使用事例
(前列左から)小林将貴医師 彦坂麻美薬剤師
(後列左から)国政亜由子看護師 福井康代臨床検査技師
専門医のアドバイスにより
診療の意思決定がスムーズに
社会医療法人明陽会成田記念病院
抗菌薬適正使用チーム
相談者としてご使用
社会医療法人明陽会成田記念病院様は2000年から院内感染対策チーム(Infection Control Team:ICT)を開始し、2018年から抗菌薬適正使用チーム(AST)の活動を本格的にスタートしています。チームの皆さまには2023年に感染症マネジメント支援システムの実証実験に参加いただいき、AST活動の中でシステムをご活用いただきました。今回は、チームメンバーである小林医師、彦坂薬剤師、福井臨床検査技師、国政看護師の4名に、AST活動や実証実験を通じて当システムのご感想について伺いました。
-
貴院のAST活動について教えてください。
小林医師:当院のICTは医師1名・薬剤師2名・臨床検査技師2名・看護師5名の計10名で活動をしていますが、その中でAST活動は医師1名、薬剤師1名、臨床検査技師1名が主に担っています。週に1回はカンファレンスを行い、血液培養検査※1で陽性となった症例とカルバペネム系などの特定抗菌薬を使用している症例についてチーム内で確認と対策の検討を行っています。
国政看護師:いままでの症例と新規の症例をあわせて、約10件くらい議論対象となる症例がカンファレンスにあがってきますね。内容によりけりですが、30分くらい議論します。
※1 本来無菌である血液中に菌が存在することを証明するために、血液を採取して液体培地の入ったボトルにその血液を入れ、35℃で数日間培養する検査。
-
カンファレンスではどのようなことを議論していますか。また、カンファレンス以外でもチームで連携しながら業務を行っているのでしょうか。
小林医師:カンファレンスの目的は、現在の抗菌薬が適切であるかを判断し、抗菌薬の変更や中止が必要な症例をピックアップすることだと思っています。ASTのカンファレンスで注目すべき症例がある場合は、患者さんのベッドサイドに直接足を運び、主治医に治療方針の提案をしています。ただし、私の専門は泌尿器科ですので、自分の経験や知識で解決が難しい場合には、ASTチームメンバーと相談して解決をしています。
福井技師:私は薬剤師ではないため、薬に関するアドバイスは専門外です。主治医から細菌に関する質問があればある程度お答えできますが、治療に関わる質問が来た場合、自信を持って踏み込んだ回答をするのが難しいこともありました。けれど、AST活動が本格化してからは、ASTメンバーに相談して現場との橋渡しを引き受けてくれるようになったので、心強く思っています。
彦坂薬剤師:当院では血液培養陽性が判明したら院内メールでASTメンバーにメールが届きますが、検査室から即、血液培養陽性の連絡が入るのは大変助かっています。速やかに抗菌薬処方に反映することができます。
国政看護師:看護師は抗菌薬や微生物学というのは苦手な分野でもあって…。私自身もASTメンバーの話を聞き、それを看護部にフィードバックすることで、メリットを感じています。抗菌薬を患者さんに投与するのは看護師の業務ですが、なぜこの抗菌薬が処方されているのか、その背景が理解できるようになってきました。AST活動を通じて、感染症の患者さんの看護を行う際の視点が拡がったと感じています。
-
なるほど、チームワークの土台があってこそ、それぞれの専門性を生かすことが出来るのですね。一方で、活動する上で課題もありますか。
小林医師:AST活動にさける時間が限られている中で治療介入の優先度をどうつけるかが難しいところです。理想をいうと、血培陽性となった全症例に初期投与の抗菌薬が適正かどうか、主治医に対して意見ができればと思いますが、私には泌尿器科の診療や手術があり、AST活動を掛け持ちしているので活動範囲をなかなか拡げることができません。
また感染症で一番難しいのが、感染症自体の疾患と抗菌薬に加えて起炎菌も合わせて検討しなければいけないことだと思います。その3つの領域に知識がないと診療のアドバイスをすることができません。抗菌薬は絶えず新たな薬が上市されますし、検査方法や細菌についての進歩もあるし日々情報のアップデートが早く、いつくのが大変です。また、もちろん自分の専門である泌尿器科についても新たな情報に付いていく必要もあります。
当院は関連病院に透析クリニックがあるため、透析患者さんが多く入院してきますが、骨軟部感染症※2をはじめとした難しい感染症に遭遇することが多い思います。教科書やガイドラインを参考にしながら、その都度、治療方針を考えるのですが、感染症専門医ではないのでそう経験があるわけではなく、自分の提案が合っているのかどうか難しいと感じています。整形外科領域は専門性が高いこと、時に稀な菌が検出されることがあるので、普段泌尿器科しか診ない自分には難易度が高いと感じています。
