潜熱を利用した省エネルギー・
コンパクトな熱輸送技術
モビリティの電動化と高効率化

今後、モビリティの電動化・電装化が進むと、従来車内暖房などの熱源として利用していたエンジンからの発熱がなくなります。今後はその熱源が不足するため、替わりの熱源が必要となりますが、電気ヒータなどの追加装備は航続距離の観点から望ましくありません。一方で、電動車にはモーターや電池、インバーターなど発熱量の大きい部品の搭載がますます増えていきます。現状では捨てているこのような電子部品からの発熱を高効率に再利用できる技術の需要が高まっており、この内の一つとして『高効率な熱輸送技術』が挙げられます。

熱輸送には、一般的に液体の温度変化による熱移動(顕熱)を利用して熱を輸送する『液冷方式』が用いられていますが、島津製作所では液体が気体から液体、あるいは液体から気体に相変化する際の熱移動(潜熱)を利用して熱を輸送する『二相方式』のシステムを開発しました。

不要な熱を必要なところへ届ける二相流体熱輸送システム

二相流体熱輸送システムは液体が蒸発して気体になるときに周囲から吸収する熱、および気体が凝縮して液体になるときに放出する熱、「潜熱」を利用したシステムです。潜熱は顕熱(液体の温度変化による熱移動)と比較して著しく大きいという特性を利用し、冷媒が熱源で吸熱し液体から気体に蒸発することで、液体のまま吸熱するよりも非常に大きな熱を奪うことができます。

図のように、熱が発生する箇所(熱源)に接する蒸発器内の冷媒が気化し、その際に熱源から熱を奪います。気化した冷媒は蒸気管を通ってヒートシンクへ流れ、そこで熱が必要な箇所へ熱を渡して液体に戻ります。液体に戻った冷媒は液管を通って液溜めに溜まり、ポンプで送られて再度蒸発器へと循環します。

例えば電気自動車のモーターや電池、インバーター部分に蒸発器を設置し、自動車のシート部分にヒートシンクを設置すれば、発生した熱をシートヒーターとして利用できる可能性があります。

  • 【図 二相流体熱輸送システムの仕組み】

従来の液冷システムより、コンパクトに熱を輸送

二相流体熱輸送システムが一般的な液冷システムと異なる最大の特徴は、熱をもらった冷媒が液体のまま循環するのではなく、蒸発し気液二相の状態となって熱を運び、必要な場所で熱を渡して液体に戻り循環する点です。
従来の液冷方式と比較して少ない冷媒の液量で済み、ポンプなどの構成機器も小さくでき、システム自体を小型・軽量化・省エネルギーで運転することが可能になります。

また、単位面積当たりの吸熱量が大きいことも特徴です。そのため、小さな範囲で発熱が大きい電子部品の冷却・排熱利用に適していると考えられます。

更に、蒸発中の冷媒温度はほぼ変化しないため、温度均一性に優れています。液冷システムのように入口部ではよく冷えても出口部ではあまり冷えない、といったようなことがありません。

二相流体熱輸送システムに求められる高度な制御技術

このように様々なメリットが考えられる二相流体熱輸送システムですが、理論的には以前から検討されていたものの、システムの安定稼働に課題がありこれまであまり実用化されてきませんでした。

二相流体熱輸送システムは、蒸発と凝縮を繰り返しながら冷媒を循環させるシステムなので、冷媒の沸点に近い温度帯で稼働することになります。
そのため、冷媒が液体であるべき箇所で気体になったり、気体であるべき箇所で液体になったりということが起こりやすくなります。そうすると、ポンプの故障や熱源から熱を吸収する蒸発器の中で冷媒がすべて蒸発して吸熱できない“ドライアウト”が発生する原因となって、システムの安定運用が困難でした。

島津製作所では、ドライアウトの予兆を検知して回避できる機器構成と制御則や、ポンプに気体が混入しない(液体を確実に供給する)ための機構を構築し、このシステムに最適な高度な気液二相の制御技術を確立することで、これらの課題を乗り越えるシステムを実現しています。

航空機基準で開発された高い耐環境性と堅牢性

当初、島津製作所ではこの二相流体熱輸送システムの航空機への搭載を目指して開発していました。そのため、小型軽量に加え、航空機での使用に耐えられる耐環境性、堅牢性を持った材料や構造を採用しています。これには、島津製作所が長年航空機向けに開発してきた多くのシステムで蓄積してきたノウハウが使われています。
そのため、島津製作所の二相流体熱輸送システムは、過酷な環境下でも耐える必要がある自動車をはじめとした様々なモビリティへの搭載にも十分対応できるシステムです。

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