同じように老化のスピードも個人差が大きく、体の部位や細胞ごとに差があります。老化が進むと体力や免疫力、認知機能も低下して、様々な疾患のリスクが高まります。老化のメカニズムを解明することは、健康寿命を延ばすための重要な研究テーマです。

近年、「老化とは病であり、治療や予防ができる」と考えられるようになってきました。老化のスピードは遺伝性、後天性の両方の要因によって決まり、運動や食事などの生活習慣を改善することで、老化を遅らせたり、老化した状態を回復したり、コントロールができる可能性があることが分かってきています。今まで、遅らせることはできても止めることはできないとされていた老化について、概念が変わり始めています。

老化物質を見える化する「AGEsセンサ」

島津製作所は、老化に関するソリューションの開発を進めています。「AGEsセンサ」は、体内に老化物質である最終糖化産物（AGEs）がどのくらい蓄積しているかを、装置に指をのせるだけで迅速に測定できます。AGEsは体の中のタンパク質が食事などで過剰に増えた糖と結びつくことで生まれます。加齢とともに体の中で増えて蓄積されていき、体の「コゲ」とも呼ばれています。脳や心臓、血管、骨、皮膚などあらゆる体の部位の老化を進める一因とされており、注目されています。AGEsは乱れた生活習慣やストレスなどによって増加するため、食事や運動、睡眠などに気を配ることで増加を抑えることができます。こまめに体の状態を測定することは、健康状態の改善や維持につながります。

加齢とともにAGEsの蓄積量は増える

 

AGEsセンサ

老化を防ぐ新たな物質

人間が呼吸で取り込んだ酸素のうち数％は活性酸素になります。免疫機能を維持する働きなどを持ち、体にとって欠かせない活性酸素ですが、生活習慣の乱れやストレスによって過剰に増えた活性酸素は老化のスピードを速める一因とされています。体のあらゆる場所に存在する「超硫黄分子」は、強い抗酸化作用を持ち、活性酸素の働きをコントロールすることが明らかになっています。

2024年4月に当社は東北大学と「島津製作所×東北大学 超硫黄生命科学共創研究所」を開設しました。超硫黄分子研究の第一人者である東北大学大学院医学系研究科　環境医学分野 赤池孝章教授らとともに当社製装置を用いて超硫黄分子を測定できます。例えば、高速液体クロマトグラフ質量分析計（LC-MS）は、血液、医薬品、食品中の微量な成分について、その種類や量を測定できます。血液中の超硫黄分子を測定することで、体内で老化を防ぐ働きの解明につながります。将来的には、老化メカニズムの解明や老化を予防する医薬品・食品開発への貢献を目指しています。

超硫黄分子の測定に用いられる高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060NX」

老化については未だ解明されていない現象も多くあります。島津製作所はこれからも、老化のメカニズムの解明や老化を予防するソリューションの開発に取り組み、健康長寿社会の実現をめざします。 

出典

• ※1:Development Centre Studies:The World Economy: Volume 1: A Millennial Perspective and Volume 2: Historical Statistics
• ※2:World Health Statistics 2023 (WHO Data)
• ※3:An estimation of the number of cells in the human body (researchgate.net)