「島津の森」のフタバアオイが葵祭へ
「葵プロジェクト」と生物多様性の保全

フタバアオイの葉で作られた「葵桂」

島津製作所本社・三条工場の敷地内にある「島津の森」では、京都の文化とゆかりの深い植物「フタバアオイ」を育てています。

当社は、一般財団法人 葵プロジェクトが運営する「葵プロジェクト」に2015年に参画し、上賀茂神社から株分けされたフタバアオイの植栽を始めました。増えたフタバアオイは上賀茂神社に奉納し、京都三大祭りのひとつ「葵祭」で使用されています。

今年は5月6日に、フタバアオイに加え、葵祭の装飾品「葵桂(あおいかつら)」に使用される桂の枝葉を約3,000本奉納しました。この枝葉は、三条工場の構内で街路樹として植えられている桂を剪定した際に出たもので、2022年から行っている取り組みです。

フタバアオイと、生物多様性の保全への取り組みについてご紹介します。

 

フタバアオイとは

フタバアオイは、ウマノスズクサ科の多年草で、本州、四国、九州の山地や里山に生える日本固有種です。ハート形の葉を2枚ずつつけるのが特徴で、えんじ色の花が下向きにひっそりと咲きます。

「葵祭」で使用されるため「カモアオイ」とも呼ばれています。花言葉は「細やかな愛情」です。基本的に2枚の葉をつけるフタバアオイですが、徳川家の家紋・三つ葉葵のモチーフになっていることでも有名です。

「島津の森」で育つフタバアオイの葉

「島津の森」で育つフタバアオイの葉

フタバアオイの花

フタバアオイの花

「葵祭」とフタバアオイ

上賀茂神社(正式名称:賀茂別雷神社)、下鴨神社(正式名称:賀茂御祖神社)の例祭である「葵祭」(正式には賀茂祭)は、桂の枝葉にフタバアオイの葉をあしらった「葵桂(あおいかつら)」によって牛車や衣冠などを装飾します。ここから「葵祭」の名前があるとされています。使用されるフタバアオイの葉はおよそ1万4千枚にものぼるともいわれます。

上賀茂神社における今年の「葵桂」には、すべて当社が奉納した桂が使用されました。

特別に許可を得て撮影した上賀茂神社本殿前の装飾
特別に許可を得て撮影した上賀茂神社本殿前の装飾

特別に許可を得て撮影した上賀茂神社本殿前の装飾

「葵プロジェクト」とは

フタバアオイは上賀茂神社近くを流れる賀茂川の上流一帯の湿地や上賀茂神社に群生し、かつては比較的容易に採集できたそうです。しかし、近年は環境の変化や鹿、イノシシなどの食害によって生育数が減少しています。「葵祭」に使用するフタバアオイが自生するものだけでは足りなくなったことから、一般財団法人 葵プロジェクトによって「葵プロジェクト」が立ち上がりました。

「葵プロジェクト」は、小中学校や企業、団体、個人が里親としてフタバアオイを育て、上賀茂神社に株分け・奉納するものです。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の第1回「プロジェクト未来遺産」(2009年度)にも登録された活動で、自然と文化のつながりについて意識啓発を図りながら伝統祭事「葵祭」を次世代へ継承しています。

当社は、地域在来種の保護による生物多様性の保全、伝統文化の理解と継承による地域社会への貢献といった観点から、2015年にプロジェクトへ参画しました。

島津製作所でのフタバアオイ植栽と、社員ボランティアによる育成

島津製作所では、本社・三条工場敷地内の「島津の森」の一角で、2015年9月にフタバアオイ約100本の植栽を開始しました。グループ会社・島津総合サービスが栽培管理を担っています。

2017年5月に「葵里帰り奉納」を初めて実施し、以降、毎年同時期に上賀茂神社への奉納を継続しています。奉納したフタバアオイは上賀茂神社の「葵の森」に植え戻され、翌年以降の葵祭で使用されます。

フタバアオイの保全活動における京都文化継承と、生物多様性の保全意識向上のため、今年度から社員ボランティアによるフタバアオイ育成活動をスタートさせました。「島津の森」のフタバアオイの苗を株分けし、社員の自宅でも育成します。来年度以降、こちらも上賀茂神社に奉納することを目指しています。

「島津の森」のフタバアオイ

「島津の森」のフタバアオイ

 

今年は島津製作所と島津総合サービスの担当者が5月6日にフタバアオイを奉納し、5月14日に「葵桂」作りを手伝いました。桂の枝葉にフタバアオイの葉を4枚掛けて作ります。

この「葵桂」は3年ぶりに開催された「葵祭」の「路頭の儀」でも使用されました。

装飾に使用される「葵桂」

装飾に使用される「葵桂」

「葵桂」作りを手伝う様子

「葵桂」作りを手伝う様子

「島津の森」と生物多様性の保全

「島津の森」では、地域の生態系ネットワークの構築に貢献するため、主に京都の在来種を育成しています。森を中心とした一帯は、生物多様性の保全・回復への取り組みを評価して認証する「ハビタット評価認証(JHEP認証)」の最高ランク・AAA評価に認定されています。

また、フタバアオイをはじめとする京都ゆかりの植物を育てる取り組みは、京都市による「京の生きもの・文化協働再生プロジェクト」として認定されています。フジバカマやチマキザサ、キクタニギクなども植栽しています。

本社・三条工場の敷地内にある「島津の森」

本社・三条工場の敷地内にある「島津の森」

環境経営統括室の担当者から生物多様性の保全について

地域の生物多様性は、その地域の文化と密接な関わりがあります。生物多様性の保全が地域の文化継承にも役立つのは嬉しい限りです。「葵プロジェクト」の活動は社内において大規模なものではありませんが、多くの学校や企業、団体、個人と力を合わせることで、大きな活動になっていると思います。

また、今年から始めた社員によるフタバアオイの育成活動では、参加者から「フタバアオイを育てていくことで、家族みんなが生物多様性や京都文化継承の必要性を考えるきっかけになっている」との嬉しい言葉もありました。

今後も、生物多様性の保全という大きなテーマに対し、前進に向けた取り組みを様々な方々と協働して実施していきたいと考えています。

フタバアオイを植栽する島津総合サービスの担当者から

「島津の森」で植栽しているフタバアオイは上賀茂神社から譲り受け、保護・育成しています。冬の間は落葉するので地上部がありません。今年のように寒波や大雪で、寒さが厳しい年は冬芽が傷んでしまっているのではないか、春に正常に葉が展開するのかと、とても心配です。暖かくなりハート形の葉が展開し、3月に花が咲いた時にはほっとします。

日陰で水を好むフタバアオイの環境に合った場所を選んで植栽し、その生長を見守っています。次の年の芽ができている11月には、寒さよけと栄養を与えるために、三条構内の落葉や、それを利用した当社オリジナル堆肥を与え、循環型の栽培管理をしています。

毎年、「島津の森」で少しずつ増えていくフタバアオイたちに愛着が湧いてきます。上賀茂神社への「里帰り奉納」で、1,400年以上続く「葵祭」と京都の伝統文化の継承に貢献できることと、植物栽培を通した生物多様性の取り組みにやりがいを感じています。

URLをコピーするタイトルとURLをコピーしました
他の記事も見てみる