二次電池は、EVの心臓部です。EVでの覇権を握るべく、現在主流のリチウムイオン電池の改良や、新たな電池の開発が進んでいます。
電池の実用化に向けた課題は、安全性/信頼性、急速充電、高いエネルギー密度、等の性能や、製造コスト、材料の供給安定性、更には、資源循環/リサイクル性、等、多岐にわたっています。
島津製作所は、リチウムイオン電池が日本で実用化され始めた時期から、お客様が必要とするデータ取得のために主に分析計測技術を提供し、電池やその構成品の開発に貢献してきました。
本記事ではリチウムイオン電池の高品質な検査に役立つX線CT(Computed Tomography)による内部観察での新たな技術をご紹介します。
産業用X線CTの構成
X線CTは、対象物(ワーク)1回転分のX線透過データから、コンピューター処理により物体の断面画像や三次元画像を生成します。

【 図1 作業用X線CTの構成 】
島津製作所の産業用X線CTでは、高コントラスト、広ダイナミックレンジの大型高解像度フラットパネル検出器を搭載する等の改良を重ねた結果、軟X線成分が増加し、低密度材料の撮像コントラストを向上させてきました。
最大管電圧 | 225kV |
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最大管電流 | 1000μA (最大電力 135W) |
X線検出器 | 16インチフラットパネル 検出器 |
搭載可能ワークサイズ | Φ400mm × H300mm |
最大視野サイズ | Φ400mm × H300mm |
【 図2 島津製作所製マイクロフォーカスX線CTシステム 】
リチウムイオン電池の検査における産業用X線CTの利用
リチウムイオン電池では、内部への異物混入、電極の巻きずれ等が製造工程で発生すると、正極板と負極板の間で内部短絡を生じ、発火事故につながる危険性があります。これを防ぐため、電池製造の検査においては、非破壊検査が可能な産業用X線CTが用いられます。
電池の内部観察の課題
電池の進化により、その内部構造は微細化が進み、寸法制御や異物検出をマイクロオーダーで行う必要があります。そのため、X線CTによる内部観察では、拡大率の向上が求められてきました。
対象物をX線源に近い位置に設置すれば、拡大率が上がり、より詳細な内部構造の観察が可能になります。しかし、撮影視野が小さくなるため、対象物の一部が撮影視野からはみ出してしまい、はみ出した部分の不要な情報が偽画像(アーチファクト)として現れ、断面画像の品質を低下させることが課題となっています。(図3, 図4)

【 図3 拡大により対象物が撮影視野からはみ出す状態 】

【 図4 はみ出した状態で不必要な情報が映り込む角度 】
下図(図5)は、リチウムイオン電池を模擬した試料の内部撮影データを従来手法で処理した画像です。画像左下に本来あるはずの部位が欠落し、画像右端部にもアーチファクトが発生し解析が困難になっています。

【 図5 従来手法での画像を処理した結果 】
拡大撮影時の課題を解決する
「撮影視野画像再構成機能CORE Boost」
この課題の解決策として、島津製作所では撮影視野画像再構成機能「Core Boost」を開発しました。はみ出した領域の不要なデータに処理を施す再構成演算を行うことで、偽画像(アーチファクト)を低減し、鮮明な画像の取得を実現しています。(図6,図7)
inspeXio SMX-225CT FPD HR Plusのオプションモジュールである「CORE Boost」は、この撮影視野画像再構成機能を用いて、画質向上を実現させた、業界初の画像再構成演算処理です。

- 【 図6 データ処理のイメージ 】
- はみ出した部分の不必要なデータを排除する処理をを行い、再構成演算を行う
アーチファクトが発生していた図5の画像と同じデータを、撮影視野画像再構成で処理した画像を図7に示しました。従来手法での画像で発生していたアーチファクト(図5の左下と右端)が、撮影視野画像再構成で処理した画像(図7)では抑制されていることが分かります。
※撮影視野画像再構成機能の開発にあたり、国立大学法人筑波大学システム情報系 工藤博幸教授にご監修いただきました。

【 図7 撮影視野画像再構成の効果 】
次世代の電池開発に向けて
次世代電池の一つである全固体電池は、電極や電解質の多層膜構造で、例えば、充放電を繰り返した際に、電極・電解質界面で起こる内部状態の変化が電池性能を劣化させます。また、多くの積層を行う製造工程で発生する異物の存在や、形状異常も課題です。その課題解決のため、今後もさらに精細な内部構造観察が求められます。島津製作所は、X線CT技術を通じてカーボンニュートラル、グリーントランスフォーメーション(GX)の実現に貢献していきます。
- <参考文献>
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- 1)佐藤渉:X線CTシステムによる円筒型リチウムイオン電池の解析及び、充放電付属システムの紹介、島津製作所アプリケーションニュース 01-00277-JP (2021)
- 2)Hiroyuki Kudo, Matias Courdurier, Frederic Noo, and Michel Defrise; Tiny a priori knowledge solves the interior problem in computed tomography, Physics in Medicine and Biology, 53, 2207~2231(2008)