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挑戦の系譜

青色レーザーの切れ味

青色レーザーの切れ味01

2015年冬、高輝度青色レーザー装置「ブルーインパクト」が、
国内の高い技術を評価する“超”モノづくり部品大賞を受賞した。
レーザー加工分野をはじめとする多くの産業の発展に寄与すると期待されるその装置の開発には、ある“新人”の着想と島津製作所デバイス部が長年培ってきた技術の蓄積があった。

凝りすぎた図面

「どんくさいなあ」
2013年、島津製作所デバイス部センサ・デバイスビジネスユニットで、そんな声が聞こえてきた。
「そうですかねぇ…」
設計を行った同ユニット課長の齊川次郎は、そう言って頭をかいた。1年後、その図面が大きな反響を呼ぶ製品になるとはまだ誰も気づいていなかった。
齊川は中途採用の当時主任。長く国の研究機関に身を置き、さまざまな波長のレーザーの発生方法の研究を続けてきた。だが不惑を前にして、基礎研究に飽きたらず、蓄えた知識を活かしたレーザーデバイスを世に送り出したいと島津に移ってきた変わり種だ。その齊川が初めて一から手がけたのが、後に「ブルーインパクト」の商品名で売り出されることになる高輝度青色レーザー装置だった。必要な機能を組み込んで意気揚々と図面を描き上げたが、研究一筋だったために、性能を求め凝りすぎたあまり、お客様に提供するための製品化という視点が欠けていたのだ。「どんくさい」とは、その大切な視点に気づいてほしい上司の愛のムチだった。

新たな市場への挑戦

レーザーデバイスは、レーザー加工機や照明、ディスプレイ、医療・医用機器、固体レーザー励起用光源・理化学研究など、モノづくりには欠かせない“道具”だ。島津製作所デバイス部の主力商品の一つで、測定機器向けにさまざまなレーザー光源や波長変換装置を供給し、社内外から定評を得ていた。2012年、新しい市場を開拓できないか、という動きが部内で持ち上がった。そこで齊川が開発を任されたのがブルーインパクトだった。
新しい市場として目を付けたのはレーザー加工用の次世代レーザー市場だ。レーザー加工は、切削に比べて切断面の摩耗や劣化を防げるだけでなく、スポットサイズ(レーザー光の直径)を絞ることで肉眼では確認が難しいミクロサイズの加工もできる。そのため年々回路が小型化されている半導体LSI製造工程をはじめ、微細加工が必要な場面で存在感を増してきた。もっとも、これまで使われてきたレーザー光の多くは赤外光。鉄やステンレスは難なく加工できるが、電子回路の設計に必要な金や銅など“赤っぽい”金属へ照射してもほとんど吸収されないため、高出力化しないかぎり加工が難しかった。一方、青色レーザーは、金や銅に対する吸収率が一桁以上も高い。そこに注目した。
だが問題があった。一般に青色半導体レーザーは単体での出力が限られ、高出力化とともに発光サイズが大きくなり、スポットサイズを絞ったまま高出力化するのが難しいのだ。もし、この問題を解決できれば、半導体業界はもとより、微細加工が求められるさまざまな産業に大きく貢献できる。
そのために選んだのが、青色に発光する光源を複数用意し、発せられた光をレンズに通すことで光ファイバーに集めるコンバイニングという方式だ。光ファイバーからレーザーを出力させることで、取り回しが良くなるだけでなく、ユニット化していくつもつなぎ合わせていくことで、レーザー出力も容易に高められる。

青色レーザーの切れ味02

ファイバ結合型高輝度青色ダイレクトダイオードレーザ

「ここならできる」

難しい開発だが、齊川にはすでに算段がついていた。心強い味方がいたのだ。
「デバイス部には、要素技術の専門家が集まっています。オプティクスのコーティングならあの人、レーザー組立てノウハウならあの人、電気、メカ…と、廊下を歩いているとまるで高い技術力を誇る日本の町工場街にいるような雰囲気があるんです。入社当時は『社内にこんなところがあるんだ』とびっくりしたものです。信頼関係も深く、プロの彼らに協力を仰げば必ず実現できる、という強い思いがありました。今回の開発が成功したのは東條課長、渡辺課長、石垣主任、宇野主任、廣木副主任、坂本君といったメンバーがいたからこそでした」
かくして要素技術を集め、度重なるダメ出しを乗り越えて設計図が完成。翌2013年に製品化のゴーサインが出た。

困りごとの解決に役立てたい

プロジェクト開始から2年。島津デバイス部の技術を結集し、青色レーザー装置「ブルーインパクト」が完成した。青色で高輝度、高効率というコンセプトに注目が集まり、発売以来、問い合わせが後を絶たない。2015年には優れた技術と産業に与える波及効果が評価され、日刊工業新聞社・モノづくり日本会議が主催する2015年度 “超”モノづくり部品大賞の最高賞を受賞した。
「どこまで受け入れてもらえるのか半信半疑でしたが、うれしいことに、さまざまな企業様からご注文をいただいています。ゆくゆくはもっと身近なレーザーデバイスを作って、世界のモノづくりの現場の困りごとを一つでも多く解消していきたいですね」
最新のレーザー技術の知見が加わり、デバイス部の開発力は一段と高まっている。

青色レーザーの切れ味03

デバイス部 センサ・デバイスビジネスユニット
課長 博士(理学) 齊川 次郎