※2 骨や軟部組織(筋肉や皮膚など)細菌感染を起こす感染症の総称。蜂窩織炎から壊死性筋膜炎や糖尿病足感染,化膿性関節炎などが含まれる。
カンファレンスでは、各自の視点で活発な議論が行われている
-
実証実験で感染症マネジメント支援システムをお使いになっていただきましたが、貴院の課題解決に役立ったでしょうか。
小林医師:学会展示を見て、これだ!と思い、すぐに実証実験に申し込みました。
その当時、透析患者さんの骨髄炎の治療で広域抗菌薬をいつ中止するか悩んでいました。主治医は「再燃」しないよう広域抗菌薬の長期継続投与を希望していたのですが、自分はASTの立場から投与をできるだけ早く終了してほしいと思っていました。そこをエキスパートの客観的な視点で意見をもらえたので、主治医にも納得して中止を決断してもらえました。
感染症専門医の先生にこのシステムを通じて相談したところ、想定していた以上にスピーディー※3に返事をもらえて驚きました。
感染症専門医の先生の回答の中に、感染症診療において教科書に書いてないTipsのようなことがたくさん記載されていました。現場の中で我々が主治医と話し合っても結論を出せないことや、もしくはどちらが正解か判断がつかないことは多く遭遇します。そういう時にエキスパートの先生にご意見いただけると、我々も自信をもって情報が提供できますし、主治医の先生も納得の上で判断していただけるので、そういう点では非常に有用だと思います。
直近の症例ですと、経過が早い蜂窩織炎※4(ほうかしきえん)の患者さんについて整形外科の主治医から、溶連菌をカバーした抗菌薬処方をしたいと相談を受けたのですが、培養検査は陰性で起炎菌が判明しませんでした。そこで、このシステムを通じて専門医の先生に相談させていただきました。
福井技師:検査機器も進歩しているので、自分達も検査結果を基に報告していますが、まだまだ心配なところがあります。この症例の相談でも、想定される起炎菌別にどの抗菌薬が合うか、またその使い方を丁寧に解説してくれました。想定される菌にはいままで直接関わったことがない菌もあり、知識が蓄積されるとともに、自分の判断を後押ししてくれるのはうれしいと思いました。
彦坂薬剤師:感染症専門医の先生が、私たちのモチベーションを高めるような回答をしてくださる点がとても気に入っています。当院の事情も考慮してアドバイスをしてくれていることが、その文章から伝わってきます。症例ごとに抗菌薬選択の考え方や培養結果の解釈を教えてくれるので、読むだけで学べることがとても多いと感じています。
小林医師:そうですね。教科書では学べないことが書かれてあると思います。相談することで、チームメンバー全員の知識が底上げされると感じています。
※3 本システムは新規相談から24時間以内に一次回答を得るルールとなっている。本相談に関しては新規相談から3時間で回答者から返信している。
※4 皮膚の傷や虫刺されなどが原因となって、膚の深い部分や皮下脂肪が細菌感染を起こした状態。
-
今後感染症マネジメント支援システムをより使いやすい形にするためにアドバイスをいただけますか。
小林医師:現在のシステムでは、私と感染症専門医の1対1でのコミュニケーションはできるのですが、その内容を他のメンバーから見られないことが残念に思っています。主治医からの視点やASTメンバーからの視点で感染症専門医にそれぞれ確認したい内容もあると思うので、1対複数でコミュニケーションできるように改善されることを期待しています。また、電話相談ではないため、患者さんの重症度や主治医の治療に対する考え方などを、文章で適切に伝えるために症例提示の作成に努めています。
彦坂薬剤師:薬剤師や検査技師が必要な情報を収集して、そのあと小林医師にサマリーを仕上げてもらえるようにすると効率的になると思います。あとは、主治医が直接相談した方がいいケースもあると思います。すべての症例相談にASTが介入するよりも、主治医が直接相談した方がスムーズかつメリットがある場合もあるのではと感じています。
小林医師:自分は泌尿器科医の立場でもあるので、いままで経験したことがない稀な感染症に遭遇した場合に、自分が選択する抗菌薬が最善か悩むことがあります。このシステムは院内全体の感染症診療を改善する大きな可能性を持っており、さらなる活用が期待されます。
皆さま、今回は貴重なご意見をありがとうございました。Oneチームで診療に向き合えるように、システムにも関係者全体で相談できる機能が必要ということですね。島津製作所もチーム医療のワークフローにあった機能の実現に向け邁進していきます。