軽量化新素材(プラスチック)の再利用に貢献する自動選別技術
軽量化新素材の実現

脱炭素社会の実現に向け、自動車の燃費効率の向上、電動車の航続距離伸長のために車体重量の軽減が求められています。

軽量化材料開発の中心にあるのがプラスチックです。強度や耐熱性を大幅に向上することで、金属やガラスからプラスチックに替える動きが進んでいます。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の採用や、新しい材料としても「しなやかなタフポリマー」等の開発が進み、機能・用途に広がりを見せています。
一方で、近年、温暖化への危機感は更に強まり、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」達成が各国の目標となり、日本政府は2020年10月に「2050年にカーボンニュートラル達成」を宣言しました。2021年6月には「プラスチックに係る資源循環の促進に関する法律」が成立し2022年4月1日に施行されます。この法律の狙いは(製品では無く)素材に焦点を当て、プラスチックのライフサイクル全体で資源循環を促すものになっています。
自動車業界では、以前より取り組んできた3R(リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3つのRの総称)活動等、プラスチックを含んだ資源の「循環サイクル」を更に高いレベルで運用することになると思われます。
現状の循環サイクルには、まだ幾つかの課題があり「廃プラスチック自動選別」もその一つです。この課題の解決に貢献できると期待される島津製作所のFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いた自動選別装置をご紹介します。

1.これからの使用済自動車プラスチックのリサイクル

現在、使用済自動車は、解体業者にて解体・主要部品の取り外しを行い、残りは粉砕されASR(シュレッダーダスト。ミリ単位の細かい塊)となります。問題はASRから再利用可能な樹脂を取り出すことは不可能でマテリアルリサイクルが難しい点にあります。
今後期待される取り組みは、ASR工程の前でマテリアルリサイクル可能なプラスチックを取り出し、ASR量を減らすことです。このため、ある程度の大きさに「破砕」した段階で、マテリアルリサイクル可能な「プラスチック」を取り出すことが試みられています。現状、この工程は人の手で作業されており、普及への大きな障害になっています。この工程の自動化を確立することは、リサイクルへの大きな道を拓くことになります。

  • 【図1:現状の使用済自動車のリサイクル工程と、今後期待される工程】

回収工程では「異物の除去」「単一素材(高純度)プラスチックの取り出し」が必要で、これを自動化する場合の課題は、①ロボット等による「除去や取り出し」の自動化と、②「取り出したプラスチック素材の選別」の自動化、を確立することです。

2.プラスチックの識別方法と課題

2019年5月のプラスチック資源循環戦略策定(環境省)以降、プラスチックリサイクルへの取り組みは加速しています。「比重選別」「静電分離」「近赤外線」「ラマン分光」等の技術が検討・採用されていますが、特に種類の識別では「近赤外線」「ラマン分光」が注目されています。
但し、この二つの方法共、「黒色プラスチックの識別ができない(*注1)」という課題を持っています。
*注1:黒を含めた濃色のプラスチックでは「近赤外光(波長0.8~2.5μm)」が吸収され測定できません、また「ラマン分光」では測定用のレーザ光が濃色のプラスチックを熱により変質させる問題があります。

3.「濃色(黒色)プラスチックの識別」に対する島津のソリューション

そこで島津製作所では、濃色プラスチックに対し、中赤外(波長2.5~25μm)を利用するFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)で選別を行いました。FT-IRは、分子を構成している原子間の振動エネルギーに相当する波長が吸収される事象から、化合物の構造解析等を行います。従って、各種プラスチックの特長的な結合に注目し、その種類を識別します。
島津では、実際に使われる割合の高い濃色のプラスチックの自動計測をターゲットに、「黒色プラスチック」を「非接触」「非破壊」で「高精度」な選別を行うことを達成すべく独自のアルゴリズムを開発しました。

実測事例

以下に、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン) に対し、それぞれ「黒」「白」「薄黄色」の3色のサンプルを、非接触で測定した結果(図2、図3、図4)を示します。黒色でも他の色と同様に特徴的なスペクトルを示しています。また、3種類のプラスチック材料も特有のスペクトルで識別されます。

  • 【図2 PPサンプルの反射スペクトル:色に関わりなく特徴的なスペクトル(a)が確認できています。】
    (A:白色PPサンプル  B:黒色PPサンプル C:薄黄色PPサンプル)

  • 【図3 PSサンプルの反射スペクトル:色に関わりなく特徴的なスペクトル(a)が確認できています。】
    (D:黒色PSサンプル  E:白色PSサンプル F:薄黄色PSサンプル)

  • 【図4 ABSサンプルの反射スペクトル:色に関わりなく特徴的なスペクトル(a,b)が確認できています。】
    (G:白色ABSサンプル  H:黒色ABSサンプル I:薄黄色ABSサンプル)

今後の高度識別技術の可能性

FT-IRでのプラスチック計測は広いスペクトル範囲を計測し、非常に多くの計測データを得ることができます。上記の解析ではその一部を利用していますが、AIによるスペクトル解析を行うことで、更に詳細な識別を行い、フィラーを含めた詳細情報まで識別できる可能性があります。

4.自動化構想

本計測手法では「非接触」での計測を可能にしました。このため、ロボットやベルトコンベア等で、所定の計測位置に移動搬送することで、容易に識別が可能です。
一例として、自動選別装置の模式図と試作したシステムを示します。比較的細かく破砕したプラスチック粒を集めたもの(PP、PS、ABSが混合)から、それぞれのプラスチックの割合を測定するために、自動で選別し、それぞれの量を測定できる装置を試作しています。

  • 【図5 自動化方法:連続的に送られてくるプラスチックの粒に、非接触で光をあて種類の識別を行います。識別されたプラスチックは、エアで選別され容器に収納されます。】

  • 【図6 計測および搬送部】

5.循環型社会の実現に向けて

化石資源は、エネルギー資源・材料資源という2つの側面を持っていますが、エネルギー資源としてはCO2を発生することから削減の方向にあり、材料資源としてのメリットを継続して享受するためには、「マテリアルリサイクル」を実現することが非常に重要です。島津は識別技術で循環型社会に貢献します。

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