VOL.53 表紙ストーリー

あなたが子どもの頃好きだったヒーロー(ヒロイン)は誰ですか。
TV、映画、ゲームの世界には人智を超越した存在として、単身、悪に立ち向かうヒーローが登場します。そんな万能の存在に惹かれる理由はアスリートや実業家、カリスマなどに理想の自己像を投影する行為と同じで、つまり「憧れ」や「近づくべき姿」です。
一方、万能のヒーローと比べれば平凡ともいえるメンバーが戦列を組んで立ち上がるチームヒーローにシンパシーを感じるのはなぜでしょうか。
知能発達の要因分析や支援、職業選定、適性評価にも広く活用される知能モデルの一つにCHC(Cattell-Horn-Carroll)理論があります。
CHC理論では、人の頭のよさを三つの層で考えます。一番上は「全体の頭のよさ」で、これを「g因子」と呼びます。その下では、得意な分野ごとに能力や知能を分けて評価し、以下のように10~16の能力に分類します。
● 新たな問題を解く力(Gf)
● 勉強や経験で得た知識(Gc)
● 正確に素早く処理する力(Gs)
● 一時的に覚えて処理する短期記憶(Gsm)
● 蓄積した記憶を適切に活用する長期記憶(Glr)
● 図形や空間をイメージする力(Gv)
● 音や声を聞き分ける力(Ga)
● 素早く判断する力(Gt)
● 数字や計算のスキル(Gq)
● 読み書きの力(Grw) など
(嗅覚や運動能力などが含まれることもあります)
最下層では、これらの能力をより細かく分けて考えます。
ある人気チームヒーローのメンバーそれぞれが持つ優れた能力をこの理論で評価すると、リーダーのレッドは次々に起こる問題を正確に素早く解決するタイプ(Gf +Gs)。ブルーは敵の弱点を見抜き、過去の経験から戦略的にアプローチ(Gf + Gc)。イエローは生き抜く知恵があり、判断するのも速い(Gv + Ga + Gt)。グリーンは巧妙で鋭い観察力を持つ(Gf + Glr + Gv + Gs)。ピンクは高い教養と論理的思考(Gc + Gf)。物語の途中から加入する、追加戦士のシルバーは過去の戦術の応用力とひらめきを兼ね備える(Gc + Gf + Glr)。
メンバーそれぞれの得意な能力を活かした役割分担と相互の信頼は、チームに強大な相手に立ち向かう自信を与えます。まるで、小さなハンドツールたちの確かな働きが、巨大な旅客機や船舶の安全な運航を支えるように、大きなミッションに臆せず挑む力を生み出すのです。
チームヒーローへのシンパシーは自分と似た認知プロフィールを持つメンバーへの理解・共感のしやすさから生まれるといわれています。共感は感情移入と没入感の程度を深め、メンバーの勝利の喜びや達成感を疑似体験させます。ひいては勝利を分かち合うチーム全体に惹かれる理由につながるのだそうです。
チームヒーローは現実社会でのテクノロジーの進化、価値観の変化に応じてメンバーの認知プロフィールを書き換え再構築を繰り返しています。このことが歴代のチームヒーローが勝利を掴み続ける要因であるかはともかく、視聴者のハートをがっちりと掴み、ビッグ・コンテンツであり続ける勝因の一つであることは確かなようです。
はじめに頭に浮かんだ“推し”とあなた。どこか似ていると感じたことはありませんか?