温室効果ガス(GHG)の削減に向けた活動が、全ての産業で始まっており、自動車製造業でも、ライフサイクルアセスメント(LCA)対応への動きが本格化しています。自動車構成部品が製造される工程も、GHG排出の計測対象となってきます。島津製作所はセラミックス部品の製造工程でのGHG削減に貢献することを目指し、セラミックス製造の脱脂工程での新技術を開発しました。また、分析・計測技術を製造プロセス中に適用してプロセスの最適化へ貢献することにも取り組んでいます。
GHG削減に向けた動き
カ-ボンフットプリント(CFP)は「製品の原料調達から、廃棄・リサイクル」までの間に排出されるGHGガスの排出量をCO2量に換算し数値化したものです。このような製品のライフサイクル全体における環境負荷を評価する手法がライフサイクルアセスメント(LCA)です。

【 図1 製品のライフイサイクル 】
自動車業界では欧州を中心にLCAの取り組みが進んでおり、LCA手法にて将来の環境負荷削減に向けた取組や、新規技術導入の評価が行われています。
セラミックスの自動車業界での動き
セラミックスは、スパークプラグ、排ガスフィルター、モーター・ターボチャージャー用ベアリング、LEDヘッドランプ・パワーコントロールユニットやエレクトロニックコントロールユニットの放熱基板等、多くの自動車部品で採用されています。エンジン車から電気自動車への移行においても、樹脂や金属に比べ、耐熱性、耐腐食性、剛性、潤滑性、絶縁性等の性能で優れたセラミックスが採用される機会が増え、需要量は拡大を続けると予測されています。
一方で、セラミックスの製造プロセスは複雑で、品質や性能に影響する要因は多岐にわたります。そこで、プロセスインフォマティクスが注目されています。プロセスインフォマティクスとは、製造プロセスのデータを収集・分析し、プロセスを最適化する技術です。プロセスインフォマティクスを用いることで、セラミックスの品質向上やコスト削減、新規開発の加速などが期待できます。
セラミックス製造工程のGHG削減
セラミックスの製造では、粉体合成から焼結まで複数の工程があります。その中で、「乾燥・脱脂・焼結」は加熱工程であり、GHG削減のための検討が必要になっています。
脱脂工程での ①新たな加熱方法と ②プロセスインフォマティクス(PI)に関する取組を紹介します。

【 図2 セラミックスの製造工程例 】
過熱蒸気脱脂
脱脂は、成形するために添加されたバインダー(接着剤)を成形後に除去する工程で、セラミックス製造工程の中では、エネルギー消費が大きな工程です。現在の脱脂工程は、空気や窒素の循環加熱で行われますが、「過熱蒸気*1」を採用/併用することで、脱脂時間や消費電力を半減できます。
最大30kg/hの過熱蒸気を導入できます。炉内は循環ファンと加熱ヒータにより加熱可能で窒素、空気の循環加熱処理も可能です。
脱脂後の排気ガスは、高性能燃焼器で効率よく処理します。
【 図3 加熱蒸気脱脂炉の構造 】


【 図4 過熱蒸気脱脂炉での処理時間・消費エネルギーの削減 】
- *1過熱蒸気は、飽和蒸気の温度を更に上げた(百℃超~数百℃)水蒸気です。①熱容量が大きく非常に高い熱伝導性を持つ、②低酸素状態であるため酸化抑制ができる等の特長を持ちます。
セラミックス製造工程での
分析・計測、プロセスモニタリング
多くの材料の製造工程では「現場の経験」で工程条件を調整し、高い製造品質が保たれてきました。プロセスインフォマテックス(PI)等の新たな取り組みは、DX技術を活用した工程条件の最適化を目指しています。島津は関連する材料分析・計測機器を持ち、またプロセスをモニタリングすることに取り組むことで、製造工程でのGHG削減にも貢献します。
セラミックスでは機械特性、熱特性、電気特性、粉体特性等、さまざまな材料特性の試験と、元素および結晶の形態・微細構造/欠陥の観察、分析が必要です。
「セラミックス製造工程に向けた島津のソリューション」を以下で示します。
- 粉末の圧縮強度の評価
- MCTシリーズ
- 比表面積/細孔径分布の評価
- 3Flex
- 粒径分布/形状の評価
- iSpect DIA-10
- 粒子径分布の評価
- SALD-7500nano
- 分級によるナノ粒子の詳細評価
- FFF-C8030
- 発生ガスの評価
- 島津アプリケーションニュース
- 煙道排ガスの評価
- COA-3030
- 溶融粘度の評価
- CFT-EX シリーズ
- 硬さの評価
- DUH-211/DUH-211S
- 内部構造/欠陥の検査
- inspeXio SMX-225CT FPD HR Plus
- 元素分析/含有量の評価
- エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)
- 熱特性(重量/温度変化)の評価
- DTG-60/60Hシリーズ
- 官能基の評価
- フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)
- 表面構造の評価
- SPM-Nanoa
製造工程では、温度や圧力等がモニタリングされていますが、工程中の材料やガス等の分析は十分に行われてきませんでした。リアルタイムでの分析のニーズが高まっており、島津では、これらのニーズへの対応を進めています。

【 図5 脱脂プロセスモニタリング 例 】
GHG削減に向けて貢献する島津の分析・計測・製造技術
自動車製造におけるGHG削減の動きは今後加速するものと思われます。島津は、材料製造工程の効率化に貢献すべく、分析・計測装置を統合的に活用し、得られる測定データと、新たな分析・計測・製造技術への取り組みを進めていきます。